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105.こちらから黒竜王へ仕掛ける

 戦い方は大きく分けて2種類ある。攻めるか、守るか。この世界の魔王はすでに数度の攻撃を仕掛けた。それをすべて受け身で撃退してきたが、いい加減こちらから打って出る頃合いだろう。


 送り込んだ者が消えたり、帰ってこなければ作戦の失敗はわかる。だがこちらの状況と戦力を正確に把握できていないため、新たな者を送り込んでくるのだ。情報不足はお互い同じだった。


 ここで黒竜王に、一定の被害を与えることが出来れば……魔族の動きを有利に操ることが可能となる。リリアーナ達もそうだが、前世界と同じように強者に(おもね)るのが魔族の習性。


 ならば、今までのトップを揺るがす圧倒的勢力が現れたら……当然、より強い方へ従う。足りない手足は、敵からもぎ取ればいいのだ。


 謁見の間で、玉座に腰掛けるオレの足元に3人が座り、3人が立っていた。そのほかに歩き回るレーシーがいる。


 リリアーナ、クリスティーヌ、オリヴィエラは玉座の両側に腰を下ろす。微笑ましげに見守るロゼマリアは2段下がった階段に立ち、書類を抱えたマルファスを従えたアガレスが上位者へ礼を取った。


 レーシーは興味深そうに謁見の間を観察し始める。種族の特性として、好奇心や知識欲が旺盛なので、何か気になる事があるのだろう。咎めることなく好きにさせた。


「こちらから黒竜王へ仕掛ける」


 この世界の魔王は夢魔だという。側近にリリアーナの父が立つなら、実質の支配者は黒竜王とみて間違いない。基本方針を確認したオレに、アガレスはモノクルを外して眉をひそめた。


「打って出るのですか?」


 まだ足元が固まっていない。そう言いたげなアガレスを、ひらりと手を振って黙らせた。


「安心しろ。人間相手の策なら用意してある」


 このバシレイア国は首都となる都以外に、大きな中核都市がない。ならばこの王都とその周辺を保護すれば用が足りた。


 領土が小さいということは、すなわち守る領域も小さい。難民となったグリュポス国の人間が流れ込むまで、数日の猶予があった。


 グリュポス国が滅びた話を伝え聞いた国が動くのも、まだ先の話だ。彼らは情報収集に必死だろう。現魔王も、黒竜王も動けない今がチャンスだった。


 逆にいうなら、動けるのは今のうちだ。さらに領土を増やせば、守りに入らなくてはならなくなる。身軽なうちに宣戦布告を済ませるつもりだった。


「結界を張るおつもり?」


 一般的に魔術師数十人規模の魔法陣となるが、結界を張ることは可能だ。オレの魔力量ならもっと容易にこなせるだろう。


 口にしたオリヴィエラは首をかしげるが、現実的な方法ではない。内側に籠もって守りに徹するなら構わないが、外へ打って出る話と真逆の手法だった。


 首を横に振り、淡々と答えを突きつける。


「全面対決は先だ」


 彼らは打って出ると聞いて、いきなり黒竜王率いる魔族と衝突すると考えたらしいが、そこまで無謀ではない。手元の駒が揃わぬ状況で強行すれば、手足をもがれる。失う事態は避けなくてはならなかった。


「殴らないの?」


 父親を殴るつもりだったリリアーナは無邪気に尋ねる。まったく親への執着を見せないドラゴンに溜め息をつき、その金髪を乱暴に撫でた。満足げに尻尾を振る彼女は、魔族らしい反応で笑う。


 親に執着しない姿は、人間から見たら異常だろう。しかしオリヴィエラもクリスティーヌも同じ反応だった。親は己を生んだ存在であり、同時に超えるべき障害なのだ。


「半日ほど留守にするが、全員残す」


 人間がいくら攻めてきても、ドラゴンとグリフォンを残せば問題無い。外交で入り込もうとすれば、アガレスとマルファスが対応できる。外に結界も必要なかった。


 敵陣に入り込むオレが、余計な魔力を流していれば探られる。手にした領土と手足、今後の戦略のすべてを活かすなら……この数日が最高のタイミングだった。

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