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238.王は何をお考えか

 3回のドラゴンブレスで巨大な穴を掘ったアルシエルは、魔法で穴の形を整え始めた。すり鉢状になった穴の周囲を少し広げる。遠浅の部分を大きくすることで、水が流れ込んだ後の利便性を高めるのだ。浅い部分は底まで陽が届くため、水草が早く育ち水質の維持や魚の育成に役立つ。


「アルシエルよ、支流を繋ぐぞ」


 いつの間に作ったのか。魔法陣を地面に刻んだウラノスが声をかけた。空中に浮いた彼の背に、久方ぶりの羽が出現している。鳥の羽が一番近いが、肉や羽毛を削ぎ落とした骨のみの羽を彼は厭うた。醜いと蔑んだウラノスの自虐の言葉は、幼い頃のアルシエルの胸に刻まれた。


 骨と骨の間を透明の膜が張り、きらきらと輝く姿をそれほど厭う理由をアルシエルは知らない。当事者でない以上、何も口出ししなかった。当時の魔王にも見せないよう隠した羽だ。アルシエルしかいない場であっても晒すなら、ウラノスの心境に変化があったことを意味する。


「やはり綺麗だな」


「……そなたは子供の頃から変わり者よ」


 頑是ない子供に語りかける口調で、ウラノスは顔を顰めた。だが不快ではないらしい。口元が発動のキーワードを呟き、すぐに水音が近づいてきた。作った支流と川を繋ぐ堰を切ったのだ。


 近づく水音に、アルシエルは翼を広げた。ばさりと羽ばたいて浮かぶ男の足元に、勢いよく泥水が流れ込む。茶色く濁り泡立つ水は、渦を巻いてすり鉢を満たし始めた。


「爺よ、勢いが強すぎるのではないか?」


 これでは魚も水草も流れてしまう。渋い顔で文句を言えば、少年姿のウラノスは肩を竦めた。


「汚れを洗い流すために加速させておる。落ち着けば問題あるまい」


 失敗したわけではない。そう言い切ったウラノスの言葉に従い、徐々に水の流れはゆっくりになった。通路に残った砂利を洗い流すために加速させた流れはやがて細く透明の水を引き込む。


 濁った大量の水を清めるように、茶色を薄めながら出口へ細い筋を作る。反対側から引き出される水は、川へと戻される仕組みだった。この流れを維持することにより、池が沼になるのを防ぐことができる。


 人々の喉を潤し、田畑の土を湿らせる。重要な役目を持つ池は、上空から見るとまだ濁っていた。遠くを眇め見ると、川の下流は土の色を帯状に揺らめかせる。


 この池が透き通る頃、ここに新たな人間の営みが生まれるのだ。そう考えると、不思議な気がした。魔族である彼らにとって、人間はひと夏の蝶や蟻と同じだった。あくせく働き、支配されて死んでいく弱い生き物だ。


 何も生み出さず、自然を蝕み食い破る害虫のような存在だと思っていた。それを魔王は救うという。手元で管理し、彼らを生かすことを選んだ。しかし安い同情ではない。


「主は何をお考えか」


「それがわかるなら、そなたが王になる」


 魔族を束ねる王に仕えた彼ら側近をして、王の考えは読めない。同じ方向を見ることは出来ても、サタンの見つめる景色を共有は出来なかった。だから我らは魔王になれないのだと呟くウラノスに、黒竜王は破顔した。

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