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106.留守番できるな?

 考える仕草で眉をひそめたアガレスの後ろで、マルファスは飄々としていた。命じられる立場をよく理解している。意見を求められるまで、彼の仕事は書類を持って付き添うことだった。


「わかりました」


 一礼して了承したのはアガレスだ。任せると示されたら、その信頼に応えるのが臣下の役目と受け止めた。逆に嫌がって騒いだのは、女性陣だ。中でもリリアーナは凄かった。


「ダメ、やだ、一緒に行く」


 泣きながら地団駄踏(じだんだふ)んで騒ぐ。その姿は少女の外見と相まって、可愛らしいものだった。オリヴィエラは不満そうに唇を尖らせたものの、先に騒いだリリアーナ程ではない。知識や経験がある分、子供のように騒げないのだ。


 クリスティーヌはきょとんとしていた。自分だけ置いて行かれるのは嫌だが、サタン以外の全員が残るなら不満はない。


 ちらりと視線を向けたが、何も言わずに無視した。不満だと訴えながらも、己の主張がまったく通らないと理解したリリアーナが鼻をすする。見かねたロゼマリアがハンカチを取り出し、丁寧に涙と鼻を拭いた。


 騒ぎが一段落したのを確かめ、オレは再び口を開いた。


「任せたぞ、アガレス」


「はい、魔王陛下の仰せのままに」


 一礼した宰相に頷き、そのまま立ち上がる。声を掛けてもらえないとしょげるドラゴンを一瞥し、哀れを誘う尻尾の項垂れ具合に溜め息をついた。


 昔から子供に甘い。子が生まれにくい魔族にとって、まさに宝だが……甘すぎると側近たちは顔をしかめた。注意する者がいない場で、オレの足が止まる。


「リリアーナ」


「なぁに!?」


 連れて行ってもらえるのかと顔を輝かせた少女に、ひと言だけ残す。


「留守番できるな?」


 無言で見つめると、なぜか嬉しそうに頬を染めた。大きく頷く姿に、機嫌は直ったと判断して踵を返す。ひらりと後ろで揺れたマントを追って、オリヴィエラが立ち上がった。


 手を繋いだリリアーナとクリスティーヌが追いかけ、残されたロゼマリアが微笑む。


「半日あれば、カーテシーの練習くらいできそうね」


「程々になさってください」


 相手はドラゴンと吸血鬼だ。そう匂わせる宰相へ、元王女は「そうね」と相槌を打ってスカートを捌く。軽装が増えた王女は、孤児たちの食事を手伝うべく離宮へ向かった。


 灰色の犬が尻尾を振りながら、彼女の後ろをついて行く。その尻尾が蛇であろうと、頭が2つあろうと……この城では瑣末ごと。


「魔王城より、この城の方が()()()ですね」


 マルファスの声に苦笑いしたアガレスは、執務室の書類を片付けるべく歩き出した。バシレイア国王である魔王サタンが留守にするなら、他国への牽制を兼ねた手を打つ必要がある。


 詳細の確認と情報収集を行い、他国への対策を練らなければならない。前回は留守にした情報がどこから漏れたのか。この城の問題点に頭を痛めながら、アガレスは外したモノクルを胸ポケットへしまった。

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