表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】魔王なのに、勇者と間違えて召喚されたんだが?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第7章 踊る道化の足元は

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

144/439

142.実験材料はまだたくさんある

 固まった猫に似た魔物はケット・シーの亜種だろう。見た目は普通の猫のようだが、鋭すぎてはみ出した牙と二股の尻尾を持ち、耳の毛が長い。細面なので、狐に近い顔立ちだった。


「蘇生を試みてからだ」


 仮死状態で送ったのは間違いない。つまりアースティルティトが仮死状態にしたケット・シーを、物体として亜空間へ放り込んだ。転送されるのは生物として認識されなった証拠だろう。危険な実験を平然と行うあたり、魔族らしさが窺えた。


「生き返るの?」


「これ、血が減ってる」


 水に濡れた足音を響かせるクリスティーヌも覗き込んだ。彼女の黒髪やスカートの先から血が滴るため、周囲が真っ赤に染まる。リリアーナ自身も尻尾や手足を赤く染めた状態なので、互いに気にせず手を握って仲良くしゃがみこんだ。


 指先でリリアーナがつつくが、反応はない。冷たく硬い感触に眉を寄せて、不安そうに首をかしげた。


「生き返る、無理」


 肉食系のドラゴンの嗅覚では死体判定らしい。左右に首をかしげたため、リリアーナとぶつかったクリスティーヌは頭を撫でながら唇を尖らせた。


「誰か、血、吸った。私じゃない」


 他の吸血鬼の関与を察知し、不機嫌そうな表情を見せる。魔族とひとくくりに人間は語るが、あまりに個性的な種族が多くて、分類が難しい。ひとつの死体を前に、吸血種とドラゴン種でここまで視点が異なっていた。その上生活習慣から子育ての方法や餌にいたるまで、何もかもが違うのだ。


「クリスティーヌ、お前は獲物を仮死状態に出来るか?」


 まだ残って震える罪人は、リリアーナの魅了眼の糸が繋がっている。細い魔力の糸が切れていないため、逃げるに逃げられなかった。すでに半数近くが死体という名の肉片や血の染みと化した状態で、彼らは自分だけ生き残る方法を模索する。


「こ、こいつを先に」


「なんだと?! お前こそ」


 少しでも後回しになって生き残ろうと足掻く獲物に、クリスティーヌは「うーん」と考え込んでしまった。親に育てられていない彼女は、吸血種が使える多くの技を受け継いでいない可能性がある。吸血行為のように本能に直結する能力は開花するが、獲物を仮死状態にする術は荷が重いか。


「やってみる」


 リリアーナと手を繋いで中央まで戻り、獲物を1匹呼び寄せる。手招きする金髪の少女に逆らえず、凝視したまま足を前に進める男は、血管が浮き出るほど抵抗した。近づいた獲物を眺め、クリスティーヌはひとまず血を吸ってみる。


 ケット・シーの首から出血した形跡があり、体内の血が明らかに不足していた。まず血を吸って眷属化する必要があると思ったのだ。リリアーナに「座れ」と命じられた男は涙を流しながら膝から崩れ落ちた。がくんと前に手をついた男の横に回り、真っ赤なハンカチを取り出す。


 汚れた肌を拭いてから噛むつもりのようだが、血塗れのハンカチではあまり効果がないだろう。呆れ気分で立ち上がり、足早に近づいた。収納から取り出したタオルを差し出す。


「使え」


「ありがとう」


「いいなぁ……」


 お礼を言って受け取るクリスティーヌを、羨ましそうに指を咥えて見つめるリリアーナへ、少し考えて別のタオルを渡した。まったく同じ物と色を選んだのは、タオルを喧嘩の原因にしないためだ。


 愛玩動物を複数飼うと嫉妬しあい、飼い主の寵愛を競うと聞いたが、本当にククルの指摘通りだった。ペットを飼い始めてから、彼女らの過去の言動に助けられることも多い。


「噛んでみるね」


 ひとまず試してみる。長い牙は、勢いよく首筋へ突き立てられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