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2.魔王は偽者を見破り、間違いを正す

 謁見の間は、どの世界でもほぼ共通の造りだった。神殿の荘厳さと王宮の絢爛豪華さを併せ持つ、厳粛な権力の象徴――オレに言わせれば、肩の凝りそうな場所だ。そのため魔王城の謁見の間は、もっと砕けた感じで作らせた。


 2人掛かりで開いた巨大な扉の先に敷かれた赤い絨毯、導かれるように視線で辿ると数段高い位置に男女が座っていた。国王と王妃だろう。ロゼマリアは絨毯を踏みしめて歩き出し、仕方なく後に続いた。


 面倒な挨拶やら儀礼じみた話をすっ飛ばし、帰り方だけ教えてもらいたいものだ。他の貴族は呼ばれていないのか、宰相や騎士らしき数人が周囲を守るだけだった。勇者召喚は秘密なのかも知れない。失敗したら恰好がつかない上、国の面目に関わる。


 先頭を歩くロゼマリアの足が止まった。カーテシーをして声掛かりを待つスタイルは、オレの世界と同じだ。服装や建築物に至るまで、ほとんどルールは変わらないと思われた。


「ロゼマリア、ご苦労だった」


「はい、勇者サタン様をお連れいたしました」


 一礼して絨毯から脇へ移動する彼女の立ち位置は、階段の1段目。おそらく王族ではあるが、継承権は低いと見た。自分の知る常識に当てはめながら、距離を測って足を止める。


 王の脇に控える騎士が、剣の柄に手をかけた場所が謁見者の立ち位置だ。それ以上近づけば、不敬の対象とされる。逆に遠すぎれば侮られるので、オレも慎重に判断した。この世界で自分の能力が使えるか試していない段階で、無用なトラブルを起こす気はなかった。


 しかし(へりくだ)って頭を下げる義理はない。そのまま膝もつかず、立ったまま国王の対応を見定める。


「よくぞ参られた、異世界の救世主。我らの勇者殿よ」


 大仰な言い回しに、眉をひそめた。


「救世主を気取る気はない。帰る道を示せ」


 用件だけを淡々と伝えた。驚いた顔をするロゼマリアをよそに、ある程度予想していたらしい国王は落ち着いて見える。白と茶が混じった長い髭を蓄えた国王は、ロゼマリアの祖父に近い。王妃は若いので、後妻の可能性もあった。


 状況を判断しながら、ふと違和感に気づく。国王を名乗る男の覇気のなさ、少し離れた場所に立つ宰相の方がよほど王の名に相応しい。


「オレは、偽者と会話する趣味はないぞ」


 今度はこの場の全員が驚く。髭の男が立ち上がり、憤慨(ふんがい)した様子で「無礼者が」と叫んだ。その姿をじっくり眺めて首を横に振った。


「お前は王の器ではない。そこの宰相、そなたが本物か」


 鑑定魔法を使うまでもない。王は王になるべくして定められし存在だった。世界が選ぶ器に見合わぬ王に、民も臣下もついていかない。この世界で同じ道理が通用しないとしても、実力者は宰相の方だった。ならば話をする相手は自然と決まる。


「……なぜ、そう思われた?」


「この世界のルールは知らぬが、王とは世界が選ぶ存在だ。この者はあり得ない」


 躊躇いなく言い切ったオレは、手の中で魔力を練る。問題なく使えそうだ。魔法陣や魔法の威力は試し打ちしなければ分からないが、とりあえず魔力が消えた可能性は排除できた。気づかれぬよう自らの身に結界を張る。


 少し離れた扉の向こうに数人の魔術師が隠れていた。緊急時に国王を守る者だろう。宮廷魔術師であるなら実力者であるはずだが、魔力量が少なすぎる。逆に罠の可能性を考えてしまう。


 罠を仕掛けるほど優秀ならば、異世界から勇者を召喚する必要はない。つまり、これがこの世界の実力なのだ。故に異世界から強い力を持つ勇者を呼び寄せた、と結論付けた。


 こちらの意思を確認せず異世界人を誘拐するなど、迷惑すぎる行為だ。


「見事だ、さすがは勇者殿よ。試した非礼を詫びよう」


「詫びは不要だ。こちらも勘違いを正しておこう。オレは勇者ではなく、()()だ」


 その瞬間――オレを除く、この場にいた全員の顔が引きつった。

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