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260.魔族を恐れない民族もいるのか

 国王と魔王を見送り、人々は不安そうに顔を見合わせた。こういった事態を見越していたのだろう。スライマーンは声を張り上げた。


「この場で陛下のお帰りを待つぞ。そなたらは船から降りる女子供に手を貸し、手の空いた者から夜営の準備を始めよ」


 山の民であったがゆえに、キララウスの国民は質素な生活に慣れている。森の中を移動し、テントを張って遊牧民のような生活をしてきた。王太子が命じると、それぞれに持ち場を分けて動き出した。


 軍ほど統率されておらず、しかし足並みは揃っている。感心したアルシエルが近づき、スライマーンに声をかけた。


「何か手伝おう」


「あなた様は、黒い翼の方ですね。テント張りの人数が足りておりませんが、魔族の方にお願いするのは失礼では?」


「はは、俺が申し出たのだ。構わない。どれ……空からテントの屋根を支えてやろう」


 ドラゴンの姿に戻らずとも、人化したまま翼を出せば済む。簡単そうに提案し、自らテント張りの兵の手伝いに出向いた。かつて魔王の側近を務めた男の身軽な行動に、キララウスの民は親近感を抱く。声を掛け合いながら、大きな移動式住居を建てた。


「あら、黒竜王ったら……何をしてるの?」


 民に混じり荷運びまで始めた頃、ようやくオリヴィエラが到着した。用意した備蓄食料や敷物を大量に詰めた馬車を、爪で掴んで飛んできたのだ。船着場についてみれば、かつての上司が人に混じって荷下ろしをしている。


 黒竜王としての姿しか知らない、オリヴィエラが驚くのも無理はなかった。グリフォンのまま馬車を下ろし、彼女は鷲の爪でかつかつと音をさせながら近づいた。


「ご苦労、我が君は話し合いに入られたか?」


「ええ。だからロゼマリアも置いてきたわ。ウラノスがやたら機嫌よくて気持ち悪いけど」


 ウラノスと相性が悪いオリヴィエラは、嘴を鳴らして不満を表明した。しかしそれ以上絡んでいる時間はない。用意したもうひとつの馬車を取りに帰らなくてはならなかった。


「もうひとつあるから、行くわ」


「ああ」


 舞い上がるグリフォンが消えると、子供達が興奮した様子で指差して騒ぐ。それから数人がアルシエルに駆け寄った。背に羽があるので、魔族だと一目で分かる。しかし親達は何も注意せず見守るだけ。不思議な人間達もいるものだとアルシエルの興味は深まった。


 怖がる素振りなく、子供は手を伸ばして黒竜王の褐色の肌に触れる。自分達と肌の色が違い、種族が違うことを気に留めなかった。目を輝かせて手足に纏わり付き、羨ましそうに羽を眺める。その姿に、黒竜王アルシエルも驚いた。


 人間は魔族をみれば攻撃するか、嫌悪や畏怖の感情を露わに逃げ出すのが常だった。


「こちらの食料や敷物はお詫びの一部ですので、お納めください。返す必要はございません。数はまだありますから、皆様で公平に分けていただければ幸いです」


 馬車の中身を説明したマルファスが、荷をスライマーンに引き渡す。一部に子供服が混じっていたため、子供のいる親が集まってきた。積み重ねた資材を奪い合う様子はなく、落ち着いた民は1つずつ選んで持ち帰る。


「キララウスの者はみな、こうなのか?」

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