11 追放撤回
「余裕があったら街道守りもおすすめですよ」
「それなら必要ないだろう。街道被害はほとんど俺の軍の仕業だ」
元々街道被害を小さくするために、ユーリたちはやってきたが、どうやら原因から根絶したようだ。
「それと、嬢ちゃんに俺の大槌をやろう」
ラルカの大槌より一回り大きく。打撃面が二種類ある。
「勇者時代に使っていたもんだ、品質は保証するぞ」
「やったねユー! 次は本格的に勇者を目指そう!」
「そうだね」
「お前たち勇者を目指してるのか?」
「正確には俺だけですが、強スキルなしで勇者になるつもりです」
「俺はおすすめせんが、一つアドバイスだ」
「なになに! さいきょーになれるの?」
「勇者に選ばれるには、二つの方法がある」
ダグラスは指を一本立て。
「一つは、群を抜くポテンシャルの高さ。端的に言えば強スキルの獲得と高い身体能力をあわせ持つこと」
「おっちゃんのスキルは強スキルだね! 触っただけで消しちゃうなんて反則だよ!」
「褒め言葉として受けとるぜ? ありがとよ」
二本目の指が立つ。
「もう一つは、魔王関連の実績だ」
「初耳だ。村や街を救い続けるだけじゃダメなんですか?」
「人々からは英雄と呼ばれるだろうが、勇者にはなれんな。国にとって有益な個人に特権を与え、動きやすくするのが勇者制度の目的だからな」
言われてみれば当然だ。
個人を祭り上げるなんて国にメリットがなければあり得ない。
体よく強力な傀儡を手に入れるシステム。
それが勇者なのだ。
「どうだ、勇者になりたくなくなったか?」
「いや、なります。」
「人々を助けたいだけなら英雄で充分だろう」
「宝物庫に用があるんです。ラルカの記憶を取り戻すために」
「『記憶の器』の効力知ってる? わっち、記憶をとりもどしたいの!」
「知ってるぜ。湧き出す液体を飲むと過去の記憶が手に入るはずだ」
「ってことは!」
「わっちの記憶も取り戻せる!」
正直、半信半疑だった二人は飛び上がり、手を繋ぎ小躍りを始めた。
「確信をもって前に進めます。ありがとう。ダグラスさん」
「さんはよしてくれ。ダグラスでいい」
「ありがとう! おっちゃん!」
「おっちゃんもよしてくれ。ダグラスで頼む。あと、お前らを繋いでる鎖も宝物庫の物だぞ」
ユーリの動きが止まる。
ラルカはもう少し踊りたそうな顔をしている。
「まさか」
「恐らくだが『略奪の約束』だ。効力は……繋いだものの力を移行するだったかな」
幾度となくラルカからスキルを奪ったユーリは確信を得る。
「なんで宝物庫の物をわっちが持ってるの?」
「知らん。が二代目勇者によって持ち出されたと記録にあったはずだ。100年以上前の話だがな」
「巡りめぐってラルカに使われていたってことか」
「不思議なことが増えちゃったや」
考え込む二人を一瞥したダグラスは、両手でパンッと仕切り直す。
「さて、勇者になりたいなら魔王に関する実績が必要だ」
我に返った二人は話に続く。
「そうだね!」
「でも魔王は二代目勇者によって封印されたハズだよね?」
「また二代目勇者!」
「あくまでも魔王『関連』の実績だからな。魔王そのものをどうにかする必要はない。『いにしえの魔窟』に潜ってみたらどうだ?」
▽
▼
次なる目標を定めた後、ダグラスに一晩泊めてもらい、二人は依頼の結果を報告しようとギルドを訪れた。
「待っていたぞ」
ギルドにいるはずのない人物がユーリを迎える。
白髪交じりの無精髭を綺麗に剃り落とした男は、鷹のような目付きでユーリを見つめた。
「……父さんなぜここに」
「お前を連れ戻しに来た。ユーリ、我が家へ帰るぞ」
「だれ?」
小首をかしげるラルカに目をやることなく、ゴウを睨み付けながらユーリは答える。
「俺を追放した父だ」
「何を突っ立っている」
「戻らないよ。俺」
ため息を一つつき、ゴウはユーリの耳元でささやく。
「お前がいなくなったせいで金が回らんのだ」
「俺になんの関係があるの? 俺は追放されたんだ。なんの準備もなく、野垂れ死んでもおかしくなかった」
怒りが込み上げ強い論調でユーリは続ける。
「それを今さら困ったから戻れ? あり得ない」
乱暴に踵を返すユーリの腕をゴウが掴む。
「力ずくでも戻ってもらう」
愚かさを極めるゴウに対し、ため息をつくユーリ。
「あんたは本当に力しか取り柄がないらしい」
六代目勇者は戦闘において無敵を誇っていた。
しかし、知性に関してはお粗末なもので、小難しいことはパーティーメンバーに信任。
ただひたすらに目の前の敵を薙ぎ倒した結果、気付けば勇者に選ばれ、あれよあれよと領主となった。
「ユーは勇者になるんだから邪魔しないでよっ」
ラルカが手をほどこうとするが、びくともしない。
ゴウはじっとラルカを見つめる。
「なんだお前は? どこかで……」
少しの間、頭をひねったが思い出せず、話を戻す。
「まあいい、それよりユーリ、お前まだそんなことを言っているのか。ゴミスキルは勇者になれない。お前は家に戻って働け」
「なんでそんな――――」
「子供が親のために働くのは当然だろう? 育ててやった恩を返す必要があるだろう?」
ユーリの腕を離した手はジェスチャーを交えユーリの心を追い詰める。
「誰が服を与えた? 誰が飯を与えた? 誰がベッドを与えた? ――――全て俺だ。お前はずっと俺に生かされていた。俺の金で!」
ユーリに威圧的な指の先が向けられる。
「お前は俺に従う義務がある」
ユーリはうつ向いてしまう。
真っ赤な嘘。ではなく、ある意味では間違ってはいないからだ。
「さあこい!」
ゴウが無抵抗のユーリを引き寄せるがラルカはユーリの手を離さない。
「クソガキがぶっ殺されたいのか?」
ゴウが腰に下げた剣に手を掛ける。
「やめろ! ラルカは関係ないだろ!」
「俺の邪魔をするやつは殺す」
ユーリは知っている。
ゴウのスキルなら『堅牢』すら無視して両断できることを。
刀身をあらわにした剣は、切っ先を天に向け、殺意をもって振り下ろされ――――
「いやー、本当に面白い領主さんだ」
冒険者を引き連れたギルマスが会話に割り込む。
剣は空のみを切り裂き、ラルカの頭上で制止している。
「ギルドマスター風情がなんのようだ?」
「いやぁね。領主殿に挨拶をと思ってね。まあつまり、あんまりふざけたことを抜かすなよってことだ」
ギルマスは額が重なるまで接近し、刺し殺す勢いで視線を送る。
「子供の人生は子供のもんだ。てめぇのケツはてめぇで拭け!」
「お前誰に向かってッ!」
「おっ、殺すか? どうにでもすりゃいい。代わりにギルドで領主の依頼は一切受けん」
魔物の討伐や労働力の要員確保にギルドは必要不可欠。
急所を握られぐうの音も出ないゴウは、ユーリを突飛ばし去り際に一言だけ告げる。
「必ず、後悔させてやる」
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