04 宝物庫
約束を交わしたラルカとユーリはダンジョンを脱出しようと彷徨っていた。
整然とした風景とは打って変わって、ダンジョンは暗い洞窟へと表情を変えている。
(まずいな、左腕の感覚が無くなってきた。それに食料もない。腹が空きすぎて痛い)
「ユー、大丈夫? すごい汗だよ」
「あぁ、ラルカこそお腹空いてないか?」
「平気だよ! あっ、あの青いのなに?」
ラルカが指をさした先で、壁がうっすらと青白く光っている。
「おもしろそう! みてくる!」
「ラルカ、あんまり離れちゃ」
好奇心を抑えられないラルカは腕を振りズンズン進んでいく。
繋がれた鎖に引っ張られる形で、痛みを堪えながらユーは駆けよる。
追い付き足を止めたユーリの眼前には青く発光する泉があった。
頭上はゴツゴツとした土で覆われている。
「壁から浸透した地下水かな? ちょっと待ってて」
手をおわん状にしたユーリは、水を持ち上げ口へと運ぶ。
「おいしい。それに腕の痛みも少しひいた気がする」
「なになに? ラルカも飲んでいい?」
「いいよ。たぶん癒しの泉だ」
許可がでるやいなや泉に顔をつけ、喉をならすラルカ。
花の髪飾りが美しく水面に写る。
「ぷっはぁ! 癒しの泉ってなに?」
「この本に書かれてたんだけど」
ユーリは『新・勇者冒険譚』を取り出す。
「ダンジョンには、通常踏み入れられないエリアがあって、深部にある泉を飲むとケガを癒し体力を回復するって書いてある」
「ほれがこの泉ってころ?」
「実際、痛みは引いたし、青く光るって特徴も一致する。間違いないと思う」
「へぇ~そんなんら~。ひっく」
「ラルカ?」
「なに~? あれぇユーなんで三人もいるの? へんなの~」
「酔ってるのか? 本にそんな効果は書いてないんだけど」
「うぃ~、なんらか楽しくなってきらぞ~」
そう言ってダンジョンを包容するようにラルカは倒れ、眠った。
「おーい、完全に寝てるな。仕方ない……って重っ」
移動のためラルカを抱えようとするが、とても持ち上げられない重さにユーリは音をあげる。
「最近の子供は成長が早いな~。とりあえずここで休憩するか」
自らが子供であることを忘れたかのような口振りのユーリは、泉を飲みながら体力の回復をはかる。
ユーリが寝た頃、ダンジョンの外は夜を迎えた。
▽
▼
七時間ほど経過した頃。
目を覚ましたラルカへ声がかかる。
「大丈夫?」
「ふわぁ~なにが? もたもたしてないで街へいこっ!」
「……まあいいか。腕も治ったし行こう」
倒れたことを覚えていない様子のラルカに、呆れるユーリは完治した左腕を回してみせる。
泉の水を持ち運びたかったが、泉から離れると光を失い癒しの効果が無くなるようなので、諦めて歩を進めた。
▽
▼
「さて、どうやって上るか」
オルトロスに襲われた時に、自身が落ちた穴を見つめながらユーリが呟く。
「癒しの泉があるってことは、普通に歩いても出口にたどり着かない構造になっているはず」
そう仮説をたてたユーリは、穴から元のエリアに戻ろうと頭を捻る。
「ぐんってジャンプしてみる!」
「さ、さすがに届かないんじゃないかな」
穴は足元から五メートル程の高さにある。
ぴょんぴょんと跳ねるラルカだったが、頭に咲いた花が揺れるだけで届く気配はない。
「他に出口ないのかなー?」
「正直考えにく、あっ」
ユーリは気づく。
オルトロス――――調査済みダンジョンにいるはずのない魔物がなぜ現れたのか。
オルトロスの出現という不自然な事象は、このエリアの存在で説明がつく。
「ラルカ、ナイスだ。きっとあるよ、もうひとつの出口」
「ほんとに!? ねぇねぇ! なんで分かったの?」
知りたがりラルカの質問に、ユーリが答えようとしたその時。
「ギィ!」
「ラルカ! 伏せろ!」
暗闇からゴブリンが現れ、その手に握られたこん棒はラルカの頭部を狙う。
しかし、その場にしゃがんだラルカはゴブリンの一撃を紙一重で躱した。
「わっ! あぶないっ!」
「下がって! 俺が倒す」
「やっつけていいの? なら、わっちも戦う!」
ラルカは綺麗な髪飾りを揺らし戦闘態勢をとる。その構えは素人のものとは思えないほどに隙がない。
「ラルカ、いったい君は」
「かくごー!」
「ギャギャ、ギッ、ギィ」
ゴブリンに振り回されたこん棒はむなしく空を切る。
ガッッッッ!!
