10 怒り
「エリザは帝国に殺された。俺は世界をエリザの求める世界に作りかえる。帝国のクズどもは新世界に必要ない!」
再びダグラスの手がユーリへ迫る。
巨大な螺旋階段をのぼりながらダグラスの手を回避。
「ちょこまかと!」
「よっと」
ラルカが時折鎖を引っ張るため、ユーリの動きは予想されづらい。
「ラルカ! 前言撤回、ダグラスはここで倒す!」
「おっけー!」
足場は人二人がすれ違える程度、かなり狭い。
落ちればゴブリンの巣窟だというのに、ユーリは跳ね回りダグラスの一撃必殺を躱し続ける。
「何があったか、真実は分からないけどこのままにはしておけない」
初代勇者ならそうすると言わんばかりの表情は勇者のそれだ。
「お前は何も分かっちゃいない!」
急接近。
しかし、ユーリは反応する。
元々勇者候補とされていたユーリは一般人とできが違う。
戦闘中にダグラスの速度に順応していた。
「世界を滅ぼしちゃダメってことくらいは分かるよ。ここぉお!」
ユーリが放った一閃は、ダグラスの右腕の肉を裂いた。
しかし、骨を断てない。
引き抜くことすら許されずダグラスが刀を掴む。
「滅ぼしはしない。エリザの望んだ『素敵な世界』に変えるだけだ」
ユーリの刀は『抹消』された。
「終わりだ」
刀を消し去った手がユーリの顔面へとのびる。
ユーリはとっさに鎖でガードするが「無駄だ」とダグラスはつぶやいた。
「――――なぜだ」
鎖は形を失ってはいなかった。
ユーリは鎖の特異さを感じながらも次の一手を打つ。
「ラルカ空を歩くぞ!」
「わかった!」
ラルカは言葉の意味を理解し跳躍した。
「何をするつもりだ」
「悪いけど俺たちの足場はラルカにあげることにした」
瞬間。
ユーリとダグラスが共有していた足場。螺旋階段の一部が消えた。
否。
ラルカの足場となり転送されたのだ。
「んなっ」
ダグラスはゴブリンの巣窟へ落下。
着地の際、左脚がつぶれたようだ。
右腕は刀傷によって重症。
一方ユーリはラルカと繋がった鎖によってぶら下がっていた。
「ユー重い、はやぐあがっで!」
ゴブリン、ホブゴブリン、オーガ。
鬼達がダグラスを取り囲む。
「ギィギィ」
「俺はこんなところで死なない。必ず世界を正す!」
先に動いたのはダグラスだ。
左手で次々にゴブリンたちを『抹消』する。
「エリザ。約束通り必ず『世界を守る』 クズどもの手から!」
ダグラスは死に物狂いで鬼たちを消し続ける。
「おっちゃん。なんだか可哀想」
「あぁ世界を守り続けていたのにな、最期がこれじゃあな」
「そうじゃなくて、悲しそうなのにずっと怒ってる」
「くそっ! 必ず消してやるからな! 帝国のゴミどもめ!」
周囲へ意識を向けていたダグラスの肩に手がかかる。
「あんたの怒りをもらい受けよう」
ユーリはダグラスに触れ、自らの心の安寧を与える。
「やめろ! 俺の怒りを奪うなぁあ!!」
『与えるもの』はユーリ基準で実行されるのだ。
ユーリが相手にとって必要なものだと本心から思っていれば与えられる。
怒りに幽閉されていたダグラスの心は解放された。
『ダグラス、勇者就任おめでとう!』
『ダグラス、世界を守るあなたを誇りにおもうわ』
『ダグラス、無理をしないでね』
『ダグラス、逃げてもいいのよ』
『ダグラス』
『ダグラス』
『ダグラス、約束して。世界よりも、私よりも、あなた自身を大切にして』
『ダグラス、愛してるわ』
「エリザっ…………エリザぁああ!」
怒りを失ったダグラスの脳内に流れるはエリザの言葉の数々。
二十五年前に怒りに閉じ込められた涙があふれでる。
一方、怒りを肩代わりしたユーリは。
「あぁぁぁああああ!!! 憎い憎い憎い!! 壊したい! ぁぁあああ!!」
「ユー! しっかり!」
ユーリと一緒に底へ降りたラルカが声をかける。
しかし、言葉の欠片も届いてはいない。
暴れるユーリの腕がラルカの黒ずんだ髪飾りを掠める。
「あぶなっ!」
「あがっ、がががっ!」
正気を失ったユーリにゴブリンたちが集まる。
「ユー! ユー! ゴブリン来てるよ!」
ユーリを背に大槌を構えるラルカに勝算はなかった。
一人でなら生き残ることは可能だろう。
しかし、壊れたユーリを守りながらとなると不可能だった。
「や、やばいかも」
「大丈夫だ嬢ちゃん」
パニック寸前のラルカの肩に手が添えられる。
少し前まで恐怖の対象だった手が、慈愛に満ちた手となり安堵を与える。
「上位主は全て俺が『抹消』する。嬢ちゃんは少年を守っていてくれ」
「おっちゃん大丈夫なの?」
「誰を心配してるんだ。俺は五代目勇者だぞ」
「ヴォオオオ!」
オーガの合図で鬼たちが一斉に飛びかかる。
「消えろ」
ダグラスが鬼たちの間を縫うように駆け抜け、すれ違いざまに『抹消』していく。
罪を償うように。
ダグラスの抹消を受けていないオーガ三体とゴブリン五体が、ラルカへ接近する。
森でオーガ二体に苦戦していたラルカに絶望はなかった。
大槌を構えると真っ黒な花の髪飾りが揺れる。
「なんだか今なら勝てる気がするよ!」
鬼たちが動く前にラルカが動く。
数がいると厄介だと考えたラルカはゴブリンを潰す。
先刻に比べ、ラルカのスピードは確実に上がっていた。
「なんだろ、身体が軽い! 速く動ける!」
オーガの拳がラルカに迫る――――が片手で受け止め大槌を振るい潰す。
後はオーガ二体のみだったが背後から現れたダグラスに抹消される。
「うぅううう」
ユーリはいまだ怒りに支配されているが、幾分か表情が柔らかくなっている。
「俺の怒りを乗り越えようとしているのか」
「ユーは勇者になるんだからイライラにも負けないよ!」
「イライラってレベルではないんだがなっ」
迫るゴブリンを蹴散らしながら会話を進める。
「あと一息だ。踏ん張れよ!」
「おっけー!」
一時間後。
辺りにゴブリンはおらず、三つの人影が大の字で寝そべっている。
「おっちゃん強いねー」
「当たり前だ。俺は勇者だぞ」
少し間をおいて、ダグラスは続ける
「だが心の強さは少年の足元にも及ばなさそうだ」
「俺にも勇者に勝るところがあったんだな」
「ユー! もとに戻ったの!?」
ユーリが会話に割って入ったことで、驚きと嬉しさが相まって、ラルカは声を張り上げた。
「あぁ、恐ろしいほどの怒りだったけどね。……ダグラスさん、まだ帝国を襲うつもりですか?」
「いや、エリザが望んでいたのは『素敵な世界』でも復讐でもなかった」
「何を望んでたの? 教えて!」
空気感にそぐわないテンションでラルカが聞くと、ダグラスは微笑み、話を続ける。
「俺の幸せさ。だが、エリザがいない世界では手に入らないんだけどな」
「じゃあ、おっちゃんはこれからどうするの?」
「俺は、俺みたいに権力に苦しむ人たちのために生きる。エリザに顔向けできるように」
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