06 刀と大槌
「よいしょっと」
泉の水がユーリの口に注がれる。
「ゴホッゴホッ、あれ?」
「ユーが生き返った! よかったよ~」
「ラルカ……っ無事か!?」
「うん、ピンピンしてるよ!」
『与えるもの』が発現してから不幸に見舞われ続けたユーリだが、この時だけはスキルに感謝していた。
ラルカの無事を確認後、自身に問題ないことも確認すると、早速街を目指すことになる。
オルトロスの居ないダンジョン脱出は簡単だった。
時々ゴブリンが襲ってきたが、堅牢さを取り戻したラルカとユーリの相手ではなかった。
道中、ラルカの堅牢さをもう一度借りられないか実験を行ったところ、成功。
どうやらラルカとユーリを繋ぐ鎖が、力の移行を可能としているようだ。ただしユーリからラルカへは『与えるもの』でしか移行が出来なかった。
▽
▼
追放されてから丸一日が経過した昼。
やっとギルドに到着した。
「ギルマス。依頼の報告をしたい」
「おぉ、ユーリじゃねぇか! っと、そこの嬢ちゃんは?」
「わっちはラルカだよ! よろしくね! ツルピカのおっちゃん!」
「がっはは! 威勢のいい嬢ちゃんだ」
豪快な笑い声を響かせるギルマスが続ける。
「そういやどうだった? 冒険者もいいもんだろ? 勇者になれなくたってお前ならやっていけるさ」
「俺は勇者を諦めてないよ」
「そうだよ! ユーを勇者にするの!」
「おいおい、さすがに強スキルなしじゃ無理だぜ。初代から今まで、勇者は全員強スキル持ちだったはずだろ?」
「ああ、だから俺が例外になる。実績を積み上げて国に認めさせるんだ」
「勇者オタクもここまでいけば立派なもんだ。無理だとは思うができる限り協力してやるよ」
ギルマスは嬉しそうに親指をグッと立てて見せる
「で、ゴブリン討伐の査定だな」
「それと西のダンジョンにオルトロスが出た」
楽しそうな表情を一変させ、ユーリを睨み付けるギルマス。
「笑えねぇ冗談だ」
「冗談じゃない、が証拠もない。ラルカも出会っているから証言合わせで確認してくれ」
物的証拠がない場合、複数人から証言を取り確認する。
それが証言合わせだ。
「駄目だな。信用ありきの証言合わせだ。初見の嬢ちゃんの証言はあてにならねぇ。オルトロスってのも問題だ」
少し間をおいて「仕方ないか」とユーリは残念そうにつぶやく。
「だが、調査隊を送って現物確認すればなんとかなる。問題はオルトロスに殺されない人選だな」
「オルトロスなら倒したよ」
再び鋭い眼光がユーリを突き刺す。
「知ってるか? 金に困ったヤツは見境なしに嘘をつくんだ」
「そんな!」
「オルトロスを弱スキルの子供が倒しました。なんて報告で調査隊はだせん」
「ユーは嘘ついてないよ!」
「だからよ、ツルピカのおっちゃんが行ってやる」
さすがに信じきれないギルマスだが、ユーリを信じたい気持ちもある。
「嘘ならゲンコツ一発だからな」
「いいよ。本当だったら?」
「半年間、寝泊まりと食事に困らない金が手に入る」
ハッキリとした数字ではないが、ユーリは金欠から解放されるようだ。
ギルマスはオルトロスの死体場所を聞き取り、ゴブリンの査定・換金を行う。
ラルカについても聞いたが、それらしい捜索願も、見覚えもないそうだった。
「それじゃ、行ってくるわ。明日には帰る」
必要な処理を終えたギルマスは、受付を交代し早速西のダンジョンへ向かった。
「これなに?」
大人しくしていたラルカが銅貨を手にする。
「お金だよ。欲しいものと交換できるんだ。そうだな……次の依頼に向けて買い物にでもいくか」
▽
▼
「わー! 人がいっぱいだねー!」
「これでも少ない時間帯だよ」
「ユー! これ美味しい!」
