【1章3話:決闘】
突然の異世界召喚だったため、持ち物はジーパンに入った1000円札1枚だけだった。
そして当然のように海上要塞都市・ハジマリは円が通貨ではなかったため、俺は実質手ぶらだったのだ。
俺は一応1000円札をポケットに入れておいた。使えないとはわかっていても、やはりお金を捨てるのはもったいないと感じる。
実質手ぶらの状況を乗り越えるにはアマーサにお願いして資金援助を頼むしか方法がなかった。だからわざわざ決闘直前に手ぶらであることを告白したのだ。
ということで決闘前に武器がないと本領発揮できないので、武器の購入のためにアマーサと市場へと向かうのだった。
「ほんと悪いな。武器の購入資金まで出してくれるなんて・・・・・・」
「別に私にとってはたいした金額じゃないから大丈夫よ。本気のカイト君を相手しないと戦う意味はないからね!」
アマーサは微笑む。
武器の購入がたいした値段ではないなんて、そんな金持ち特有のセリフ俺も言ってみたいものだ。
「エルフとの決闘に応じるなんてカイト君は相当の実力者か、相当の身の程知らずかってところでしょうね・・・・・・」
エルフ族の魔術は高いレベルを誇る。100年修行を積むことからもそのことは想像できるだろう。
その中でも優秀な方らしいアマーサは、自分の力に自信を持っているようだった。
俺はアマーサに答える。
「残念ながらエルフの実力は知ってるから、俺は相当の実力者の方だよ。俺はアマーサよりも強い・・・・・・」
「・・・・・・へえ、それじゃあ武器を買ったらお手並み拝見といこうじゃない!」
アマーサは好敵手を見つけた、という風な感じで微笑する。
アマーサは自分に自信を持っているため、強い人を求めているのだ。
その情報を異世界キャプチャで知っていたため、俺は自信たっぷりに「アマーサよりも強い」と言い放った。
現実世界では自信があっても負ける可能性を考慮して絶対言えないようなセリフである。
しかし俺はアマーサに勝つ。そしてアマーサをパーティーの仲間にするのだ。
アマーサに勝つためには良い武器を購入しないといけない。
市場に着くと、俺は剣を2本購入することにした。
ハジマリで現時点で買える最強武器は二刀流である。
「へえ、カイトは二刀流の剣士なのね・・・・・・」
「いや、少し違うな」
俺は加えて短剣などその他諸々の武器も購入した。また、武器を入れるポーチも買った。
「俺は二刀流以外にも様々な武器を使う――武器術の達人なんだよ」
「おもしろいじゃない・・・・・・!」
俺はアマーサには見えていない俺のユニークスキルの名を言った。彼女は俺との決闘を楽しみにしているようである。
俺も異世界に来て初めての決闘が楽しみだった。
いくら攻略情報があるからといっても身体を動かしてないわけだし、俺は実際に初めて武器を使うことが楽しみで仕方なかった。
〈ステータス〉
NAME:アマーサ
レベル:5
体術攻撃:5
武器術攻撃:5
身体防御:35
魔術攻撃:60
魔術防御:50
俊敏性:35
運:35
スキル:料理自慢
ユニークスキル:魔力超強化
異世界キャプチャでもやはりアマーサの魔術ステータスは高く表示されていた。
ステータスは戦闘に関わる数値であり、どれほど魔術が打てるか、どれほど長時間身体を動かせるか、などは自身の体力に依存している。
体力は現実でもそうだが体調が悪い日は衰えるし、鍛えた分だけ強化されるものだ。
年齢による衰えもあるため、中にはステータスが高くても動ける時間が短い、魔術が数回しか使えない、という者もいるらしい。
しかし、アマーサはユニークスキル〈魔力超強化〉によって体力の消耗なく無制限に魔術を使用できる。
ゲーム風に言うならばMPが無制限ということだ。
いくら武器術に長けた俺でも走り続けていたら動きが鈍くなるはずなので、アマーサとの勝負では長期戦を避けるべきである。
という注意を確認したところで、再度アマーサの家の広場に到着した。
「さてと、やっと真剣勝負ができるわね!」
「ああ、そうだな」
「カイトの実力をお手並み拝見といこうじゃない!」
お互いに少し間を開ける。
俺は二つの剣を鞘から取り出し、戦闘態勢に構える。
「「決闘開始!」」
俺とアマーサが決闘開始の合図を同時に発する。
その合図とほぼ同時にアマーサが右手を前に出す。
・・・・・・メガファイアのモーションだ!
「メガファイア!」
彼女が魔法を唱え炎の玉を連続して放出する。
左、右斜め前、右。
こうして動けばアマーサのメガファイアを避けることができる。
アマーサの魔術は強力なため、当たればかなりのダメージになるらしい。
メガファイアはただの炎の玉のように見えるが、触れたら即爆発し、致命傷を与える。
よってメガファイアは剣で防ぐこともできないため行動パターンを見切って避けるしかない・・・・・・!
