表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第3章 表と裏

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/439

43.簡単に許されると思うな

 顔に向かって飛んできた何かを、左手をかざして弾く。ぱちんと乾いた音がして、飛んできた物が床に落ちた。


 窓がほとんどない部屋は薄暗いが、ドラゴンは夜目が効くこともあり、飛びかかったリリアーナが押さえつける。床に叩きつける形でのしかかったリリアーナの尻尾が、びたんと大きな音を立てた。ネズミを捕まえた猫のように嬉しそうな顔で、「捕まえた」と報告する。


 結わずに垂らした金髪が床の埃で汚れるが、まったく気にした様子はなかった。


「これ、生きてる」


 大きさはリリアーナが片手で掴める程度、硬いものを握った彼女の腕が竜化した。


「ちくちくする」


 文句を言いながら、掴んだ獲物を差し出した。よく見えるよう、きちんと両手で端を摘んでいる。


「よくやった」


 褒めてから獲物に口元を緩めた。なるほど、吸血蝙蝠(こうもり)か。蝙蝠は暗い倉庫に勝手に住み着くイメージがあるが、これは主人がいるはずだ。吸血蝙蝠は種類としては魔物になる。つまり人間の領域に住み着くことは考え難かった。


 リリアーナごと結界を張ったが、他の個体が飛んでこない。つまり、この蝙蝠は単体だったという意味だ。集団生活をする魔物が自分より強い相手に単独攻撃を仕掛けるのは、おかしい。


「……お前の主人はどこだ?」


 尋ねて答えるわけがない。この類の魔物は主人を守るために身を投げ出す忠義心をもつ。この場で離しても主人の元へ向かわずに、また狙ってくるか、自害するか。


 少し考えて、リリアーナに命じた。


「そのまま持っていろ」


「わかった」


 さきほど数回噛まれたようだが、竜化してしまえば牙は通過できない。蝙蝠を興味深げに観察するリリアーナに「殺すな」と言い聞かせ、昔使った魔法陣を思い浮かべた。あやふやな記憶を頼りに魔法陣を作り、数カ所修正した。


 魔力感知に引っかかった背後に聞こえるよう、声を大きくする。


「この魔法陣を試すとしよう」


 主人を言えば助けると匂わせ、魔法陣をリリアーナの腕の下へ飛ばす。くるりと回った魔法陣がぼんやりと光った。


 じたばた暴れる蝙蝠が、諦めたように動きを止めた。魔法陣に魔力を注ぐため、魔力を高めていく。右手を魔法陣へ伸ばした瞬間、後ろから声がかかった。


「まって!」


「なぜだ」


 最初から居場所が分かっている相手に驚きはしない。出てくるように仕向けたのだから、オレの対応は当然だった。しかし向こうは隠れていたつもりで、逆に息を飲んで言葉に詰まる。


「……その子の主人は私だから」


 蝙蝠が悪いわけじゃない。そう呟く声に、オレはゆっくり振り返った。声に聞き覚えがある。魔力から思い出した姿は、予想した子供だった。


「お前か」


 指を鳴らして、蝙蝠の下の魔法陣を消した。


「ごめんなさい、あの……傷つけるつもりじゃなかったの」


「オレだから無事だが、これが人間ならば殺していただろう。どういうつもりであれ、簡単に許されると思うな」


 困ったような顔で俯くのは、先日助けた子供だった。吸血系の子供に、リリアーナが「こないだの、こ」と呟く。リリアーナの捕まえた獲物の肉に噛みつき、奪うようにして血を飲んだ少女だった。吸血鬼が吸血蝙蝠を使役するのは、よくある話だ。


「私、ここに……住んでて」


 打ち捨てられた倉庫は昼間の陽が入りにくい。昼間は眠り、夜になって活動する彼女にとって最高の寝床だったらしい。吸血蝙蝠と一緒に住み着いたのなら、この子供は人とのハーフである可能性があった。


「お前、名はあるか?」


「ない」


 即答した少女に、オレは大きな溜め息を吐いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