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【1章7話:料理自慢】

 思い返せば、俺は腹が減ってコンビニに行こうとしたときに異世界転移してきた。


 異世界にやってきてからいろいろあったため、そのことを忘却していた。

 俺は自分がずっと食べ物を口に入れていないことを思い出し、猛烈に腹が減ってきた。


 食卓にたどり着いた。


 アマーサ以外のエルフはまだ鍛錬中のようで、食事は俺、アマーサ、ツグミの三人だった。

 

「食事は私が作っているのよ! 自信あるから食べてみてよ!」

「うん、いただきます」


 アマーサは〈料理自慢〉のスキルを持っている。

 だから俺は不安になることなくアマーサの料理をおいしくいただくのだった。


「やっぱりアマーサの料理はおいしいよ。ずっと料理を作ってきたの?」

「料理は昔から趣味でやってたんだけどいつからか突然すごく上手にできるようになったのよね」


 おそらく〈料理自慢〉のスキルが開花したことで突然できるようになったのだろう。


「今は自分たちの料理は自分で作っているの! どこかの専属メイドさんは料理がからっきしだからね・・・・・・」

「ひ、ひいっ!」


 アマーサがツグミを睨み付ける。

 ツグミはかわいそうだが、メイドなのに料理ができないならそんな態度とられても仕方がないとも感じる。


 いろんな話をしているうちに、俺たちは夕飯を食べ終えた。


「ごちそうさまでした!」

「お粗末様でしたっ」


「アマーサ、俺も洗い物手伝うよ」

「うん、カイト君ありがとね」


「わ、わたくしもお手伝いします」

「ツグミは手伝わないでいいわ。あなたこの前洗い物して盛大にお皿割ったじゃない」

「う、うう・・・・・・かしこまりました」


 ツグミがしょんぼりして頷いた。

 ツグミは食卓を後にして、俺とアマーサは食器を洗いにキッチンへ向かった。


「なあアマーサ、ツグミに少しあたりが強くないか?」

「そうかしら。でもあの子メイドのくせに家事ができないダメイドなのよ?」


「じゃあどうしてアマーサの専属メイドなんてしてるんだよ。専属ってけっこうメイドの中でも重要な役割だろ?」

「他の人にとってはそうかもしれないけど私にとっては重要ではないわ。なんてったって私が身の回りの家事全般をやっているんだからね! だから唯一家事のできないダメイドを、家事ができる私の専属にしているの」


 ツグミがダメイドなのをわかった上で専属にしていたのか・・・・・・。


「ツグミがダメイドだってわかっているならなんで解雇しないんだ? 雇っているのはエルフ側だから簡単にできるんじゃないのか?」


「できるけど解雇はしないわね。だって無能なちっこいメイドなんてすっごくかわいいじゃないっ! 私はなんだかんだでツグミが大好きなのよ!」

「・・・・・・」


 アマーサが自分を好いていないとツグミは考えているようだが、そうではなかったらしい。

 アマーサの性格上自分より能力の低い人には高圧的になってしまうのだろう。

 しかしそれは嫌いというわけではなく、ただかわいがっていただけのようだ。

 

 まるでのび太とジャイアンのような関係である。

 ドラえもんがいたらアマーサも痛い目に遭っていたかもしれない。


「それとツグミとは長年の仲があるの・・・・・・。この話は少し長くなるから私の部屋で話さない?」

「ああ、わかった」

 

 ということで、ちょうど洗い物を終えた俺たちはアマーサの部屋に向かうことにした。


◇ ◆ ◇ ◆


 アマーサの部屋で、彼女は神妙そうな表情で言うのだった。


大災厄(ヘヴィ・カタストロフ)によって私の母は亡くなってしまったの」

「・・・・・・」


 100年前の魔王による災厄。

 アマーサの母親が大災厄の被害に遭っていることは知っていた。

 

