異世界でもぼっちライフは継続するようです。
自分の一番の特徴は何だろう?
誰にも負けない、自分だけの特徴は
何だろう?
そう考えたことは無いだろうか。
そんなことを嫌でも考えさせられる日がくる
なんてあの瞬間までは思ってもいなかった。
「キーンコーンカーンコーン」
今日も終業のベルが鳴り、学校というストレ
スでしか無い場所から解放された。
普通なら友達と
「今日どっか遊び行かね。」
「昨日はカラオケ行ったし…」
なんていう会話をしながら下校するんだろう
が…
俺はそんな会話はしない。
というか出来ない。
それは俺が…
「ぼっち」だからである。
スクールカーストの一番下、
みんなから気にされなさ過ぎて逆にいじめ
もされない、
ぼっちの中のぼっち、そう、いうなれば俺は
ぼっちの神である。
(自分で言ってて悲しくなってくる)
あぁ、友達出来ねぇかなー。
ぼっちの神である俺の自己紹介をするか。
俺の名前は影井裕翔
16歳。誕生日は6月7日。
降神高校の2年生だ。
趣味はラノベとマンガ。
特技は誰からも気づかれないことだ。
もちろん友達も彼女もいない。
今はでは無く、いた事が無い。
あの瞬間までは
こんな俺がカーストのトップに立つ
日がくるなんて思ってもいなかった。
そのきっかけとなった日は
忘れることもない2046年12月3日。
いつもと何一つ変わらない日の放課後。
誰もがいつも通り下校のための準備を
していた。
すると急に学校全体を覆う巨大な魔法陣が
出現したのだ。
騒ぎ出すクラスメイト。
先生達も初めての出来事に慌てふためいて
いた。
そんな中俺はラノベでよくある異世界召喚
だと確信し、周りを気にせず読書を続け、
密かに胸を踊らせていた。
目の前がぴかっと真っ白になり、
気が付くと、四方を白い壁で囲まれ、
何にも無い場所に立っていた。
周りでは見かけたことのある奴らが、
現状を理解出来ず、
「何かの番組のドッキリじゃね。」
とか、
「でも、それにしては大掛かり過ぎ。」
「そうそう。どっちかって言うと
誘拐みたい。」
などと言っている。
先生達も緊急職員会議を行っている。
みんな意見交換をして、現状を把握しようと
しているようだ。
俺は相変わらず一人だが。
どうやら降神高校の生徒802人と、
教師32人が飛ばされてきたようだ。
クラス単位では無く、学校単位での転移は
ラノベでも見たことが無い。
「やっほー。」
突然この空気をぶち壊す、
明らかに空気を読めてないような
ハイテンションな声がした。
それだけならこの状況に浮かれたお調子者
の発言かと思うかもしれないが、
それは絶対に違う。
なぜかって?
その声が天井からしたからだ。
その声に驚き上を見上げると、
一人の女性が降りて来ていた。
まるで背中に大きな白い羽がついているかの
ようにゆっくりと。
そして、
「ハーイ皆さん元気。」
綺麗な銀髪の女性だった。
この人が女神様なのか。そう思った。
誰かが言ったわけではない。
しかし、誰もが一瞬で理解した。
彼女は空中に浮いている状態で言ったのだ。
「今から皆さんにはちょっとしたサバイバル
ゲームをしてもらいます。」
その言葉を聞いた瞬間、
は? と誰もが硬直した。
そして約半数が爆笑した。
ばっかじゃないのと。
約1割はパニックになった。
現状に頭がついていけなくなったのだ。
そして俺を含めた約4割は真剣な表情に変わっ
た。まるで何かを覚悟したかのように。
「今からこのゲームのルールを説明
します。」
「聞きたくなければ聞かなくても結構ですが
後で後悔してもムダですよ。」
一瞬で空気が弛緩した。
そうさせるだけの力が女神の言葉、表情
そして何より雰囲気には確かにあった。
30分にも及ぶ彼女の話を要約すると、
1つ、このゲームは特にしてはいけないことは
ないが、クリアするには誰か1人でも
女神からのイイねポイントを100集めな
ければならない。
(イイねポイントのし集め方は不明)
もちろん、クリアしなければ元の世界
には、戻れない。
2つ、今から行く世界は「フリーダム」
