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やつの目的を俺は知っている

思考を初めて今や深夜。

俺の前世の知識をフル活用することができる。神には正直ムカついているが、まあ助かっている。正直あいつさえ来なければ問題になるようなほど傲慢な性格をしていなかったと思うのだがそれは置いておく。

これからのことは前世知識より推察できることはいくつかある。

1つ目、最初からチートというほどではないこと。

追放するときに少し渋ったのはこれに有ると考える。受け入れたのはやつが日本人だからという理由で片付くか。

2つ目、やつは俺を恨んでいる。

確証はないがだいたいテンプレでは復讐したり間接的に苦労させてざまあさせることが多いからな。妨害とか色々視野に入れたほうがいい。

3つ目、周りからの評価が落ちること。

あっちが主人公なことはわかりきっている。そして主人公の都合が良い方に行くこともな。それを考えれば主人公と敵対しているような俺たちは相対的に落ちていくだろう。俺だけならばいいのだがパーティーメンバーにまでは迷惑をかけたくないのが心情だ。



もうこんなことなら主人公に魔王を任せればいいのでは?どうせ主人公がすでに倒してましたーとか実はそいつは中ボスみたいなやつで主人公が倒したほうが本当のラスボスでしたとか、実は魔王は悪くなくて主人公の仲間にうんぬんかんぬん。あぁ、やりたくない。そもそも最初から反対していたのに流された、というか無理やり行かされただけだし。確かに俺には勇者の才能しか無いよ。勇者やらなかったら他何も出来ないよ。でも、それでもできることとしたいことは別でしょ。

最低限、世間に顔向けできる程度で終わらせたい。


そんなことを考えていた頃、追放された推定主人公な彼は今、けっこうゆっくり町に滞在していた。



あまりにも不安すぎて眠れなかったせいか、涼やかな鳥の囀りがやけに頭に響いて不快な朝を迎えた。

ああ、カーテンから覗く木漏れ日すらも煩わしい。


寝不足の果てに俺はいくつかこれからの行動基準を思いつくことができた。

ひとつ、なるべく目立たないようにする。これは主人公に情報がなるべく渡らないようにするためだ。

ふたつ、なるべく最短で目的を果たす。それはさながら効率厨、もしくはRTAチャレンジをするように。

みっつ、もしものためになるべく媚を売る。勇者引退後の隠居生活を阻害されないため。

と・に・か・く!主人公に後ろからざっくり殺られないために努力しなければならんのだ。

こんな風に頭を悩ませなくてはいけなくなった前の自分を恨むぞ。

髪を乱雑にかき混ぜながら窓を開けて思わず叫んだ。


「こんな窮地になって思い出させた神は死ね!」

「勇者の旅なのにどうしてド○クエにならなかったのよ!」


何故か響いた声は重なり合った。ド○クエとはゲームのアレのことだろうか、この世界にはなかったはずなんだが。


「「は?/え?」」


声のした方を見れば同じように隣の部屋の窓から身を乗り出したパーティーメンバーの一人、王女のミリュイが驚いたように固まっていた。多分俺も同じ表情をしていただろう。

ミリュイ。今は三人に減った俺たちパーティーのうちの一人だ。彼女は勅命を出した国王の娘、つまり姫様である。ゲームでよく姫様が仲間になっていておかしいだろ!って思ったりしていたが、仕方ない。彼女の能力、権力は旅を円滑にすすめるにあたって必要不可欠だ。もし、勇者が貴族やらあれこれの知識がなかったらいなくてはならない存在だろう。やっぱりゲームは間違っていなかった。まあ、普段見ていたおしとやかなあれこれは仮面だったようだが、素を見れたことだしいいだろう。


「えっと、そっちの部屋に行ってもいい?」

先に我に返ったミリュイは普段の王女然とした口調ではない素の様子で言った。


「あ、ああ。大丈夫だ」


しばらくして扉から小さなノックが聞こえたので静かに開けて迎えた。

ここ二部屋周辺は防衛の意味もかめて遮音の結界を張っているので先程叫んでも問題なかったのだが、さすがに中の音までは消せない。というか消すと意思の疎通もできなくなるのでしないという方が正しい。