 しかし知っているのは異世界キャプチャという文面上での話だけである。

 実際にアマーサの表情を見たら、彼女の母が亡くなったことの重大さを痛感した。


「大災厄によってエルフ族は大きな被害を受けたの。だけどそんなときに優しいお姉さんがエルフに支援をしてくれた・・・・・・」


 俺は大災厄の情報を完璧には調べていなかったので、そんな救世主のような人がいたことを初めて知った。


「大災厄のとき私は1歳だったけど、あのお姉さんのことはよく覚えているわ。お姉さんの提案でエルフはハジマリに移住することを決めたの」


 俺はアマーサの話を聞くことに徹する。


「お姉さんはエルフではなかったけどエルフ族のメイドとして率先して仕えてくれたの。そして年月が経ってお姉さんはおばさんに、そしておばあさんになっていったわ」


 お姉さんはエルフのような長寿ではなかったのだろう。月日が経つにつれて老いを重ねる。


「そしてお姉さんはおばさんの時期にエルフとの間に子供を作ったの。そしてハーフエルフとして生まれた子供が新たなメイド長になった」

「ハーフエルフはエルフのように長寿だったのか?」


「いえ、尖った耳しかエルフの特徴を持っていなかったわ。魔術適性はあったかもしれないけど、母親の役割を全うしたいって言って、メイドの道を選んだの」


 仮に魔術適性があっても、エルフのように長い期間の魔術修行は、寿命を理由に困難だっただろう。


「そしてお姉さんの子供も大人になって、今度は人間との間に子供を作ったの。それがツグミ・・・・・・」


 つまりツグミは、大災厄でエルフを支援してくれたお姉さんの孫で、4分の1のエルフの血を持つクォーターのようだった。


「へえ、全然ツグミはエルフって感じはしないよな」

「ツグミは耳も尖ってないしエルフっぽさが全然なくて当然よね。魔術以外からきしなエルフの、からきしな部分をもらっちゃったようで何をやってもダメダメなの・・・・・・」


 ツグミの戦闘ステータスは相当低かった。悲しいことに体術・武器術に関してはエルフの血を引き継いでいるのだろう。


「私とツグミは精神年齢が近かったから昔はよく遊んだりしたの。だけどツグミにはメイドの才能がなくて、それでもお姉さんの孫で・・・・・・。家族でツグミの解雇を真剣に悩んでいる時期もあったわ」

「・・・・・・」

 

「だけど・・・・・・。だけどお姉さんの恩もあるし、なによりやっぱり私はツグミが大好きだった! だからダメイドだってわかってたけど、私が自分から専用メイドに就かせるように申し出たの!」


 アマーサは最後に、にこやかに言うのだった。


「ツグミといると優しかったお姉さんを思い出すし、ありのままの自分でいられて楽しいのよねっ!」


 ありのまま、か。

 アマーサは自分よりも能力の低い人に高圧的だが、高圧的なことこそが彼女のありのままなのだろう。

 ただのジャイアンではなく、のび太を溺愛するジャイアンといった感じだろうか。


 本当はアマーサはツグミが好きで好きでしょうがないのだ・・・・・・。


 だからこそツグミには報われて欲しい。

 ツグミは自己肯定ができていないのだ。それはダメイドだから仕方がないのかもしれない。


 しかし自己肯定ができていないせいで、アマーサとすれ違い続けている。本当はアマーサはツグミを好きなのに、ツグミは嫌われていると勘違いしている。


 だから・・・・・・。

 

 アマーサが、能力的にも認めてくれるような人物に・・・・・・。

 そしてツグミには誇りを持てる人間になって欲しいのだ。


「アマーサはツグミが今のままで良いと思うか?」

「え、ええ。私はツグミと一緒にいられたら楽しいと思っているわよ?」


「もしメイド以外の才能がツグミにあるとしたら変わった方が良いと思うか?」

「ツグミに他の役職をってこと? 親もメイドだし他にできることがあるとは思えないけど・・・・・・」


 アマーサは不思議そうに俺を見る。

 確かに親がメイドならメイドをやらせようとなるだろう。お姉さんの娘、つまりツグミの母がそうであったように。


 しかし、ステータスは血縁が全てではない。血縁の関係しない生まれ持った才能、まさに「天才」というのも存在する・・・・・・。


「誰にだって向き不向きがある。ツグミはメイドに向いていないだけだよ。だけど、きっとツグミにも向いている役職があるって俺は信じているんだ・・・・・・」


 本当は信じているのではない。異世界キャプチャによって確信しているのだ。


「俺がツグミの真の才能を開花させて見せるよ」


 天才の鍛冶職人として・・・・・・。

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