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16. 死に急ぎたくなければ、近づかぬことだ

※流血表現があります。

***************************************

 援軍を得た状況を見せつけるように振る舞う愚かな人間へ、オレは緩む口元で警告を発した。彼らはこの警告の意味を理解しないだろう。


「死に急ぎたくなければ、近づかぬことだ」


 どんな愚者相手でも、1回は警告は行う。蹴られると分かっている提案や警告でも、提示することは強者の義務だった。圧倒的な力の差を示す前に、相手に引くチャンスを与える。対等ならば必要ないが、魔王として君臨する前からオレが踏む手順だった。


 果たして――愚王は理解できるか。


「強がったところで、そなた1人しか居らぬ。ドラゴンも消えた。新たな勇者を召喚する前に始末させてもらう」


 国王として最低限必要な器を持ちながら、その頭は思考を停止した道化か。ひとつ溜め息を吐いた。見た目より軽いリリアーナが、ぴくりと目蓋を動かす。


「良い、眠っておれ」


 優しく声をかけると、ふにゃりと微笑んだリリアーナが再び深く眠りに落ちていく。魔力の限界まで頑張った部下を労うのは主君の務めだった。危機が迫った状況ではない。まだ休ませてやろうと顔を上げたオレに、馬上から浴びせられた暴言は、国王の側近らしき貴族の声だった。


「貧相なガキだ。魔物風情にはふさわしい」


「勇者を騙る偽物が!」


「貴様などすぐに片付けてやる」


 槍や剣を向ける騎士と兵士は、残せば使えそうだ。しかし王侯貴族は排除すべき対象だと認識する。残しても使えないならば、処分するのが正しい対処法だった。


 精神集中は不要だ。ただ願えばいい。求めればいい。身のうちに秘めた魔力量は無限に近かった。開放した魔力が渦巻いて、目の前の愚かな道化達を包む。


「ロゼマリア、目をふせよ」


 命じたのは温情だ。従おうが無視しようが、勝手にすればよい。声をかけた事実が残れば構わなかった。


 足元から吹き出す風に黒髪が踊る。


「こけおどしか!」


「声が震えておるぞ?」


 叫んだ宰相に嘲笑を向けたとき、腕の中のリリアーナが身を震わせて飛び起きた。寝ていた自覚がないのか、咄嗟にオレの首に抱きつく。


「……サタン 、様? なに」


「オレの魔力だ、お前に害はない」


 高濃度の魔力に怯える少女に答え、赤い瞳で宰相に視線を定めた。少し力を向ければ、老宰相の口から血が吹き出す。白と茶が混じった髭は赤く濡れ、げほっと咳込んだ男は馬から転げ落ちた。地に落ちた途端、悲鳴を上げる間もなく破裂して肉片に変わる。


 リリアーナは澄んだ金瞳で、無感動に殺戮を見つめていた。強者に逆らう弱者の末路は、魔族の方がよく知っている。己の実力に見合わぬ傲慢は、破滅をもたらすと。


 面影も何もなかった。ただ砕けた肉と化した姿に、国王の馬が驚いて暴れる。宰相を乗せていた馬が泡を吹いて逃げ出し、広場で震える女達の方へ向かった。


「ちっ、面倒なことよ」


 舌打ちして魔力で馬を締め上げる。暴走を許せば、集まった民を踏み潰してしまう。可哀想だが魔力で気絶させた。胴から倒れた馬に、騎士や兵士が数歩下がる。


「さて、さきほどオレを罵った元気はどうした? 貧相なガキと口にしたのはお前だったな。お前と比較できぬ、オレの優秀な配下に対しての暴言、片腹痛い。伏して詫びよ」


 言葉は鋭い棘となり、魔力を伴って太った貴族の腹部を貫いた。


「ふぐっ……ぐぎゃあああ」


 醜い悲鳴を上げて転がり落ちた豚は、血を溢れさせる腹を押さえて喚き散らす。


「耳障りだ」


 刃と化した魔力が男の首を落とした。静けさがようやく広場に戻る。絶句して何も言えない国王の青ざめた顔色に、口元は笑みを浮かべたまま首を傾げてみせる。


 魔力に物理的な力を持たせることは、さほど難しい技術はいらない。この世界の魔術師ではレベルが低すぎて無理だが、手足が塞がり視線が向けられぬ背後であろうと、魔力が使えれば敵の排除は可能だった。魔術ではなく、魔法でもない。ただ純粋に魔力を凝らせるだけの技――魔力で体を強化するのと大差ない。


「次は何であったか? そうそう、オレを魔物と呼んだか。だが口にした男はすでにおらぬゆえ、その主に責任を取らせるとしよう」

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