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248.呼ばれぬ客は門前払い

 アガレスは何かに気づいて、川の上流を指先でたどった。川の水は常に山から海へ流れる。バシレイアからグリュポスへ向かう流れの他に、もう1本の川が存在した。アルシエルとウラノスが池を作った川だ。すでに作ったオアシスはグリュポスの跡地近くなので、流れは一切絡まない。そしてこの川が問題だった。


 細い川だが、傾斜がきつく流れが速い。ウラノスが機転を利かせて蛇行を大きく取ったが、それがなければいつ氾濫してもおかしくない川だった。その流れの先に、キララウスの領地がかかっている。


「こっちですね」


 アガレスが指摘した通り、問題は緩やかな流れのグリュポスへ続く川ではなかった。座り込んだリリアーナは退屈そうに地図を見ながら肘をつく。指摘した当人はどこから敵が現れようと、この王都の手前で叩くので関係ないと考えていた。


 魔族らしい即物的な思考だ。目の前に獲物が飛び出せば狩るが、わざわざ狩りだす手間は面倒だと渋る。しかし一度目を付ければ、別の獲物を放り出して追いかける習性もあった。


「本当に動くのでしょうか」


 ロゼマリアは懐疑的だった。というのも、バシレイア国との国交もなく、今まで他国と協調したこともないキララウスが、今回に限って動く理由がない。


「動くと想定しておくべきです」


 あらゆる事態を想定する。それが国家の安寧に繋がるのだと宰相アガレスが言い切った。マルファスは地図を睨み付けて唸る。


「この川の流れだと、気づいた時には迫ってますね」


 敵の船が見える距離まで接近を許せば、残された荒野はわずか。王都の外壁付近は麦などの作物が植っており、住民達が農作業に精を出している。そこまで接近されれば、逃げ遅れる民が出るだろう。


 被害を想定しておくべきか。逃げ込んだ民を治癒して、敵を門で追い払うのは不可能に近い。民に紛れて農民のフリをされたら、区別がつかなかった。


 難しい判断を求めるように、オレに視線が集まる。肘をついて意見を聞いたが、解決策は見つからなかったようだ。彼らのもつ前提条件では、確かに限界があった。


「川の上流に仕掛けを施せばよい」


 彼らの持たない条件をひとつ提示した。見つけた後では間に合わないなら、もっと上流に仕掛ける。こちらにいる魔族の質と量を計算に組み込めば、大して難しい話ではなかった。


「誰かを駐留させるのですか?」


 マルファスの意見に魔族が一斉に首を横に振る。人間である彼は、魔族の能力を深く知らない。説明役を買って出たのはオリヴィエラだった。


「駐留したら、その人の戦力が無駄になっちゃうじゃない。それに誰も行きたがらないわ。面倒だもの」


 濃茶の髪をかき上げて、地図の前に歩み出る。マルファスとアガレスに理解させるため、智の番人と呼ばれるグリフォンは口を開いた。


「魔法陣を仕掛けるのよ。例えば人間の乗る船をターゲットとして、2隻以上通過したら知らせるとか。10人以上の人間が乗る船を沈没させてもいいわ」


「そのようなことが……可能ですか」


 アガレスの知識は人間としての範囲を出ない。長期計画の戦略を立てるには困らないが、現場の戦術は常識が邪魔をして平凡な案に終始した。その殻を破ろうとする部下を見守りながら、オレは違う案を示す。


「呼ばれぬ客は門前払いするものだ」

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