表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第3章 表と裏

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/439

55.世の中、上には上がいることを教えてやる

 3人の賊をリリアーナが甚振って引き裂いている頃、クリスティーヌを連れたオレは奥の部屋で顔をしかめていた。壁に飛び散った血は、頸動脈を切られた被害者のものだ。


 倒れた男に近づき、膝をついて開いた目を閉じる。女性ばかりのこの離宮では、誰も死体に近づけなかったのだろう。無念を訴える眼差しを正面から受け止め、閉じさせて弔いを約束した。無言で行われる作業を、クリスティーヌは不思議そうな顔で待っている。


「この男を丁重に埋葬するよう、兵に伝えよ」


「はいっ」


 恐ろしくて中を覗けないと廊下で震える侍女が走っていく。現場を眺めて、ふと違和感を覚えた。だが何が()()()()のか、判断できない。


 窓がある部屋は厨房設備が並び、裏にゴミ出し用の通用口があった。天井に血が飛んでいないのは、男の死体が自ら傷口を覆った手が原因だろう。切られた瞬間は吹き出した血を、本人が押さえたことで壁に飛んでいた血が床に零れた。真っ赤な床、壁の血はまだ生乾きで……作業台に寄り掛かる形で息絶えた料理番。


「死んだのは何人だ?」


「4人にございます……っ」


 駆け込んだロゼマリアの乳母であるエマが答える。支えられたロゼマリアも頷く。彼女達が確認した死亡者は4人、ホールで死んでいた侍女は2人、厨房で息絶えた料理番1人。計算が合わなかった。そこで違和感の理由に思い至る。


 血の量が多すぎたのだ。人間の首を切れば大量に血は吹き出すが、一定量流れるとそこから先は固まる方が早くなる。触れた死体は弾力があり、まだ血を体内に残していた。ならば、部屋を汚す血の量が死体の数と合わない。


「侍女の死体は?」


「え……ホールに?」


 何を問われたか気づかないロゼマリアは、反射的に答える。大きな緑の瞳を見開いた彼女に首を横に振った。人間は同族の死体に混乱する。彼女以外の人間に聞いても、要領を得ない返答ばかりだろう。


「クリスティーヌ」


「なに?」


「ホールとここ以外に血の臭いがするのは、どこだ?」


「……いろんな人から臭うけど、部屋はないよ」


 クリスティーヌの断言に、確証が生まれた。人間が起こした事件ではない。だとすれば、考えられるのは2つ。死体を喰らうタイプの魔物が襲ってきた。または上位の魔族による襲撃だ。前者はあり得ない。なぜならばドラゴンやグリフォンがいる城に、魔物が襲ってくることはない。


 自分より上位の存在がいると本能が訴える場所へ、わざわざ餌を取りに来る必要があるか。近くの村なり集落、または街の外れで人を襲えばいいのだ。そして後者ならば、手を出したのは魔王の周辺にいる魔族と断定出来た。


 魔族は自分勝手でまとまりのない種族ばかりだが、弱肉強食の掟は本能に叩き込まれている。魔力で縄張り主張する強者が住まう城に、面白半分で手を出す愚は犯さない。魔力を押さえず外部への威嚇を続けたオレがいるのに、襲ってくるバカは考えられなかった。


 恐怖や本能の警告を無視しても上位者を襲うのは、主人を持ち命を惜しまない者だけ。


「クリスティーヌ、足りない死体を見つけろ」


「うん!」


 人間がこの場で同族を殺したのは間違いなかった。浴びた血の臭いを追ったドラゴンを引き離すためなら、なるほど策略を得意とする魔族なのだろう。己の能力に自信を持った、愚か者だ。世の中、上には上がいることを教えてやる。


 人間による反乱の(てい)を装い、こちらを揺さぶる気か。はたまた別の目的があるか……どちらでも構わない。駆け出すクリスティーヌの背を見送り、オレは口元を歪めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