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202.育てた手駒の成長に目を瞠る

 謁見の間で、子供達はローブ姿で待っていた。自分達の祖国グリュポスを滅ぼされた遺恨はない。逆に助けてもらった恩を感じていた。リシュヤに預けられた子供達8人の中で、数人に魔力の潜在量の豊富な者がおり、ウラノスの協力もあって魔術の手ほどきを行ったのだ。


「ご苦労」


 広間の上段を横切り、玉座に腰を下ろす。ついてきたリリアーナとクリスティーヌが、ぺたりと赤絨毯の上に座った。ドラゴンや吸血鬼であることはこの子らも知っているが、怯えた様子はない。


「この度、バシレイアの魔術師見習となりました。陛下のご厚意に感謝申し上げます」


 きっちり口上を述べたのは、グリュポスの王都陥落時に外壁の前で震えていた兄だった。幼い妹マヤを抱き締め、助かりたいと懇願した彼の黒い瞳は輝いている。あの日、オレの元まで叫びと祈りを届かせたのは、この子供が持つ魔力量だった。


 平民の子でありながら、妹は兄を凌ぐ魔力量を保有している。父母どちらの遺伝か知らぬが、マーナガルムを凌ぐ魔力だ。稀有な存在を拾ったため、人間に預けるより魔族に預けた方がよいと判断したのが功を奏した。


 親を亡くしたり捨てられた子供達は、リシュヤが注ぐ無償の愛情に素直に応えた。恩を感じた彼らは、ウラノスの教えを真っすぐに吸収する。それまで貧しい環境で学ぶ楽しさを知らなかったのであろう。砂漠が水を吸い上げる如く、才能を花開かせた。


「よい目をするようになった」


 妹を助けてと叫んだ日のすさんだ姿が嘘のようだ。強い眼差しはそのままに、透き通った彼の黒瞳は煌めいた。曇ることなく前を向く強さを手に入れ、隣の妹とともに膝をついて控える。痩せこけて棒きれのようだった手足は丸みを帯び、子供らしいまろやかな頬も血色がよかった。


「これからも努力せよ」


 頑張る必要はない。無理する理由もなかった。ただ自らの望む知識を得て、己が望む姿に進化すればいい。その後、役に立つなら重畳だった。


「失礼いたします。ご報告がございますが、よろしいですか?」


 奥の扉から入ったアガレスの問いかけに頷く。この場にいる子供達に聞かせても構わないか? そう問うたのは、内容が戦争の話だからだろう。この国に生きることを彼らが決めた以上、将来に関わる決断を隠す必要はなかった。


 都合のよい話ばかり聞かせて育てる気はない。呼び出して話すこともないが、ここで遠ざければ彼らは邪推する。自分達に聞かせられない策を用いるのではないかと勘繰り、心を濁らせる原因となった。判断する材料を彼らから取り上げる行為に価値はない。


「構わぬ」


「では。ユーダリルがテッサリアへ侵攻した裏を探りました。詳細は資料でお渡ししますが」


「ユーダリルとイザヴェラが軍事同盟を組んだか」


 先回りして答えを突き付ける。アガレスはにっこり笑って一礼した。


「ご慧眼恐れ入ります。我が国に持ち掛ける軍事同盟を、ユーダリルはイザヴェラと結びました。理由はテッサリアの農作物だけでなく、その先にあるグリュポス跡地の占拠と思われます」

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