魔獣達の輪舞曲
❶腐り落ちる心
遠い日の記憶。
太陽が眩く輝き、冷たい風が強く吹き抜ける爽やかな昼下がり。
「本当に、ごめんね?」
誰とも知らない男がそう言った。
真っ白な、どこまでも透き通る純白の衣装に身を包む
その男は祈るように胸の前で手を組み、僕を見下ろしていた。
覗き込まれているのに男がどんな顔、表情を浮かべていたのかは分からず、理屈が理解できない不思議な気分にさせられた。
声はしゃがれてはおらず、きっと年齢的には若いはずなのに、その口調はどこか厳かだった。
昔、一度だけ見たことがあるこの国の王様の話し方に似ている気がする。
「どうして謝るの?」と、言いたかったのだけども、その言葉は僕の口から出ては来ず、強張った唇の内側で跳ね返り、喉に奇妙な不快感を残した。
男はゆっくりと屈み、抱え込むようにして僕の頭を撫でた。
父親のように大きな手だ。
さらり、と。
白に近い銀髪が男の肩を滑り落ち、僕の首筋に触れる。
見上げれば男の顔はすぐそこにあり、それでもなおどの様な顔をしているのか見て取れない。
不思議と恐怖は無かった。
男の手や体はポカポカと暖かく、陽光を吸収したブランケットに包まれているかの様で、僕はいつの間にか眠りこけていた。
ーーーーーーーーー思い返せばこの日を境に僕の日常が壊れていったのだと、1人、魔境の森の奥深くで気付き、喉が潰れる程に、血を吐く程に、吠え叫んだ。