401.魔族蜂起を鎮圧した褒美が必要だ
むっとした顔でリリアーナが唇を尖らせる。連れてこられたのは、年若いエルフだった。風の魔法を纏わせ、槍を遠くから飛ばす。その技術は大したものだ。油断していれば、ドラゴンでも仕留められるだろう。
この者に対して興味はない。リリアーナが防がなくても、結界は正常に機能した。だから実害を与えられない小さな羽虫を、敵として処分する必要もないが。
「私の獲物だった」
尖った口調で文句を言うリリアーナに、アスタルテが笑い出した。
捕らえてきたアルシエルは無視する。娘の言い分が気に入らないのだろう。主君に弓引いた者を捕らえ殺すのは、側近として当たり前の行動だ。褒められこそすれ、咎められる由縁はない。ましてやリリアーナはまだ妻ですらない。彼女はオレのペットに過ぎないのだ。
「リリアーナ、口を慎め」
ここで面子を保ってやらなくてはならない。愛玩動物はあくまでも所有物だ。配下が成果を上げたことを咎める権利はなかった。アルシエルは己の職責を果たし、捕らえてみせた。それは褒美に値する。悔しいならば、リリアーナが動くべきだった。
もちろん、オレが呼び止めたことも含めて。その状況であっても即座に動く意思を見せれば、権利の主張は可能だったはず。動かず失った獲物を嘆くだけならまだしも、捕らえた功労者を貶める物言いは許容できなかった。
「ごめ、なさい」
叱られたのは理解したようだ。反省した様子に、これ以上咎める理由はない。彼女をそのままに、竜の爪が食い込んだエルフを見つめた。空中で掴まれた状態で逃げ場はない。風を操って落下速度を調整することはできても、エルフが自力で飛ぶことは不可能だった。
「魔王陛下、この者を引き裂く許可をいただきたい」
黒竜の大きな瞳が獲物を睨みつける。オレが指示しなかったため連れ帰ったが、魔王に敵対する者は殺しておきたい。それがアルシエルの考えだった。
「エルフでしょ?」
「実験に使っていい?」
双子は有効利用を主張する。空の襲撃を防ぎ切ったウラノスが、腹黒い提案をした。
「罠を仕掛けて送り返してはどうか」
ガーゴイルを始めとした大量の魔物を空から叩き落とし、砕いて散らした。元吸血鬼王として魔王の名を預かった男は、傷ひとつない。アスタルテ同様、いとも容易く敵を排除してみせた。
彼にも褒美が必要だ。さて、何を与えたものか。考えながら見回すと、それぞれに自分の策の有効性を主張してくる。
「エルフはアルシエルとウラノスに任せる。城で希望を聞くから褒美を考えておけ」
マルコシアスやマーナガルムなど、地上の部下も労ってやらなくてはならん。地上へ降りようとしたオレに、困惑した表情で縋るリリアーナに気づいた。
「何をしている。来い」
「うん」
大喜びで背の羽を広げたリリアーナが、滑空してくる。その勢いを借り、地上へと最短距離で降りた。駆け寄る魔獣や魔物に声をかけ、褒美として肉を持ち帰らせる。一部の魔族が同行を望んだため、登城する許可を与え、魔族の蜂起は一段落となったかに見えた。




