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03 囚われの銀髪少女


「どうしてもう金がないんだ!」



 ユーリがダンジョンへ向かった三日後。


 領主邸に一人、疑問と怒りが混ざった感情に振り回される男がいた。


 ゴウは新スキル発見の報酬を手にしたが、既に半分を消費してしまったようだ。


 ゴウの執事が足早に近づき口を開く。



「ご報告いたします。財源激減の原因が判明いたしました」


「遅いぞ! 無能が!」


「申し訳ありません。関税による収入減。ギルドへの各種依頼料金の値上げによる支出増。大きく二つの原因を確認しました」


「なぜだ! 関税は先日まで上り調子だったではないか!」


「魔物による街道被害が原因となっています。E級の魔物が発生し商人たちは移動を控えているようです」


「ギルドに討伐を依頼すれば」



 ゴウはハッとする。



「はい、二つ目の原因です。冒険者ギルドが依頼の請け負い料金を相場に引き上げたのです。その……ユーリ様がいないなら贔屓する義理はないと申しております」



 ユーリのファンは儀式の後、激怒していた。


 身を削り戦う少年の前途を祝しに集まったファンたちが目にしたのは、不幸の底に叩き落とされるユーリの姿だったからだ。


 結果、ゴウはギルドに依頼することすらままならない状況となる。



「ユーリだと!? なぜあいつの名前がでてくる?」


「ユーリ様はギルドで手が足りないときなど、安価で依頼を請け負っていたようです」


「……」


「また、お優しい人柄に惹かれるものが多く、ギルド全体でユーリ様を助けようと、価格が引き下げられていたためです」


「そ、そんな。本当に破産するぞ」



 実損が見え初めてユーリの行動を理解するがもう遅い。自ら追放した後だ。



「お前はクビだ」


「へ?」


「辞めろと言ったんだ。お前だけではない、使用人全員だ」



 血が抜けたように執事の顔が青ざめる。



「そ、そんな困ります! 私たちにも生活がっ」


「黙れ! 金がないんだ! 当然今月分の給料も無しだ! これ以上食い下がるなら俺の領に住むことも許さん!」


「――っ! し、失礼します」



 言いたいことを残したまま退室した執事の目には困惑と怒りが映っていた。


 ゴウは真剣な表情で黄金の杯をあおる。



「逃げられると思うなよユーリ」




 ▽

 ▼



「うっ、ここは?」



 ユーリが痛みで目を覚ますとオルトロスの気配は消えている。どうやら難を逃れたようだ。


 辺りを見渡すとやけに整った床や壁が目にはいる、オルトロスにいたぶられたダンジョンとは様子が違う。


 太い柱が均等に並ぶ道の先へ視線を向けると扉が1枚見えた。



「進んでみるか」



 脱出したいが道が分からない。ユーリは仕方なく歩を進める。


 一歩進むたび左腕に痛みが走る。オルトロスの一撃で折れたようだ。


 痛みを堪えながら歩き続けると扉へたどり着いた。



「頼むから帰り道であってくれ」



 ユーリの想いを嘲笑うかのように扉の先は行き止まりの大きな部屋。


 中心には人影が見える。


 鎖で壁と繋がれている八歳ほどの少女。


 銀髪の上に咲く花の髪飾りが揺れ、その白く美しい髪飾りの持ち主が間の抜けた声をあげる。



「ん?……くぁ~……あれ、だぁれ?」



 少女は大きな欠伸の後、ユーリに気づきジロジロと観察する。


 美しい銀髪と髪飾りに目を奪われていたユーリだったが、ふと我に返り少女について質問をなげた。



「俺はユーリ。君は?」


「わっちの名前? えーと……ラルカだったかな?」


「? まあ、いいか。ラルカ、君はどうして繋がれているんだ?」


「んー、わかんない」



 ユーリは一瞬繋がれている理由を考えたが、危険なダンジョンに幼いラルカを放置できない。



「そうか――――なら俺と一緒に街へ帰らないか?」


「いいの? 目が覚めてからずーっと暇だったんだ!」


「じゃあ、決まりだね」




 ガキィン……ガキィン……


 二人だけの部屋に金属音が響く。

 同時にユーリの折れた左腕にも痛みが響く。


 鎖を切ろうと何度も剣を振り下ろすが傷ひとつ付かない。しかし、剣もまた刃こぼれひとつしていない。



