14 最悪のシナリオ
「ラルカが……魔王だった?」
衝撃的な記憶を見せられたユーリはショックのあまり武器を落とす。
目が虚ろぎ思考が混乱する。
むなしく金属音が鳴り響くなか、ゴウの口が開く。
「お前が観た記憶は本物だ。この黄金の杯――――『記憶の器』は過去の記憶をみることができる」
ユーリとラルカが求めた『記憶の器』はゴウが選択していた。
宝物庫の品が規格外であることを身をもって知るユーリは、見せられた記憶を疑うことさえ出来ない。
「魔王を捕らえたとなれば、間違いなくお前は勇者になれる。逆に放置すれば反逆者とされてもおかしくない」
ユーリの心を揺さぶろうとゴウは甘言と脅迫を浴びせる。
しかし、混乱のなかユーリが最も恐れたのはラルカの暴走だった。
もし、ラルカがチャンスをうかがっていたら?
もし、記憶を取り戻したら?
いつ、魔王に戻るのか、既に戻っているのか、危険性に思考がめぐる。
同時に夢を後押ししてくれたラルカ、共に旅をしたラルカと戦いたくないという感情も芽生える。
相反する思考は何度も何度もユーリの脳内で反芻する。
答えはでない。
「俺は、どうすれば」
共存し得ない感情に支配されたユーリへ、更に甘言が吹き込まれる。
「殺さず管理すれば解決だ」
最も簡易で最も愚かな解説策。
したり顔でゴウは続ける。
「帝国にはきっちり報告する。その上で鎖の力を使い管理できることを証明すればいい。国にとって有用だと思わせる」
ラルカを殺さずに済む解決法の提示に、ユーリは揺らいだ。
揺らいでしまった。少しの揺らぎでバランスは崩壊する。
乗ってしまう悪魔の提案に。
「ラルカは殺されずに済むのか?」
「そうだ、鎖の力があれば可能だ。ただし、子供のお前に預けておけるほど帝国も甘くはない」
ゴウは親指を自身の胸に突き立てる。
「六代目勇者――――俺が管理する」
ユーリは即座にラルカ共々「金づるにされる」と考えたが命には変えられない。
「わかった。ラルカの命は必ず保証してくれ」
「親に向かっての言葉づかいがなっていないな」
「か、必ず保証してください」
「はーはっは!! そうだ! それでいい!! 良し、お前らもういいぞ解放してやれ!!」
地形はもとに戻り、同時にユーリの首も解放される。
虚空を見つめるユーリに同じく解放されたラルカが身を寄せる。
「ユー! 大丈夫!? コイツら何なの、ってユーの父親だ!」
「ラルカ…………ごめん」
謝罪の意味が理解できないラルカは疑問を浮かべる。
わかるハズがないのだ。
これから起こる未来のラルカへの謝罪。
「どうしたの? ぐっ」
鎖を通じて体力を奪われたラルカはその場に座り込む。
「どうして、ユー……」
「よし、その鎖を俺に移せ」
「わかり、ました」
鎖に繋がれることをメリットととらえるゴウの右腕に鎖が繋がれる。
同時にユーリの腕から鎖が消え去った。
ユーリのスキルによって。
「おぉぉぉおおおお! 力が漲るぞぉぉおお!」
「無理に奪わないでくれ!!」
「くださいだろ? 心配するな、効果を試しているだけだ。それにしてもこれはこれは……」
いやらしい笑みを浮かべるゴウに近づく三つの影。
「依頼は完了でしょ? 報酬はいただくわ」
とんがり帽子をくいっとあげる女。
フードで顔を隠した男。
はち切れんばかりの筋肉ダルマ。
全てゴウの元仲間だ。
「もちろんだ! だがそのまえにユーリ。お前は帝都に向かえ。そして、勇者になれ。事柄は俺から封書で伝えておく」
「わかりました」
とぼとぼと歩き出すユーリを見送ったあと、懐から少なくない金額を取り出したゴウはとんがり帽子の女に渡す。
「バカの依頼にしてはなかなか美味しかったわ。まったね~」
「誰がバカだ。それより、もっと美味しい話があると言ったら乗るか?」
「……あんたいま悪魔みたいな顔してるわよ。面白そうね、聞かせてくれるかしら」
史上最悪の勇者パーティーは語り合う。
他者の苦しみよりも己の利益。
世界の苦しみよりも己の利益。
最悪の思考から生まれた最悪のシナリオ。
「いいわね! その話、乗ったわ!」
▽
▼
ラルカとゴウが鎖で繋がってから二ヶ月後。
帝都ではパレードが開かれていた。
帝国の軍楽隊が狂ったように明るい曲を演奏する。
民は仕事を忘れ歓喜する。
弱者を救う者の門出。
七代目勇者選定記念パレード。
パレードの中心には勇者――――魔物出現の原因とされてきた魔王捕縛に成功した一人の少年。
この日、ユーリは勇者となった。




