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242.神より残酷な種族はない

 魔力に気づいたリリアーナが眉を寄せる。クリスティーヌも袖を掴む指先に力を入れた。不安そうな2人は馴染みのない強大な魔力に、対応を決めかねている。相手が判別できたものの、向かってくる理由がわからないのだ。


「来るぞ」


 告げた瞬間、玉座との間に魔法陣が浮かんだ。転移用の魔法陣だが、設置の仕方が変わっている。


 通常は立っている状態で使うため、足元の床に出現する。その方が転移の終点の安全確保がしやすいのだ。高さを間違えれば、転移先で足が床に埋まる可能性もあった。その危険性を排除する目的で、床に平面の魔法陣を描き転移するのが一般的だった。


 双子の魔法陣は床の上、空中に刻まれる。使用される魔力量は、床に描く際の3倍近かった。球体の魔法陣は複雑であり、円とは情報量が違う。圧倒的な力を見せつけながら、するりと姿を見せた2人は魔法陣を駆け抜けた。


「お待たせ」


「復活した」


 抱き着いて甘える2人を受け止めたオレに、リリアーナが駆け寄る。彼女の知るアナトやバアルは、ぐったりとベッドに横たわる姿だった。元気な様子に嬉しそうに頬を緩めるリリアーナは、他者への気遣いを自然と身に着けていた。


「ククルはまだか?」


 残された1人の名を口にすれば、バアルが唸った。


「胸の大きいお姉さんに抱き着いて甘えてた」


 オリヴィエラか? ロゼマリアではないだろう。記憶にある姿から失礼な判断を下した。アースティルティトにも懐いていたが、彼女も胸が豊かだったな。


「そ、そなたらは何者だっ!」


「無礼であるぞ」


「そうだ! ここはイザヴェル国の王宮……」


 叫ぶ人間を見回し、アナトはふんと鼻を鳴らした。力もないくせに喚く人間を不快に感じているのは、兄バアルも同様だ。


「あの煩いのは片付ける」


「処分して早く城へ帰ろう」


 オレの魔力が城から離れたのを感知して、回復した魔力の試験がてら飛んだらしい。元神族である双子の能力は高く、イザヴェルの王都を吹き飛ばすくらい簡単だった。


「やだ! 私の獲物なんだから」


「ええ~、一緒に片付けるのもダメ?」


 アナトが首をかしげて妥協案を提示すると、困惑した顔でオレの判断を求める。ペットとして可愛いのだが、配下としては失格だった。まだまだ手を放すのは先の話かと肩を竦める。


「この獲物はリリアーナにやった。お前たちは外で遊べ」


 言外に王都で遊んでもいいと告げれば、彼と彼女は顔を見合わせ笑う。無邪気に、ご褒美をもらった犬のように嬉しそうに、それでいて子供ゆえの残酷さを秘めていた。更地にするなと注意する必要はない。付き合いが長い分、言葉のトーンで正確に意図を推し量ることが可能だった。


「焼くか、煮るか、挟むか、潰すか……」


()くよ」


 バアルの指折りの提案を、アナトは浮かれた声で遮った。妹であるアナトは普段は大人しく、兄バアルの奔放さが目立つ。普段の言動からバアルが過激だと思われるが、実際に一番残虐性が強いのはアナトだった。アースティルティトも呆れるほど、人間を見下す傾向がある。それを承知で言いつけた。


 イザヴェルの難民を受け入れる器がない。ならば生き永らえさせ、苦労して他国へ渡ったのちに受け入れられず拒否されるより、この場で奪う方がマシだろう。どれほど傲慢で自分勝手な言い分か理解しながら、オレは撤回しなかった。手を伸ばせる距離も、救える範囲も変わりはしない。


 双子の背にばさりと羽が生まれる。片翼を奪われた痛々しい背中の傷を平然と晒し、堕とされた双子神はふわりと浮いた。玉座に光を降らせる天窓を消し去り、2人は屋根の上で羽ばたいた。両手を繋いだ双子が魔力を練る。眩しい光が2人の前に生まれ、日差しが作った影を光で塗り潰した。


「「アィヤムル」」


 重ねられた声が、イザヴェルの王都に降り注ぎ……閃光が街を覆う。軍事国家イザヴェルの歴史の幕が降ろされる合図となった。

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