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257.使者の船団を送る風を起こせ

 頷いた王族らしき青年は答えずに、後ろを振り返った。船から降りた初老の男性は、優雅に一礼する。会釈に近い角度に対し、青年は深く腰を折った。どうやら初老の男性が上位者らしい。


 王族同士であっても、王位継承権の高さでまったく地位が違う。国によって十数番目の王子などは、上位貴族より下に見られることもあった。


 かつての世界の常識で判断し、ククルは深く頭を下げる。少なくとも彼の民を傷つけたのは自分であり、主君に処分されるまでは案内役の将軍職を全うする気だった。


「案内を頼めるか、ご令嬢」


「ククルとお呼びください。魔王陛下の下で将軍職を預かっておりました」


 魔族の特徴である尻尾や羽を隠さない彼女に、初老の男性は目を見開く。魔族は気位が高く、人間に名を呼ばせることはない。下級の魔物ならともかく、明らかに上位魔族であるククルが名を呼ぶ許可を与えた事実に驚いた。この世界では考えられない。


 同様に目を見開いて凝視するのはアルシエルやウラノスだ。事情がよく理解できないクリスティーヌは小首をかしげた。きょとんとした孫娘に後できちんと説明しなくては……そう考えたウラノスだが、口元を手で覆って考え込んだ。


 魔王サタンは、人間との共存姿勢を隠そうとしない。そして古くからの部下も同様だ。だとしたら、この世界の魔族の常識自体が書き換えられる可能性があった。下手なことを教えて、幼く吸収の早いクリスティーヌの思考を染める必要はない。


 キララウスの青年と同じ、赤と紫の宝石に金細工が施されたブレスレットをした男性が、穏やかな声で魔王との謁見を求め、ククルは静かに頭を下げて了承した。


 転移用の魔法陣を用意しかけ、動きを止める。見回した先に多くの人が上陸していた。全員飛ばすには魔力の消費が激しすぎる。この世界での回復度合いが不明な現状、動けなくなる可能性を考慮して躊躇う。


「船を風で押してバシレイアまで遡りますゆえ、乗船して頂くことは可能か」


 若い青年の方へ声をかける。初老の男性が陛下と敬称される存在なら、返答でもないのにこちらから声はかけられない。この辺の礼儀作法は、アースティルティトに叩き込まれた。この場にいたのが、アナトやバアルであっても同様に振る舞うだろう。


 驚きすぎて言葉が出ないアルシエル達を放置し、青年とククルの間で話が決まった。船を押す風を起こすため、ククルはバシレイア方向へ熱を放つ。代わりに船の帆の後ろにある空気の温度を奪った。冷えた空気は重く、温めた空気は軽い。急速に温度差が作られた川の上に強風が吹き始めた。


 帆いっぱいに風を受け、緩やかな流れを遡り始める。グリュポスの王弟が使った魔術師とは違う手法だった。彼らは魔法で風を作り出した。それは数隻の少ない船なら十分に移動手段となり得る。しかし今回のキララウスの船団は25隻だった。すでに3隻も沈めてしまったが、本来は28隻の大船団だった。


 大量の風を作り操るには、ククルの火に特化した属性は向いていない。大量消費する魔力を補う当てもないなら、温度差を利用して風を作り出す方が楽だった。


 これは彼女が翼もつ軍勢を率いた時に使う方法のひとつで、上昇気流も作り出せるため非常に使い勝手が良い。温度を操りながら、船や帆を壊さないよう調整したククルは、呆然と立つ後ろの3人を手招きした。


「早く、戻る」


 魔法陣を作って、発動前の状態で放置した。彼らに先に城へ戻れと指示を出すククルへ、クリスティーヌが駆け寄った。


「ククル、私がサタン様に連絡する」


「頼む。もうご存知だが」


 ぼそっと呟いた彼女は、視界を重ねた魔王の存在に気付いていた。

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