という名前で、モンスターや亜人、
魔族がいる
3つ、自分の一番の特徴が個性
として自由に使える
4つ、自己情報開示と叫ぶ
ことにより、自分の能力を数値化した
ステイタスと個性そして
イイねポイントを確認することが
できる
5つ、人やモンスターを倒すと、相手の個性
を奪うことができる
6つ、個性の同時使用は出来ない。
7つ、ゲーム内で死んだ場合、現実世界に
送還される
8つ、ゲームをクリアした人は何でも一つ
願いが叶う
頭の中で情報を整理したところで女神から、
「それじゃあ早速バイバーイ。」
急に睡魔が襲ってきた。
少しずつまぶたが落ちてきた。
スッと体から力が抜けていった。
目が覚めると広い草原にいた。
ラノベやマンガでよくある展開だ。
よし、やるかと覚悟を決め、うきうきそして
わくわくしながら大声で叫んだ。
「自己情報開示」
おぉ。思わず感嘆の声が漏れてしまった。
本当に出たのである。
ドラ○もんから初めて秘密道具を貰ったとき
の、の○太はこんな気持ちだったんだろう
なぁと余計なことを考えてしまった。
そんなことよりと思い、画面をスワイプし、
自分のステイタスを確認してみることに
した。
筋力60
敏捷83
耐久47
精神力54
生命力43
数値を見ても自分のステイタスは
良いのか悪いのかよく分からなかった。
ただ昔から足だけは速かったせいなのか、
敏捷の数値が高いなぁという印象だ。
ところで、忘れてはいけないのが個性の存在だ。
昔、少し武道を習っていたから武術系の個性かな
っとか考えながら個性の欄を
見ると、そこには
「影薄」
常時発動型
すべての生物、物から自分とその身に着けて
いるもの、触れているものが視認されなくな
る。
しかし、自分が触れているものからは視認
される。
と書かれている。
…………はい?
何だよこれ。自分の個性が
影が薄いこと?冗談だよね?
ぼっちの神でもここまでだとは思って無かっ
たわ。
何、もしかして俺、女神様からもぼっち認定
されてる?
異世界ではイメチェンしてラノベの主人公
のようなリア充、ハーレム生活を送ろう
と思っていたのに。
触れられなきゃ誰からも視認されない
というのはやばい。
やばい、やばいやばいやばいやばいやばい。
こんな個性いらねー!
そして、そんな中俺は見落としていた項目
に気付いた。
職業未定と書かれた項目だ。
タップすると職業選択という文字
が出てきた。
その下にはにいろいろな職業が
並んでいる。召喚師、戦士や
魔法使い《マジシャン》なんていう
この世界特有の物も多い。
おおこういうのは異世界召喚っぽくて
いいな。
その中で俺の個性が活かせそうな
のは暗殺者や盗賊か。
いやーでも、いくら異世界でも犯罪に手を
染めたく無いしなー。
そんな中俺はある職業が目に
留まった。
俺の個性とも相性が良く、
何より男子なら誰しも1度は憧れた職業
「忍者」という職業に。
これにしよう。
後は勢いに任せて決定と書かれたボタンを
押した。
「キーン」
すると急に空から音がした。
何かが空気を切り裂くような甲高い音を
響かせながら落ちてくる。
「ドカーン」
まるで隕石でも落ちて来たかのような
すごい大きな音がした。
まぁ隕石が落下したところ見たことない
けど…
少し怖かったが、どうなったのか確認する
ことにした。
恐る恐る覗いてみると、
クリスマスプレゼントを連想させるような、
緑のリボンで結ばれた赤い箱と、
1枚の便箋が落ちていた。
俺の物か分からなかったため、
開けていいのか少し迷ったが、
ゆっくりと近寄り、プレゼントボックスを
開けてみた。
すると、玉手箱を開けたときと同じくらいの
煙が出てきた。
まぁ玉手箱開けたことないけど…
中には動きやすそうな靴と日本刀、黒と紫の
2色からなる布が入っていた。
どうやら何かが畳んであるようだ。
広げてみると、
ガチのコスプレイヤーでも持っていないよう
な服になった。
これ忍者服だ!
そのとき頭の中でファンファーレが鳴り響い
た。
そして視界に文字が出てきた。
「裕翔は忍者服を手に入れた。」
何処ぞのRPGか!