「びくともしない……特殊な力で護られているみたいだ」


「ねぇねぇ、ユーリは何でここに来たの?」


「俺は、金を稼ぐためだよ。勇者になれなかったから」



 寂しそうに下を向くユーリに構うことなく質問が

飛ぶ。



「勇者ってなぁに?」


「弱い人を助ける勇気の持ち主のことさ」


「ふーん。勇者になりたかったの?」


「あぁ、子供の頃から勇者が大好きでね。――きっかけは初代勇者の絵本でさ、相棒ゴーレムと魔物をばったばったと」



 ユーリの勇者スイッチが入った。


 初代から始まり、五代目の元父親の話まで左腕の痛みも忘れて延々と語り、ラルカは「うんうん」と興味津々に聞いていた。



「ユーリって物知りなんだねー!」


「勇者に関しては誰にも負けないよ! ラルカは好きなものないの?」


「わっちは、何にもない。何も覚えてないの」


「記憶がないってこと?」


「うん。そうみたい。わっちは誰なんだろ? ここで何してたんだろ?」



 ほとんど記憶のないラルカは、自分の存在に興味を向ける。


 正直ラルカと言う名前も自分のものか定かではない。


 ラルカの心からわき出る欲求は一つ。


 自分のことを。

 世界のことを。

 もっともっと。



「知りたい」



 ラルカのこぼした一言を聞いたユーリは、記憶をなくしたラルカの気持ちを想像する。


 不幸の連続に見舞われ、身も心もボロボロのユーリに浮かんだ言葉は――――助けになりたい、だった。



「街へ行けばラルカを知ってる人がいるかもしれない」


「それって最高! でも勇者の話の続きも聞きたいな!」


「ほんとに!?」



 まさかの申し出に身を乗り出すユーリ。



「うん! おもしろいもん! わっちは初代が1番好き!」


「だよね! みんなは剣を使う3代目推しなんだけど、ラルカは分かってくれたか! ……俺も初代みたいな優しい勇者になりたかったなぁ」


「ユーリならなれるよ!」


「ダメさ。戦闘センスと強いスキルがないと勇者として認めてもらえないから」


「? へんなのー、弱い人を助けるのが勇者なんでしょ? わっちは嬉しかったよ。ユーリが来てくれて」



「あ、ありがとう」


「やっぱりユーリってへん! わっちが助けて貰ってるのに」



 ラルカは目を細めてキャキャっと笑う。


 スキルさえあればラルカを救えたのかなと、想像したユーリは1つの可能性に気づく。



「そうだ! スキルなら!」


「え、なになに!」



 ユーリは鎖に繋がれた壁に右手をあてがいスキルを発動させる。




 ――――『与えるもの』




 ユーリの右手が輝く。と同時に壁に繋がれた鎖がユーリの右手首へ移り腕輪となった。



「やった! 成功だ!」



 ユーリは自らの『自由』を壁に与えたのだ。



「わ! なにが起きたの? わっちとユーが繋がっちゃったよ?」


「……しまった」



 自由を与えることで、自身の自由がなくなるとユーリは予想をしていたが、対象を壁にしてはラルカは解放されない。



「でも、この鎖延びるぞ」



 一メートルほどの長さだった鎖が二人の距離に合わせて十メートル程度まで伸びる。



「不思議な鎖だ。拘束を目的に作られていないのか?」



 今度はラルカに自由を与えようとしたが、すでに自由ではなくなったユーリに鎖が移ることはなかった。



「街へ行けばなんとかなるかもしれない。ここに繋がれるよりずっと良い。――って、ユー?」


「めんどくさいからユーリのリを無くしたの! 偉いでしょ」



 胸をはり「えっへん」と言わんばかりのドヤ顔を見せつける。



「そ、そうだね。なんでもいいよ。ありがとう、ラルカ」


「またユーが変だ! 助けてくれたのユーなのに」



 ラルカはクルクルと踊りおどけてみせる。


 ゴミと呼ばれたスキルで人を助けたユーリの目に涙が浮かぶ。



「やっぱりユーは勇者になれるよ!」


 その言葉にユーリは再び夢をみてしまう。人を想い、人を助ける者になる夢を。



「ラルカ……もし、もしも俺が勇者になれたら、君の記憶を戻してあげるよ」


「ほんとに!? じゃあ、わっちがユーを勇者してあげる! 約束ね!」



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