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273.果ての探索は禁止だ

 あれだけの頭数を揃えたというのに、黒竜王はあっさり発見された。ぼんやりした彼に声をかけると、慌てた様子で日付を確認したという。


「何があった?」


 連れ帰ったアースティルティトの報告を受け、そのまま当人に尋ねる。玉座に腰掛けて出した声は、呆れを含んでいた。肘掛けに寄りかかる形で座る、リリアーナの視線が心なしか冷たい。


「答えて」


 言い淀んだ父親に対するには、冷たい声だった。リリアーナは父親としてのアルシエルを認めないが、黒竜王の実力は評価している。それは魔族特有の感覚だった。実力が全てで、情や血族関係は後回し――その慣習に則り、彼女はアルシエルの実力を認めていた。


 自分より強い相手だからと我慢していた感情が、色をつけて吹き出したらしい。睨まれたアルシエルが口を開きづらくなるだろう。リリアーナの金髪を少し撫でて、手招きした。玉座の前に這って移動した彼女は、膝の上に頭を乗せて微笑む。


「……申し訳ございませぬ。それが、記憶が途切れております。山頂に着いたのは間違いなく、そこまでしか……次の記憶はアースティルティト殿に肩を叩かれたところからにございます」


 肩を落としたアルシエルに、先ほど食事を摂らせた。どうやら食べずにあの場にいたらしい。凍りついたように動かなかったと報告されたことで、俄然興味が湧いた。


 果てとされる山頂の先に何があるか。影響を受けたのはこの世界の魔族だ。アースティルティトは別世界から来た。彼女の目には、普通の景色が映ったという。何も違和感を覚えなかったなら、それは幻覚か現実か。


 好奇心は疼くが、今は足元がごたついている。騒ぎを収めてから動いても遅くはあるまい。


「しばらくは内政を立て直す。果ての探索は禁止だ」


 一様に頭を下げて了承を伝える配下に頷き、膝にしがみついたリリアーナの肩を叩く。隣に座るクリスティーヌは、手元のネズミを撫でていた。ぼんやりした瞳は焦点が合っていない。


「……ユーダリル、動く? 旗頭ってなに。首、が()()の」


 ネズミを通じて受けた情報は散漫としている。ククルがこてんと首を傾け、不思議そうにクリスティーヌを見つめた。


「変な方法を使う、なんで?」


「この世界では小動物が主流なんじゃない? 780年くらい古いかな」


 バアルが呆れたように指摘した。小動物を使う方法はウラノスが教えたのだが、確かに古い技術だ。ネズミならば猫や犬に襲われる可能性があり、本能に負けて罠や毒餌にかかる心配もあった。それでも使うのなら、この世界の魔族の感性は1000年近く古い。


「その話は後だ」


 アースティルティトが遮り、眉をひそめて考え込んだ。ここ数日でしっかり世界情勢とオレの動きを把握した彼女は、アガレスに視線を向ける。彼の顔を立てるのは、自分がいない間に側近を務めた人間への敬意だろう。


「失礼いたします。ユーダリルにイザヴェルの残党が入り込んだ報告があります。それと……首というのは、もしかしたらグリュポス王弟かも知れません」


 後半は未確定だとしながら、アガレスが口にするなら噂の域に収まらない情報を握っている。頷いたオレに、マルファスが提案した。


「改めて情報収集をしてはいかがでしょう」


 仮定で話を進めると、先日のキララウスの二の舞になる。許可を出した途端、玉座の間から魔族が一斉に消えた。

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