って思わず心の中でツッコミを入れてしまっ
た。
イカン、イカンすっかり隣に落ちていた便箋
の事を忘れていたぜ。
開いて読んでみると、
「私からのささやかなプレゼントです。
大事に使ってね♡
ぼっちの裕翔くんへ愛しの女神様より」
初めて貰った手紙が女神様からって、
何か複雑な気分だ。
ていうか最後の言葉いる?いらないよな。
プレゼント嬉しかったのに最後で全てを
台無しにしてんじゃねーよ。
あーあ早く脱ぼっちしたいなぁ。
手紙を眺めているとそんな言葉が溜め息と
一緒に漏れた。
「誰か助けてー!」
女性の甲高い叫び声が唐突に響いた。
声のした方を見てみると、1台の馬車が
5人の男に囲まれていた。
男達は恐らく盗賊だろう。
いきなりラノベのテンプレ的展かよ、
と思いつつ女性を助けることにした。
さっき手に入れた日本刀を抜き、足音を
消して一気に近づいた。
そして、そのままの勢いで女性を襲おうと
していた男2人の首を跳ね飛ばした。
日本刀は初めて使ったが、わりと上手く
使うことが出来た。
「何だ⁉」
「何が起こったんだ⁉」
男達は現状を理解できていないようだ。
それもそのはず、俺は個性「影薄」により、
姿を視認されることは無いのだから。
今度は日本刀を心臓に突き刺して2人殺し、
残りは親玉とおぼしき男1人となった。
今になって事の重大さに気づいた男は
「どこだ⁉」
「どこにいる⁉」
「出て来ないとぶっ殺すぞ!」
と喚くが、そんなことを言われて出て行く
人はいないと思う。
ていうか俺は個性のせいで、出ていけないし。
俺は最後の言葉を言う時間も与えず、
首をはねた。
よし、初めての戦闘にしては上手く殺れた
かな。
自分なりには今の戦闘にはそれなりに満足
していた。
後はあの女性から感謝の言葉を貰うだけか。
ラノベ何かの主人公はこういう場面で
出会った人とそれなりに仲良くなる。
そのままその人がメインヒロインになる、
なんていう展開も珍しく無い。
俺ももしかして、と頭の中にはそんな妄想の
世界が広がっていた。
近くでよく見てみるとこの人めちゃめちゃ
可愛い。
金髪のショートヘアがとてもよく似合って
いた。結構タイプだ。
服装を見る限り結構裕福な家庭のようだ。
盗賊からも狙われていたし貴族なんだろう
か?
こんなに可愛い子が俺のものに…
最高だ!マジ最高!女神様ありがとう!
異世界召喚マジ神!
そんな妄想にふけっていると、
その子が近づいてきてそして両手を胸の前で
組んで空を見上げ、
「ありがとうございます。本当にありがとう
ございます神さま。」
と言って何度も深くお辞儀してきた。
命を救ったとは言っても、神さまは恥ずかし
い。
それにしてもこの子ずっと上を見ていて
本当に目を合わせようとしないなぁ。
俺、この子と初対面だよね?
この子に嫌われていないよね?
まるで俺のことが見えていないかのようだ。
あれ?見えていない?
………あ!俺、自分の個性のこと
忘れてた。
このまま立ち去ろうかと一瞬思ったが
やはり、お礼を言われたい。
というラノベ主人公への俺の強い憧れが
声をかけることを決心させた。
「すいません。俺、」
そう言って彼女の手を取った。
すると俺の言葉を遮るように急に、
「キャー」と彼女が叫んだ。
そして、
思いっきりお礼の頬をビンタしてきた。
その後、一瞬ハッとしたような顔をして、
自分の服の胸ポケットからナイフを出して
きて、俺がさっきまでいた場所に刃先を向け
て、
「あなたがさっきの盗賊の親玉ね‼」
と言い放った。
そして、
「あれ、いない?」
「どこに隠れた。早く出て来い!」
と言ってきた。
自分がビンタしてから手が離れて姿が
見えなくなっただけなのに。
ていうか、命の恩人に対して酷くね。
こちとら見ず知らずの他人なのに
助けてやったのに。
本当の恩知らずってこういうヤツのこと
言うんだな。
見た目が少しいいからって、
調子乗りやがって!
