第56話 人々
命からがら助けられてから1週間が経ち、俺もだいぶ回復してきた
「ねー!早く行こーよー!」
「あぁ、、少し待ってくれ…」
回復してきたとはいえまだ歩く感覚が掴めず、壁に肩を寄せて歩く日々だった
「お母さーん、お兄ちゃん連れてきたよ〜!」
「わかったからそんな大声で叫ぶんじゃないよ」
「ごめんなさ〜い」
(いつもいつもこのやり取りばかりだな、、飽きそうなものだが…)
そんな事を思いつつ、テーブルの下にある椅子を引いてそこに座る
ガチャッ! 「帰ったぜ〜!、おっ、今日はちゃんと自分で座れてるじゃねえか!」
そう言ってドアを開けて入ってくるのはこの家の主人で、俺をここに運んできてくれた人だった
「ハハハハハハ…」
少し前までこの家の子供に手伝われながら座っていた自分を思い出して苦笑いの声しか出せなくなる
「あっ、お父さーん!おかえりー!今日は何か狩ってきたの?」
「おう!今日はデカイ獲物が捕まえられたからな、今日はご馳走だぜ!」
「またまた〜、どうせフルに手伝ってもらったんでしょう?」
「そ、そんなことはないぞ!俺だって…」
娘の厳しい指摘に何も言えなくなる父の図を目の前で見てなんとも言えない気分になる
(いつもこの家庭は幸せそうだ…)
朝も昼も夜も笑いが絶えず、俺でさえ思わず笑ってしまいそうになる
「あんた、遅かったじゃないか、昼飯出来てるから取りに来なさい」
「えぇ〜、仕事で疲れた夫に対する仕打ちがそれかよ〜」
「うるさいねぇ、さっさと取りに来なさい!冷めちまうよ!」
「へいへい…」
「お兄ちゃん、早く食べよう?」
「・・・あぁ、いただきます…」
「ねぇ、お兄ちゃんってば食べる前いつもそんなこと言ってるよね、それ何か意味があるの?」
「ん?、、あぁ、これは自然に感謝を表す言葉なんだよ、故郷ではいつも食べる前にこう言うんだ」(・・・そういえばいつの間にかいただきますとか使うようになってたなぁ…)
そうして俺はテーブルに置かれた食べ物を食べていく、、だが日本での食卓にはいつもある米が無い
(・・・やはり米が欲しいなぁ…)
当然といえば当然なのだがこの世界には米はなく、米に似ている植物はあるものの、米になりうる物はこの世界には無かった
(だが米抜きでも十分なくらいご飯がとても美味しい…)
ゴクッ!「お母さんのご飯は美味しいでしょ?」
「あぁ、そうだな…」
「コラッ!食事中は静かにしなさい、、まったく…」
まんざら嫌でもないという顔をしながら娘を叱る
(顔のせいで叱っても意味がなさそうだな…)
〜30分後〜
「・・・ごちそうさま…」
一通り食べ終わった俺は立ち上がって食器をキッチンにまで持っていく
(・・・これも先代の勇者が伝えた物かな…?)
キッチンには現代のキッチンとほぼ変わりない見た目をしている
カチャッ
(ふぅ、、外に出るか、ずっと寝ていたら体が鈍る)
そうして俺は玄関から外に出ようとする
「あっ、お兄ちゃん!待って〜私も行く〜」
「しょうがないなぁ…」
そうしてしばらく待つと別の部屋から娘さんが出てきて俺の腕を掴む
「お待たせ!早く行こう〜!」
「うわっ!っとと…」
急に引っ張られて倒れそうになるがなんとか気合で持ちこたえて外に出る
「早く行こーよ!皆待ってるよ!」
外に出ても腕を引っ張られ続け、そのままとある施設まで連れて行かれる
「おーい!そっち行ったぞ〜!」「任せろ〜!」
そこは村の外縁にある小さな協会で、そこでは敷地内で子供達がボールで遊んでいた
(小学校の頃を思い出すな…)
「ねぇ!立ってないで中に入ろう?」
「あ、あぁ…」
腕を引っ張られ続け何度も倒れそうになった俺はもうクタクタだった、だがここには必ず来なければならない理由があった
「フル〜、お仕事大変だった?」
「gyaaaaaaa!」
協会の側にはフルの為の部屋があり、いつもはここに待機していたのだった
(・・・まったく、、簡単に懐きやがって…)
懐きにくいと母親から聞いていたのだが、フルは出会ってから8日ほどで皆と仲良くなっており、懐きにくいとは何だったのかと思ったのだった
「元気だったか?」
「gyaaaaaaaaaaaaaa!」
「・・・そうか…」
「いいな〜、私もフルとお話したーい!」
「じゃあ俺が通訳してやる、自由に喋ってみろ」
「本当!?やったー!」
そうして俺は実に2時間ほど翻訳に拘束され、終わる頃には喉がカラカラになっていたのであった




