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7.下がれと命じた。オレの前を歩くなど千年早い

 王族の命令でオレに刃を向けたのだろう。先ほどの謁見で、壁際に控えていた奴らだ。見覚えがある騎士達を指さした。


「貴様と貴様、あと貴様もか……『戻れ』」


 命じる言葉に魔力を乗せる。圧倒的な力の差がある今、彼らに逆らう手段はなかった。魔力に操られて命令に従う男達を並ばせ、溜め息をついた。


「こ……殺さないで、くれ」


「もうすぐ子供が生まれる、だからっ!」


「命令だったんだ」


 必死に助命嘆願する彼らは、涙を流しあれこれ垂れ流し、威厳もなく見た目も哀れな状態だった。そこまで恐れるならば、国王の命令を拒否すればよい。まあ彼らの立場でそれが出来るかと問われたら、難しいだろう。しかし王族が先に逃げたのであれば、剣を投げ捨てて投降する選択肢もあった。


「強者に武器を向け攻撃する意思を示した時点で、貴様らの生殺与奪権(せいさつよだつけん)はオレに預けられた。大人しく従えば命は奪わぬ」


「「「はい」」」


 驚くほどよい返事だ。誰かに命じられて生きてきた人間は素直だった。もちろん簡単に寝返るから信用は出来ないが、ひとまずの手足にちょうどいい。爪が伸びたと思えば悪くなかった。要らなければ切り落とすだけのこと。


「サタン、様。こいつら、いらない」


 リリアーナはたどたどしい口調で訴える。何を言いたいのか最後まで聞く態度を見せたオレに、必死で言葉を探して身振り手振りで伝えた。


「裏切る。いらない! わたし、役に立つ! こいつら、使えない。わたしだけ、足りない?」


 金の瞳がすこし潤んでいる。裏切る可能性がある部下を増やす必要はない、自分が一番役に立つが1人では足りないかと不安そうに首を傾けた。


 ぽんと金髪の上に手を乗せれば、嬉しそうに笑う。最初は怯えていた姿が嘘のようだった。何が原因かわからないが、彼女はオレを主と認めたらしい。


 ドラゴン系の忠誠心は、オレが知る限り鬱陶しいくらい真っすぐだ。主人のために己を犠牲にするのは当たり前、主の信頼に存在意義を見出(みいだ)す。忠犬という単語があるが、ぴたりと当てはまる種族だった。


「リリアーナ、王とはすべての手足を余すことなく使い尽くす者だ。リリアーナに役目を与えるように、彼らにも使い道はある」


 聞いていた騎士の顔色が青くなる。使い捨ての駒として、数を揃えて使い倒すと言われた気がした。おそらく意味合いとしては間違っていない。今までの扱いも同じようなものだが、相手が魔王というだけで恐怖心は膨らんだ。


「召喚の儀が行われた塔へ案内(あない)せよ」


「イエス、マイキング」


 命じられた騎士は敬礼して従った。命を奪わないと告げた言葉を信じるしかない。国王の命令に背いた以上、圧倒的強者の下で生き残る道を探るのみだ。彼はある意味真面目だった。生まれてくる子供を一度抱くまでは死ねないと、必死で両手両足を動かす。


 騎士3人の先導で石造りの塔へ戻るオレは、身軽過ぎる自分の姿に気づいた。自室で休んでいたところを召喚されたため、かなりの軽装だ。マントも武器もない状態は無防備極まりない。ここが敵地であるならば、最低限の装備は必要だった。


 歩きながら黒いマントを取り出す。圧政を敷いた前魔王からの戦利品であるマントは、内側に魔法を弾く魔法陣が刺繍されていた。手慣れた様子で羽織り、鎖骨の辺りで服に固定する。次に漆黒蛇の革ベルトを巻き、剣をかけた。


 後ろからリリアーナが手を伸ばし、乱れた黒髪を手櫛で直してくれる。気の利く娘だ。満足げに頷くと、半歩下がった位置を歩くリリアーナは嬉しそうに笑った。


 崩れかけの王宮を出ると、見覚えのある風景の先に塔がある。誰もいないのか、しんと静まり返っていた。扉は開け放ったままで、魔術的な仕掛けも見当たらない。


「あの……ここです」


 この先は魔術師でなければ罠を見抜けないだろう。侵入者対策の罠がいくつか感じ取れた。騎士に先を歩かせても、無駄に命を散らすだけ。立ち止まった騎士を押しのけ、先頭を歩く。駆け寄るリリアーナが、今度は2歩先に飛び出した。


「下がれ、リリアーナ」


「でも」


「下がれと命じた。オレの前を歩くなど千年早い」

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