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233.まだ見ぬ獲物の皮算用

 思い通りにいかない状況に、舌打ちして机の上の書類を手で払った。軍事国家としてイザヴェルはその地位を保ってきた。常に強国であることを自らに課し、国民は徴兵制で全員が戦える。


 この国にとって男女差はない。徴兵期間を終えて町に戻ろうと、男女問わずこの国の民は戦えるのだ。他国を占領し略奪する戦が始まれば、国民は志願兵となって駆けつけた。


 戦ほど金になる商売はない。普段は農民や商人としてのんびり暮らす民だが、イザヴェルの兵士への教育は他国の比ではない厳しさだ。良質な戦闘民は、戦の触れが出ると集まった。ここまではいつもと同じだ。


 ユーダリル国と手を組み、テッサリアの食料を強奪し、女を犯し、グリュポスの領土をせしめるつもりだった。他国と軍事同盟を結ぶのも初めてではない。そのため連携もさほど問題なかった。自分達は他国を凌駕する強者であり、常に上に立つ存在だと疑わない。


 それがどうだ? 


 テッサリアの麦畑に到達した途端、兵士は全滅した。何が起きたのか、報告書に記載がない。ただ、後続部隊が見たのは、目の前に黒銀の竜が過り、その直後兵士が消えたという現実だけだった。


 先行していた部隊の生き残りはなく、遠目に兵士が消滅したと報告した無能は、その場で首を跳ねた。報告ならば正確でなければならない。黒銀の竜が殺したのであれば、麦がなびく畑は散々たる有様のはずだ。それが無傷で残ったのも薄気味悪かった。


 竜の仕業なら仕方ない。一種の天災のようなものだと考えた直後、他国の惨状が届いた。独自に動いたユーダリルの兵はグリフォンに殲滅され、大国ビフレストは自慢の第一王女カリーナを壊されたらしい。


 使者に立てた行為自体が間違いなのだが、彼らはそう考えなかった。グリフォンに襲撃され、その後ドラゴンにも来訪を許したという。大国と言えど、上位魔族の攻撃は防げなかった。


 ビフレストの王族に何かあったのか、過去の不満が爆発したのか。国民の襲撃で王城は落ち、王族はほぼすべて死に絶えた。少なくとも直系は滅びたと聞く。今ならば、一番被害の少ない我が国が、ビフレストを占拠することが叶う。


 ユーダリルが痛手から立ち直る猶予を与えてはならぬ――閃くように天啓が降りる。少なくともイザヴェルの王はそう考えた。


 さきほどぶち撒けたインクやペンを無視し、散らかる書類を踏みしだいて執務室を出た。入り口の衛兵に宰相や将軍を呼び寄せるよう命じる。


 運が向いてきた。そうだ、悪いことばかり見るからいけないのだ。この国はバシレイアの魔王とやらから距離が遠い。攻めてきても他国が間に立ち塞がり、我が国まで容易に到達できなかった。


 こちらから攻めよう。先手必勝……まずは頭のない大蛇であるビフレストを占領し、そのまま兵を現地で補充してバシレイアを落とせばいい。希望するならユーダリルにも多少の土地を譲ってやっても良い。


 皮算用しながら、イザヴェルの統治者である国王は醜い欲に顔を歪めた。

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