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05 オルトロス


「オル、トロス」



 逃げられない。



 地を蹴り、駆け出したオルトロスの体躯がラルカを弾き飛ばす。


 全く反応できなかったラルカは壁に打ち付けられ、鎖で繋がれたユーリも続いて飛ばされた。



「うぐっ……」


「ユー、大丈夫? もー許さないから!」



 かなりの衝撃を受けたはずのラルカだが、怒りをあらわにオルトロスへと向き直る。



「速い。この状況で逃げるのは無理だな」


「行くよ!」





 ラルカが動き出すと同時。糸を引いた大口が小さな体躯にかぶりついた。



「ラルカ!」


「だい、じょうぶ!」





 異常。



 少し前からユーリは違和感を感じていた。


 オルトロスに噛みつかれ大丈夫なはずがない。


 しかし、目の前の少女の身体を鋭利な歯が貫けていないのもまた事実。



 ユーリは一つの可能性にたどり着く。



 ――――強スキル『堅牢』




「ラルカこれで目を狙え!」



 ユーリは『与えるもの』で自前のナイフをラルカに与えた。


 ナイフを構えるラルカ。


 なんとか噛み砕こうと顎を持ち上げるオルトロス。



「いまっ!」



 ラルカは真下にナイフを投げる。


 



 小さいがよく研がれたナイフは眼球めがけて宙を駆ける。





「グルロォォォオオ!!!!」





 堪らず声をあげるオルトロスがラルカを解放する。




「まだだ!」



 呻き声をあげるオルトロスの頭が下がった。




 これは僥倖とユーリは追い討ちをかける。




 追撃を嫌った黒い前足はユーリの妨害を狙う。



「ぐっ、こんのっ!」




 黒い前足はユーリの歩みを止めたが、既にユーリは目的を果たした。


 投げた剣はオルトロスの眼球をとらえている。




「グルォォォオオ!!!!」



「ラルカ逃げるぞ!」



「え? うん!」




 四つのうち潰れた二つの右目の死角から逃亡をはかる。


 一切の油断無く、全速力で走った。






 ――――逃がすものか。



 怒れるB級は即座に人間の居場所を特定し、広がった間合いを一瞬で詰める。


 驚いた表情の人間をB級は憎しみを込めて踏み潰した。




 容赦なく。




 何度も。




 執拗に。







 ――――殺した。確実に。




 そう確信をもって攻撃の手を緩めたB級の眼前には、傷ひとつない人間の男がいた。





「どう、なってるんだ? 痛くも痒くもない」



 オルトロスが迫ったとき、ユーリは絶望を見た。そして、無惨に潰される自身をイメージしたとき頭に浮かんだ。




 ラルカほどの防御力があればと。




 結果として一切のダメージを受けず、オルトロスの攻撃を凌ぎきっている。




「ラルカ、俺。本当に勇者になれるかも知れない」



 期待を込めて振り返ったユーリ。その目に写ったのは傷を負った少女の姿だった。



 瓦礫の一部が凶器となってラルカの腹部にめり込んでいる。



 オルトロスの牙でさえ傷つかなかった身体が、ただの瓦礫で致命傷を負っていたのだ。



「やった、ね。ユー」


「グルォオオ!!」



 動揺するユーリに構うことなくオルトロスが襲いかかる。



「ッ! すぐ終わらせる」



 ユーリは向き直る。


 相変わらずオルトロスの攻撃は速くて見えない。しかし、もう見る必要もない。




 ガッ!!!!


 鋭利な牙がユーリを捉えるも、鋼鉄と化した肌は侵入を許さない。



「弱いところばかりで悪いが」



 攻撃を受けながら淡々と眼球を潰すユーリ。


 視界を失ったオルトロスは、なおも攻撃を緩めない。



「硬いってことは素手の方がいいか」



 一旦距離をとったオルトロスが、全力の突進を繰り出す。


 タイミングを合わせるユーリ。




「ここォ!」





 ドッ!!!!




 オルトロスの急所に硬い拳が突き刺さる。互いの全体重が乗った渾身のカウンター。


 あまりの重みにユーリの足が地を割り、沈む。



「ッグルァッッッ!!」



「ラルカ!」



 力なく倒れ込むオルトロスに目もくれず、ラルカへ駆け寄るユーリ。



「大丈夫、大丈夫だからな!」

「ユー、なんで泣いてるの?」

「喋るな。泉まで連れていく」


 傷は深い。間に合うはずがない。頭で分かっていても諦められない。


「もういいよ。話がしたいな」



 少しの沈黙。



「なんで泣いてるの?」

「……情けないんだ。勇者になれると思ったのに、俺を救ってくれたラルカを! 助けられない!」

「へんなの。やったのは、魔物……だよ」

「でも、力を奪ったのは俺だ」



 『与えるもの』を持つ自分が奪ってしまった。

 酷い皮肉だと心を痛めるユーリに、ラルカは力のない笑顔をみせる。



 ふと、ユーリの涙が止まる。



 希望を見据え顔をあげた。




「そうか、『与えるもの』だ!」



 ラルカに手を当てスキルを発動する。



「俺の体力と、生命力。そして、奪ったものをラルカへ!」



 ユーリの手から光が溢れ、ラルカは次第に生気を取り戻す。


 ゆっくりと身体を起こすラルカを見て、安堵を浮かべたユーリはゆっくりと意識を手放した。



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