ラルカが真っ赤なリンゴにかぶりつき、顎から果汁を滴らせる。
「嬢ちゃん、食う前に金を払おうな」
「払います! す、すみません!」
ユーリは慌てて謝罪する。
詫びの意味を込めてリンゴを3つほど購入。
ちなみにリンゴは、過去に異世界人が持ち込んだと言われている果実だ。
「ラルカ、店の物を勝手に食べちゃだめなんだよ……」
小言を口にしながらユーリが振り返ると、少し先の店でラルカは嬉しそうにパンを頬張っていた。
「お金、たりるかな。はは」
ユーリの乾いた笑い声は商店街の活気にかき消されていった。
「ごめんねユー。食べるにはお金がいるんだね」
世の中の仕組みを知ったラルカは反省中。
「まあ、どうせ腹ごしらえは必要だったし。勉強代だな。もう一個リンゴ食べる?」
「食べる! 次は何するの?」
「次は装備だ」と指差した先には、剣と盾が描かれた古い看板があった。
お行儀よくならんでいる綺麗な剣や防具には目もくれず、不機嫌な面持ちの店主に近づくユーリ。
「見繕ってくれますか?」
「適当に選んで金おいて帰れ」
「ヒゲのおっちゃん怒ってるの?」
無愛想な店主の機嫌を確認するラルカ。
「ちがうよ。お客を選んでるんだ」
「ん? なんだユーリか」
ユーリと認識した店主の表情からは、不快感が取り除かれる。
「見繕ってくれますか?」
「三日前に短剣を買ったところだろうが」
「すみません。オルトロス相手にダメにしちゃいました」
目を真ん丸にする店主。
「オルトロスとやりあったのか!? なんで生きてる!?」
「店主の短剣のお陰です。目を切り裂きなんとか倒しました」
「そうか……」
「でも、すっごい硬かったから身体は切れなかったんだよ!」
「ちょっと待ってろ」
ぶっきらぼうに放った言葉でユーリを足止めし、奥から何かを持ってくる。
「コイツをつかえ」
カウンターに置かれたのは柄の長い刀。
両腕の筋力を効率よく伝えるために長いのだろう。
片刃の反りもユーリの腕力に配慮した完璧な選定だ。
「わー、綺麗な剣だねー」
「俺の最高傑作だ。コイツなら使い手次第でA級にだって通用する、と思っている」
「すごいし、欲しいけど……お金が」
恥ずかしそうにユーリは指で輪っかを作ってみせた。
「オルトロス討伐報酬の半分程度だ。損はさせん」
「まだお金もらってないんだよ」
「ギルマスに請求しておくから心配すんな」
「おっちゃんは嘘だって言わないの?」
「嘘なのか?」
「本当だよ!」
「ならいいじゃねぇか。刀の他にもコイツらまとめて持っていけ」
店主は二人分の装備をカウンターに置く。
ラルカには大盾をあてがわれた。
「大盾は必要ないかな。ラルカは岩より硬いんだ」
後ろに控えるラルカは反り返るほど胸を張っている。
「そうか、なら大槌だな。持てるか?」
そう言って引っ張り出してきたのは、いわゆるハンマーだ。
ラルカの硬さに大槌の重さがあれば、大抵の攻撃を受け止め、カウンターからの圧殺が容易になると店主は考えた。
「持てたよ! かっこいいー!」
パワー系のスキルもあるのだろうか、ラルカは簡単に持ち上げてみせた。
「気に入ったみたいだな。オルトロスの報酬はまるっきり持っていかれそうだ」
「まいどあり」
「ヒゲのおっちゃん! この鎖知ってる?」
新知識に飢えたラルカは目を爛々と輝かせる。
「なんだ? ただの鎖じゃないのか?」
「んーん、切れないし取れないの」
「俺の全力でも傷ひとつつかなかったんだ」
「どれ、……見た目は鉄だな。となるとスキルの付与でもされてんじゃねぇか?」
店主は「俺の専門外だ」と言って、店の奥に去っていった。
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