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104.駒は足りぬがゲームを始めよう

 ロゼマリアが犬を洗う作業に没頭している頃、リリアーナはご機嫌だった。尻尾を大きく振りながら歩く。今まで一人だったから、誰かにお土産を持っていく行動は初めてだった。喜んでくれたロゼマリアに撫でられ、すごく気分がいい。


 通り道にあるオリヴィエラの部屋を開けるが誰もいないので、後回しにした。そのまま4匹を引き連れて庭の片隅ある薄暗い倉庫へ向かう。昼間だが、彼女はもう起きているだろう。吸血蝙蝠のジンが倉庫の外を飛んでいた。手を振ると、慌てて中に飛び込んでいく。


 すぐに内側から扉が開いた。


「リスティ、お土産。2匹選ぶ!」


「おかえり」


 置いて行かれると拗ねたクリスティーヌだったが、帰ってきた姉のようなドラゴンに抱き着く。甘えるクリスティーヌへ、犬を得意げに見せた。目を輝かせた彼女へ「眷属にできる」と説明する。


 この話はオリヴィエラから聞いたが、吸血種は動物や魔物を使役することに長けていた。魅了を使わずとも、ジンの時と同じ「名づけ」で縛る契約が得意なのだ。ならば彼女に眷属を増やしてやろうと2匹進呈するリリアーナは、抱き着いた吸血鬼の黒髪を撫でた。


 自分がしてもらって嬉しい行為は、積極的に妹分のクリスティーヌに分けてやる。それは正妻として、他の妻を労わる行為に似ていた。一夫多妻の考えが染みついたドラゴンは、出来るだけ鷹揚に振舞えるよう努力を始めたばかり。


 選んだ2匹をクリスティーヌへ引き渡すと、すぐに彼女は名前を付けた。


「フウ、ライ」


 2匹を従えると、仲良く手を繋いだ吸血鬼とドラゴンは歩き出す。残るお土産の配達先である離宮で、リシュヤに引き渡すために。







 眺めていても仕方ない。外そうと掴めば棘を出し宿主を苦しめる寄生植物は、魔物だった。初めて見る種類だが、植物ならば退治する方法はいくらでもある。


「少し痛むぞ」


 レーシーの首に絡んだ茨を掴む。常時発動の結界を解除したことで、棘が手のひらに食い込んだ。流れた血を吸わせる。思った通り吸血タイプだったらしい。魔力や血を吸収ことで成長する植物は、芳醇な魔力に次々と花を咲かせた。


 花に実がなり、重く項垂れて……種を身ごもる。本能のみで生きる植物ならば、魔物であろうと飽和状態を知らない。ひたすら吸い続けた魔力はついに限界を超え、本体が枯れ始めた。蕾は咲く前に腐って落ち、棘はぽろぽろと床に零れる。最後に種を残し、寄生植物である魔物は朽ちた。


 思ったよりあっけない結末に、手を離す。抑えつけた結界を戻せば、手のひらの傷は自動的に治癒を始めた。床に残された種を拾い上げ、収納空間へほうり込む。


「ありがと、う」


 かすれた声で礼を言ったレーシーは、紺色の大きな瞳を瞬かせた。それから手を伸ばしてオレの指を掴み、迷いながら言葉を選ぶ。


「あなた、雄……」


「そうだ」


 レーシーの雄ではないが、彼女は構わないらしい。掴んだ指先に頬を摺り寄せた。床に座って擦り寄る姿に迷いはない。長い髪を整えれば化粧映えしそうな顔立ちをしていた。人間相手の策略なら、十分使えるだろう。


「オレがお前を拾った。従え」


 指先からあふれる魔力を啜りながら、レーシーは素直に頷く。彼女にとって餌を与える雄が群れのリーダーであり、従うのは呼吸するように当たり前だった。手に入れた新たな駒の使い道を考えながら、アガレスが持ち込んだ書類に目を通す。


 沈黙を守るこの世界の魔王とやらが、そろそろ仕掛けてくる頃だった。人間相手に無駄な争いをしている場合ではない。情報は少ないが……この程度の不利に足元を掬われるなら、とっくに息絶えていた。


「盤の上の駒は足りぬが、試合(ゲーム)を始めよう」

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