表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
267/439

265.何を心配すればいいのだ

 全員のカップにお茶を注ぐと、アガレスは一礼して着座する。ポットをひとつしか用意しないのは、魔族がよく行う作法の一つだった。お茶に何も細工をしていないと示すためだ。キララウスの民は知らなくとも、同格に扱うと示したオレの自己満足だった。


 穏やかに見守るアースティルティトも、何も言わない。しかし先頭を切って口をつけたオレの仕草に、国王ダーウードは微笑んでお茶を飲んだ。他の大臣が止める間も無く、当たり前のように。毒味を待たずに王同士が口をつけたため、他の大臣達もお茶を一口含む。


「我らが求めるものは、対価として高いかもしれません」


 切り出したのはダーウードだ。頷いて先を促すオレが目配せしたアガレスは、紙に書き記す準備をして待った。文官をすべて外へ出したため、代わりを果たそうと考えたのだ。こういう柔軟さが彼の利点だった。


「この国と同盟を結び、森の一角に移住する許可をいただきたい」


 頭の中で計算する。同盟は全く問題ないが、森の一角というのは難しい。あの土地はすでにマーナガルムやマルコシアスに与えた。過失ない状態で狼達から領地を取り上げることは、彼らの矜持を傷つけるだろう。


「森でなくてはならぬか?」


 場所の変更は可能かと尋ねる。補償は他のものでも補えるが、壊した信頼は後まで災いをもたらす。人間が住まう土地なら、別に用意が可能だった。妥協案を受け入れるか、彼らの考え次第だ。


「いえ、空いている領地があればどこでも」


 あっさりと引いたダーウードに、オレは好感を覚えた。ちらりと視線を投げると、心得た様子のアースティルティトが地図を取り出した。人間ばかりの議場なので、円卓の中央に地図を広げる。


「よろしいのですかな?」


 緊張した面持ちのキララウスの大臣が、忠告するように顔色を窺う。地図は国土の広さや地形を示すものだ。他国に詳細な地図が出回れば、それは侵略の足がかりとなった。そのため地形や等高線が示された地図は、極秘扱いの書類に分類される。


「尋ねるほど善良な貴殿らに、オレは何を心配すればいいのだ」


 国内を荒らそうというなら、力づくで叩きのめせばいい。策略を用いるなら、側近であるアガレスやアースティルティトが対峙する。だが正面から、地図を見せてもいいかと心配する国民相手に、魔王が懸念を示す理由はなかった。


 圧倒的武力と戦力が手元にあり、結束を乱される心配もない。この状況を覆せる者がいるなら、逆に手元に置きたいくらいの有能な輩だ。にやりと笑ったオレに、ダーウードは肩を震わせて笑った。


「その信頼、決して裏切れませんね。キララウスとの同盟を結んでいただけるなら、我らは国の主権を手放しても構いません」


 王族や貴族としての権利を放棄する。国民の幸せを優先するダーウードに、アースティルティトが呆れたと溜め息を吐いた。


「無責任ですわ。知らない土地で頑張る民を慈しみ、導くのが王族です。象徴ではなく、手が触れられる距離で一緒に苦労なさいませ」


 容赦なく苦労する道を突きつけた美女に、キララウスの大臣達はほっと顔を見合わせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