表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第3章 表と裏

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/439

48.褒めて育てるのが正しい

 泣きじゃくるロゼマリアを連れたリリアーナが地上へ戻り、ようやく静かになった牢内で壁や天井を確認した。なにも言わない静かなクリスティーヌが、壁の一部から生えたミイラに気づく。ぬめる足元に注意しながら近づいた彼女は、観察するようにミイラを眺めた。


 オレに報復するつもりだった愚か者達を地上から転送した際、多少目測を誤った結果だが……クリスティーヌはミイラの一部を手で叩き落とした。幼い子供に見えても魔族だ。ましてやドラゴンと並ぶ強者である吸血種は、様々な種族を従える上位魔族だった。


「サタン様、これ……血、ない」


 崩れた死体を指差す。指摘されて気づいたが、たしかにおかしい。彼らを退けたのはわずか5日前だった。ミイラ化するには時間が早すぎる。地下牢は湿っていることが多い。大地は多くの水を蓄える性質があり、金属を腐食させるため牢は石造りが主流だった。牢内と看守である衛兵側を隔てる檻は鉄製だ。


 手を伸ばして檻をつかむが崩れる様子はない。さほど新しい鉄ではないが、数十年程度か。多少の錆や腐食が見られる鉄柵は、この地下牢の湿気の存在を示していた。


 薄暗い牢の壁をよく見れば、水が滲み出して苔が生えている。足元の血溜まりで気づきにくいが、じめじめした床もぬめりがあった。滑りやすい。


 菌類が繁殖するだけの湿気がある地下で、死体はミイラ化しない。肉は腐臭を放ち、カビに覆われた生ゴミとなるはずだった。


「血がないのか?」


「ない」


 叩き壊した際も血は溢れなかった。それこそが答えだ。この場に血を主食とする何かが住んでいた。吸血種か、その眷属か。どちらにしろ彼らは己の血を固めて武器とする術を、同族から継承する。クリスティーヌにもいずれ教えなければならない術だった。これは魔術ではなく、魔力を使わぬ種族特性スキルの一種だ。


 そして血を固めた刃の切れ味は、驚くほど鋭い。風の刃に匹敵する切れ味を誇り、氷や水より断面が美しいのも特徴だった。何より、血で切られた傷口は出血量が少ない。切った断面から吸血する習性がある武器であることが原因だ。


 ミイラ化に気づいたクリスティーヌを褒めて撫でた。リリアーナを羨ましそうに見ていた少女は、わずかに頬を緩ませる。小動物は撫でて褒めて育てるものだという。愛玩動物のヘルハウンドについて語る、配下がいてよかった。応用して育てれば、2人とも立派なペットになれるだろう。


 ドラゴンや吸血種であろうと、小さいうちは愛玩動物だ。アイツの飼っていたヘルハウンドも小さい頃は可愛かった。ペットとは愛らしさで取り入り、育てば主人の役に立ちたがる……そういう生き物らしい。


「よく気づいた」


「もっとがんばる」


 片言の舌足らずはリリアーナと同じ、親がいなかった弊害だ。哀れに思っても苛立ちの対象にならなかった。ぼさぼさの黒髪を浄化してやりながら、崩れたミイラを検分する。


「アンデッド種か」


 吸血種は大きく分けて2種族存在する。クリスティーヌのような貴族階級を誇るヴァンパイアと、ゾンビを含むアンデッドだ。ヴァンパイアは生きた死体と呼ばれるが、これは彼らが完全に死んでいないことを示す。心臓も呼吸も存在しており、困難ではあるが完全に殺す方法も存在した。


 逆にアンデッドは蘇った死体だ。一度死んでから蘇ることで不死に近い状態を保つ種族だった。己の死体が腐ることを防ぐ目的で、吸血して他者の血を代用品にする。己の意志を持たない使役獣のようになるアンデッドも存在し、そういった輩は本能で他人を襲う害獣として処分されてきた。


 アンデッドでも上位種になれば、ヴァンパイアと同じ血の剣を操る。今回の食事状況をみれば、襲撃したのは単体だろう。複数ならばこの場に血が残っているわけがない。厄介だと眉をひそめたオレの隣で、クリスティーヌが口元を手で押さえた。


 ふー、ふー。肩を揺らすほど大きく荒い呼吸が繰り返され、涎がたらたらと零れる。先ほどまで愛らしく笑っていた唇から、鋭い牙が覗いた。


「……クリスティーヌ、っ」


 控えろと続けるはずの声は、突然飛び掛かった彼女により遮られた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