さらにミリュイの部屋にはまだもうひとりが寝ているので一応気遣って慎重になっていたのだろう。叫び声はいいのかという質問は受け付けない。そこらへんの原理は張った人にしかわからないし、した人は現在、夢の中だ。

 

ミリュイを部屋にもともと備え付けてある小さな応接セットのほうに案内し、自分も向かいに座る。

手持ち無沙汰にティーセットで飲み物を用意しながら相手を伺うも、互いに無言のまま時間は無情にも経過していく。


「「あの!」」


デジャブというやつだろうかさっきもこんなやり取りをした気がする。

同じ失態を繰り返さないためにも間髪入れずに続ける。


「俺からいいか?」


そう聞けばミリュイはゆっくりとうなずいたので俺はお茶を飲んで喉を潤してから始めた。


「ミリュイは知っていたようだし単刀直入に言わせてもらうが、思い出したのは目覚めたさっきだ。俺が決定的にまずいことをやらかしたからそれの対処のために思い出させられたようなものだな。前世を思い出したら前世で能く見たフラグを建てた直後で取り返しがつかない現状に放り出されて途方に暮れるしかないな」


「やっぱり。確信はなかったけど、うっかり口走っただけだけどあの反応は初めて聞いたものに対するものじゃなかったからね。私は幼い頃から記憶を断片的に覚えていたけど、それが自分の過去だって思ったのは実は私もさっきよ。まさかおなじ立場の人がいるとは思わなかったけど。板挟み敵立場になるかと思った」


ミリュイはそう語ると、お茶を飲んで一息をついた。

確認は済んだ。これからは同じ目的を持っているか、または持てるかだがどう切り出したものか。

こっそり来たことを見るにフェールは知らないらしい。

フェールとは最後のメンバーなのだが、まだ寝ているようだし説明はあとに回すといようか。まあ、優秀な魔道士であるとだけ言っておこう。


「色々離したいことは互いに有ると思うが、先に解決しなければならない問題を言わせてくれ。イツキって日本人だよな」


しかも、聞いた年齢的に高校生。

言外に言いたいことが伝わったのだろう。同意するように疲れたようなため息を漏らしながらうなずいた。


「どうしてド○クエのように勇者が主人公になれないんでしょうね」


さっきからミリュイ、ド○クエ多くないか?好きなのか?好きなんだろうな。

まあ、伝わっているようで何より。


「そうだな。俺は主人公にもなりたくないが、イツキがそうだと考えるとこれからの弊害を考えたくもない」


「それには同情しかないね」


「ミリュイもだろ。あれはパーティーメンバーもうっかりしたら同類扱いだ。王族も関係ないぞ」


他人事のように言うミリュイに現実を教えてやれば、わかりやすく目をそらした。


「そ、そ、そういえばこれからはどうするの?旅は続けなきゃならならないのはかわりな」


あからさまに話題を変えようとした話は扉を乱雑にノックする音で途切れた。

まだ、朝食の時間には早いし、焦っているような音に違和感を覚える。

俺は扉を開けながらどうしたのかと聞くと、そこにいたのは宿屋の店主の男、ではなく少女がいた。

その少女は震える手を握りしめて叫ぶように言った。


「町に魔物の群れが!パパが勇者様たちを呼んでくれって!」


緊張していたのだろう。ワッと泣き出して座り込んでしまった。


「あら、大丈夫?私がこの子を見ておくから先に行ってなさい。南のほうが騒がしいわ」


いつからいたのだろうか、そもそもいつ起きたのか。フェールはそう言いながら少女を抱き上げて慰めていた。


「わかった、先に行く」

後ろを見れば、すでに準備完了のミリュイ。うん、わかるわ。このパターン何回目って感じだもんな。なれてるわな。これもあれか?勇者フラグとかそういうやつ?


にしてもイツキ、わかっててさっさと町から出てったな!


そう考えながらも歩みを止めることなく、進めるのだった。






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