【1章4話:レベルアップ】
スレッドワイヤー。
透明で視認が難しい糸を俺は市場で購入していた。
俺は右手の小指にスレッドワイヤーを巻き付け、腰のポーチの中に入っている小型ナイフに繋がるようにしていた。
小指を動かし、バックステップの勢いを利用して糸を動かす。
それと同時に繋がっているナイフがポーチから出てきて弧を描くようにしてアマーサの真横に勢いよく到達したのだ。
アマーサは俺のことを注視していた。特に俺の顔を・・・・・・。
なぜならアマーサの魔術を避ける際に、俺は顔を横に動かして何回も避けていたからだ。
俺に顔を動かされて、アマーサは後もう少しのところで惜しくも攻撃を外す。そのようなことを何回もやられていたのだ。
アマーサは決して良い気分ではなかっただろう。何発も打てるからといっても、ギリギリで何度も避けられたらどんな人でも気を害すものである。
俺だってゲームで弾を外したときはイライラが止まらないことがあった。ゲームでなくアマーサのように現実でやられたらなおさらである。
だからアマーサは俺の顔を特に注視していた。夢中になっていた。
俺はアマーサの視線が顔にいってることを利用して、彼女が腰のナイフの動きに気がつかないように狙ったのだ。
視線誘導。
これによって俺の腰のポーチからナイフが出てきたことにアマーサは気づかず、真横から突然ナイフが勢いよく飛んできたと錯覚しただろう。
俺が投げたモーションもなかったため、何かしらの魔法かと勘違いしているかもしれない。
だが実際は違う。両手剣、ナイフ、スレッドワイヤー。これらの武器を駆使し、視線誘導を使ってアマーサに勝利したのだ。
俺は魔術が使えない代わりに武器術に長けている。俺のステータスを活かした戦法で勝ちをもぎ取った。
ナイフに糸を繋げる作戦は異世界キャプチャの情報ではない。だから彼女がナイフの動きにすぐに気づかないか、つまり視線誘導が通じるかは確実ではなかった。
だから俺はこの方法をあまり使いたくはなかったが、隙ができないことを確信してしまったため、最終手段として視線誘導による奇襲をしかけるしかなかったのだ。
俺は作戦決行のタイミングをうかがった。初めの方からアマーサは俺の顔に注視していたため、視線誘導ができるかどうかのタイミングではない。
ナイフが弧を描いて彼女に到達するまでに、糸に魔術が当たらないようにしなければならなかった。メガファイアが糸に当たるとそこで爆発が起こるし、メガサンダーなら俺の小指、そして全身まで感電し、メガアイスなら糸が切れてしまう。
だから俺はずっとうかがっていたのだ。
糸にアマーサの魔術が当たらないタイミングを・・・・・・。
実際にそんな瞬間が来るかはわからなかった。しかしその瞬間が来ることに賭けて、俺はアマーサのモーションを注視しながら避け続けた。
そして「糸に魔術が当たらないようなアマーサのモーション」をやっとのことで確認し、視線誘導の作戦を決行できた。
アマーサが俺の期待するモーションをとるか、その上で視線誘導に気づかれないかどうか。
この二つの確実ではない賭けに成功し、無事アマーサを追い詰めることができたのだ。
俺はハラハラとドキドキが止まらなかった。攻略情報に頼らないとここまで緊張してしまうのか・・・・・・。
ゲームでも体験したことのない感覚だ。ゲーマーでこの感覚が好きな人もいるだろうが、俺は嫌いだった。
だから攻略をいつも見ているし、今回は命に関わる決闘のため、攻略通りにいかなくてより不安が募っていた。
もうこんな思いはしたくないと感じる。
しかし収穫はあった。アマーサとの決闘によって俺の戦闘スタイルは確立できた。
様々な武器を巧みに用いる戦闘スタイル。
武器術に長けているということに明確なイメージができていなかったが、アマーサのメガアイスを切れる攻撃力、糸と繋がったナイフを小指で動かせる巧みな技術が備わっているようだ。
アマーサとの決闘は俺の勝利で幕を閉じた。
俺は倒れているアマーサに手を差し伸べる。
「おつかれさま。良い勝負だったよ」
「あ、ありがと・・・・・・」
アマーサは俺の手を取って立ち上がる。
「服が汚れちゃった・・・・・・」
彼女は照れたように服に付いた芝生と土をはたく。そして続けて言うのだった。