俺はメガファイアを全て避けた。
バーンッッッッ。
「・・・・・・っ!」
俺の後方にいった炎の玉が後ろで爆発した。
メガファイアは触れていなくてもある程度したら爆発する。わかっていてもその爆発は恐ろしく、触れていたらと考えるとおぞましくなった。
「私のメガファイアを避けるなんてやるじゃない。とりあえずただの身の程知らずじゃないことはわかったわ!」
「本番はここからって感じか?」
「ええ、そうね!」
俺は構える。
アマーサは右手に続き左手も前に出し、右足を半歩後ろに下げる。
来るっ!
「メガファイア、メガサンダー、メガアイスッ!!」
アマーサの目線が一瞬右に寄った。
左、頭だけ右、バックステップ、右斜め前。
メガアイスは尖った氷を放つ技だ。つまりメガファイアのように武器が通用しない技ではない。
俺は右斜め前にステップした後、目の前のメガアイスを剣で切りつける。
メガサンダーは雷を放つ魔術で、剣で切れるのはメガアイスだけのようだ。
切れる魔術、切れない魔術を気をつけて判断していかないといけない・・・・・・。
そして、右、頭だけ左、左斜め前、バックステップ、そして一瞬しゃがむ。
さらに元の構えに戻ると同時に、メガアイスを切る!
もう一発のメガアイスももうひとつの剣で切る!
アマーサの視線が若干左により、右手はほんの少し上がる。
アマーサは永遠に魔術攻撃を繰り広げてくる。
しかし彼女の攻撃前には何かしらの特徴があり、その特徴を掴めば、何の技をどの位置に撃ってくるのかが俺にはわかる。
俺は異世界キャプチャで彼女の攻撃パターンを全て把握していた。
そのパターンを掴み、回避を続ければ負けることはない。
「どうしたの? 避けてるだけで全然攻めて来ないじゃない!」
俺はアマーサの攻撃を避けることができる。しかし避けることに精一杯で攻めに転じることができなかった。
全く隙が見つからない・・・・・・。
避け続けていればいつかは攻撃できるチャンスが来ると思っていた。
しかしチャンスがやってこない。
異世界キャプチャで避けるイメージは繰り返し行ってきた。だから俺はこの決闘に圧勝できると思っていた。
しかし実際は異世界キャプチャ通りにはいかないようだ・・・・・・。
「くっ・・・・・・!」
メガアイスが俺の左腕にほんの少しかすり、パーカーが破ける。
危なかった。少しずれていたら傷を負っていただろう・・・・・・。
俺の動きも少しづつ鈍っていく。
俺は体力が無尽蔵にあるわけではない。アマーサの攻撃を避け続けているうちに息が上がってきた。
対するアマーサは疲れも見えることなく、魔術を使い続ける。
これが魔力超強化の実力か・・・・・・。
長期戦では差が出てくると事前にわかっていたのに、いざ体験してみると絶望を感じてしまう。
これ以上長期戦になると俺が不利になるばかりである。
どうするべきか・・・・・・。
上手くいくかわからないが、あれを使うしかない・・・・・・!
「息が上がってるわよ! 疲れてきてるんじゃない?」
「・・・・・・」
アマーサは俺をあざ笑うが、今彼女に受け答えする余裕はない。
俺は好機をうかがう。
それまで全神経をアマーサの行動パターンに注視させ、避けて避けて避けまくる。
そして・・・・・・。
きた!
俺は斜め後ろのバックステップでギガサンダーを避けると共に、右手の小指を少し動かす。
「このままなら私の勝ちね! ・・・・・・・・・・・・え!?」
アマーサの真横に小さなナイフが切りつけるように襲ってくる。
アマーサは唐突に襲い来るナイフに驚いて避けるように後ろに下がる。
「今だっ!!!」
「・・・・・・っっっっっ!?」
アマーサが後ろに下がり、魔術の放出がほんの一瞬だけ止まる瞬間に、俺は大きくステップする。
「うおぉぉぉぉぉおお!!!!!」
今までの間合いがすぐになくなり、俺はアマーサに近づく。
俺は剣を大きく横に振った。
そしてアマーサの喉元ギリギリのところで勢いを殺し、剣を突き立てる。
「・・・・・・っっっ!!」
今まで余裕の表情だったアマーサが一変し、驚きの表情へと変わっていた。
俺は彼女に言い放つ。
「アマーサ、君の負けだ・・・・・・」
アマーサは足がすくみ、それに伴って後ろに尻餅をついて倒れるのだった。
「完敗よ・・・・・・。私の負け・・・・・・」
エルフの少女アマーサ――攻略!
次回、突如飛んできたナイフの正体が明らかに・・・・・・・。
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