鈍い音とともに白く細い腕がゴブリンの額へめり込んだ。
脳へ深刻なダメージ与えられたゴブリンは一撃で動かなくなった。
ユーリも8歳でゴブリンを倒した経験がある。
しかし、ギリギリ倒せる程度で、ラルカのように圧倒はしていなかった。
「すごいな、誰かに戦いを教わったの?」
「わかんない! わっち強い?」
「強いなんてもんじゃないぞ。――あれ、髪飾りが汚れてる」
真っ白だった花の髪飾りが少し汚れたように見えたユーリ。拭き取っても元の美しさには戻らない。
「綺麗だったのに残念だ。街へ行けばなんとかなるかな」
「別にいいよ! わっち見えないし!」
「そうか? なら良いんだけど」
疑問を残したままユーリは、ゴブリンの右耳を切り取る。
「うぇ、なんで耳取るの?」
「討伐の証拠として持ち帰るんだよ。これがないとお金が貰えないんだ」
「へ~、わっちの耳も取る?」
「え、遠慮しておくよ」
天然なのか常識がないのか、ラルカの言葉にユーリはたじろぎながら剥ぎ取りを終え、もうひとつの出口探しを始めた。
「ねぇねぇ! そういえばユーが勇者になったら、わっちの記憶を戻してくれるんだよね?」
「そのつもりだよ」
出口を探しているとラルカが思い出したように質問を繰り出す。
「どうやって戻すの? 勇者はなんでもできるの?」
「宝物庫だよ。勇者になると宝物庫から国宝をひとつ貰えるんだけど、その中に『記憶の器』って言うのがあるんだ」
「記憶戻りそうな名前だね!」
「うん、どんな効力があるかはわからないけど、試してみる価値はあるだろ?」
「他にはどんな、こくほーがあるの?」
「『青い果実』とか『略奪の約束』『悪の華』いろいろあるみたいだよ」
「全部すごい力があるの?」
「あるよ。詳細は全く書いてないけど」
残念そうに肩を落とすラルカ。
しかし、今まで宝物庫の存在すら明かされていなかったことを考えれば、新・勇者冒険譚は快挙を成し遂げたと言えるだろう。
「まあ、勇者になれなきゃ一生関わることもないけどね」
「わっちがぜったい勇者にしてあげる!」
「よっぽど、記憶を取り戻したいんだね」
「うん、大事なことを忘れてる気がするの。とっても大事なこと……それに! 新しいこと覚えるのすっごく楽しいの!」
「はは、頑張るよ」
▽
▼
出口を探して一時間が経過する頃、ユーリたちは広間で立ち止まる。
「あった」
「はゃ~、大きいねぇ~」
二人の前に高さ五メートル程の半円の穴が広がっている。
オルトロスが使ったであろう、通常エリアへとつながるもうひとつの出口。
「なんとか希望は繋がったな、よし行こう」
「――ダメ。なにかいる」
ラルカがユーリを制止する。
ズン……ズン……。
穴の向こう側から何かが、威圧感を連れて近づいてくる。
身に覚えのある威圧感に戦慄するユーリ。
暗闇から現れ、立ちはだかったのは、二つの頭を持つ真っ黒な魔物だった。
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