「強いって言ってたのは本当だったのね」
「ああ。でもここまで追い込まれるとは思わなかったよ」
異世界キャプチャが通用しないくらいにまで追い込まれたのだ。アマーサは相当の実力者である。
「カ、カイト程じゃないわよ・・・・・・」
アマーサは赤面し、照れたように続けて言うのだった。
「あなたと一緒のパーティー組ませてください!」
「俺からの提案だからな。もちろんだ!」
アマーサから逆にパーティーの申し出をされてしまった・・・・・・。
どうやらアマーサは自分より強い者には好意を示し、頭が上がらないらしい。
異世界キャプチャに書いてあった通りだった。
テレレレーン♪
アマーサとパーティーを組むことが決まった瞬間、俺の耳元に音が流れた。
〈ステータス〉
NAME:カイト
レベル:2
体術攻撃:5
武器術攻撃:75
身体防御:27
魔術攻撃:0
魔術防御:27
俊敏性:30
運:35
スキル:寒さ耐性
ユニークスキル:武器術の達人
〈ステータス〉
NAME:アマーサ
レベル:6
体術攻撃:5
武器術攻撃:5
身体防御:40
魔術攻撃:65
魔術防御:55
俊敏性:40
運:40
スキル:料理自慢
ユニークスキル:魔力超強化
俺とアマーサが同時にレベルアップしていた。俺には新スキルが付いている。
俺は決闘に勝ち、アマーサはこれでもかというほど魔術を放出していた。激戦を経て互いに経験値を獲得したため、お互いレベルアップしたのだろう。
「どうやら俺たちレベルアップして強くなったみたいだな」
「ん? どうしたの突然・・・・・・?」
「いいや、アマーサと戦ってより強くなれた気がするってことだよ」
「そんな照れるようなこと言わないでよー!」
どうやらレベルアップしたことをアマーサはわかっていないらしい。ステータスのこともわかっていないのだから当然といえば当然だろう。
埼玉、つまり現実世界にいたときの俺も強くなったと言われてもピンとこなかっただろう。
自転車に何度も挑戦して乗れるようになったし、鉄棒だって何度も挑戦して逆上がりできるようになった。
できるようになった明確な理由はわからなかったが、もしかしたら現実世界にもレベルやスキルの概念があって、俺たちはいつの間にかレベルが上がったり、スキルを習得していたのかもしれない。
そんな風に考えても証拠がないし信じられるはずがないが・・・・・・。
しかしアマーサを含む異世界の住人は現実世界の俺のようにパラメータの存在など知らないのだ。
例えば、おそらく俺は今後〈寒さ耐性〉のスキルが付いたため、寒いところに行っても平気になるだろう。しかしスキルが付いたという事実を知らなければ、「いつの間にか寒さがへっちゃらになってた」となんとなく不思議に思うだけだろう。
異世界の住人にスキルが付与されても、感想は「なぜか、いつの間にか」なのである。
現実世界の俺がそうであるように・・・・・・。
だからこそスキルを知っているという情報はとても大きなアドバンテージなのだ。
俺はそのアドバンテージを活かしていかなくてはいけない。
俺はステータスから魔術適正がなく、武器術に長けているとわかった。自分の才能が一目で把握できたのだ。
だから自分の戦闘スタイルを確立しつつある。
今後異世界キャプチャに従ってより自己研鑽に育んでいこう、そう思った。
そして、自分の才能をわかっていなくて努力が空回りしている住民(魔術を勉強する俺、体術を学ぶアマーサ等)がいるなら俺が暗に教えなければいけない。
暗にというのが重要である。現実でも変に「○○の適性がある」と教えられても奇妙に思うだろう。俺はステータス概念をしらない体で接していかないといけないのだ。
異世界での立ち回りに気をつけようと決心した。
そして異世界キャプチャ通りに次の提案をしないといけない・・・・・・。
「なあアマーサ。パーティーメンバーとしてお願いがある・・・・・・」
「なあに? カイトの言うことなら何でも聞いちゃうよ?」
「泊まるところがないからアマーサの家に住まわせてくれ!」
「・・・・・・ええー!?」
アマーサは頬を赤く染めながら驚いていた。
次回、新キャラメイド登場!!!
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