今度は絶対手を放さないように強く握って、
「お前を助けたのは神じゃねえ、俺だ
クソ野郎!」
やばい、怒りに任せてクソ野郎って
言ってしまった。
すると彼女は、
「クソ野郎とはなんですかー!」
と言ってきた。
言葉からも顔からも分かるように
キレていた。
そして、
「私を助けたのがあなた?
そんな貧弱な体で?
そんな嘘で騙される人なんかいませんよ?
盗賊の生き残りがこのまま逃げれると
思わないで下さい。
私が信仰する神ヘラ様を侮辱して、
ただでは済ましません!」
と言ってきた。
マジ調子乗んなよこの女ー!
俺の堪忍袋の緒が切れそうだ。
名誉毀損罪で処罰しよう!そうすれば
俺の怒りも鎮まるだろう。
どんな刑にしようかな?
うん、決めた。
死刑にしよう!
死刑!死刑!死刑!死刑!死刑!死刑!
脳内では死刑コールが始まった。
さようなら。永遠に。
後で墓くらい建ててやる。
心の中でそう言って刀を抜いた。
そしてあのクソ野郎は死んだ。
……はずだった。
刀が抜けなかったのだ。
人を殺めることを躊躇したわけでは無い。
でも、何故か抜けなかった。
すると、急に視界が真っ暗になった。
いつの間にかあの白い部屋に戻っていた。
あのクソ女と一緒に。
そしてあの女神が現れた。
そしてクソ女に向かって、
「あなたの命を救ったのは彼です。」
俺を指差しながら言った。
「あ、あなたは一体?」
「私は女神ヘラ。」
おい、コイツがあの女が信仰している
ヘラかよ。
確かに女神らしいし、名前も聞いて無かった
けど…
でも、あの女のことだから、
女神も俺の仲間だって言いがかりを
付けてくるかもしれない。
きっとそうだな。クソ女だし。
……そうなると思っていたのだが、
急にクソ女は正座をしたかと思えば、
頭を床にこすりつけだしたのだ。
その上、
「女神様、そこの盗賊が私の身を狙っていま
す。図々しいのは承知ですが、そのお力、
お貸ししていただけませんでしょうか。」
クソ女め。
神様の前でも嘘をつくのか。
恥を知れ‼
すると女神が、
「その者は盗賊では無い。」
神としての威厳をひしひしと感じた。
いつもとは違う、空気の塊を心臓に
直接ぶつけられたような感じがした。
「盗賊からお前の命を救ったのは私では
無い。」
「では一体誰が?」
コイツふざけてるの?
さっきから俺だって言ってんじゃん。
「そこの盗賊みたいなやつじゃ。
そいつが言った言葉は真実じゃ。」
おい、盗賊みたいなってなんだ!
「……」
反論は無かった。
コイツも神には逆らえ無いみたいだ。
「君たち2人に頼みがある。」
頼み?
「2人で協力して魔王を倒してくれ。」
何だそんなことか。なら、俺の返事は
決まっている、
「嫌です。」
「はあ?女神様の頼みを断るなんてありえな
い!ばっかじゃないの?」
「お前の考えを押し付けて来んな!
それに、拒否権があるから頼みなんだよ。
アホか。」
「いや、でも君にとっても悪い話じゃ無い
と思うんだけどなぁ。」
急に女神が仲裁に入ってきた。
俺を誘うような言い方、……うぜぇ。
まぁ話だけでも聞いてみるか。
「なんだよ?」
とても不本意だが、そう応えた。
「君の夢であるライトノベルの主人公のよう
になるには、必要なことだろうと思うから
さ。」
「それになななんと、今、引き受けると、
前報酬とイイねポイントを10ポイント
をプレゼント。」
どこの通販サイトだよ。
思わず、ツッコミを入れてしまった。
ここまで言われたら仕方ない、
「分かった。そのクエスト俺が受ける。」
(このクソ女をこき使い、簡単に魔王なんか
倒して楽しい異世界ライフを過ごしてやる!)
こうして、俺の異世界物語がスタートした。
不本意ながらクソ女と一緒に。
まぁ気長に過ごすとするか。
「ラノベの主人公に俺はなる!」