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転生したらAカップだったでござる  作者: 渡辺 孝次郎
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鬼塚の思い出

「ただいまでござる」

 魔法界で一夜いちやを過ごした虎之助とらのすけが、大阪DSPの宿舎しゅくしゃに帰って来た。

ーーやっぱり宿舎ここ一番落いちばんおくでござるーー

 そう思いながら食堂まで行くと、見知らぬ老人が一人でくつろいでいる。

「おぬしは誰でござるか?」

 初めて見る顔なのでたずねてみた。

「君こそ誰じゃ?」

 すると、老人は聞き返して来た。

拙者せっしゃは虎之助でござる」

「ワシは加藤、大阪DSPの新しい顧問こもんじゃ」

ーーそうか、鬼一きいちの代わりに来た顧問かーー

 そう思うと、急に鬼一きいちの事を思い出してしまい悲しくなって来た。

 無言で自分の部屋に向かうと

「君も忍者らしいな」

 と、加藤が声をかけて来たが、虎之助は無視して、加藤の横を通り過ぎようとした。

「君は伊賀いが唐沢家からさわけの出身らしいな」

 かまわず、加藤は話しかけて来る

「うるせえな、ジジイ」

 悲しみにひたっている時に、初対面しょたいめんの男に質問されてイライラして来た虎之助は、思っている事が声に出てしまった。

「ジジイって君」

 加藤は若いむすめに、ジジイ呼ばわりされておどろいている。

 そこに小太郎がやって来た。

「あっ、姉さんお帰りなさい」

「おおっ小太郎、聞いてくれ、このがワシの事をジジイって言うんじゃ」

 さっそく加藤は小太郎にうったえている。

「すんまへん。姉さんは加藤さんの前任者ぜんにんしゃ鬼一きいちさんと付き合ってたんやから、加藤さんの顧問就任こもんしゅうにん素直すなおに受け入れられへんのですわ」

「なるほど、そういう経緯けいいがあったのか」

 小太郎に説明されて、自分に対する虎之助の態度たいどが、なんとなく理解できた。

バタン

 虎之助が自室のドアを、閉める音が聞こえる。

「あのが心を開いてくれるのには、かなり時間が掛かりそうじゃ」 

 加藤は、ため息をつきながら、つぶやいた。



 日本テクロノジーコーポレーションの社長室では鬼塚おにずかと川島が、鬼神である夜叉やしゃと話し合っていた。

「それで、国際電気保安協会こくさいでんきほうあんきょうかいのスヴェントヴィトと大阪DSPの顧問こもんが死んだのか」

 夜叉は相変あいかわらず、威厳いげんのある口調でたずねる。

「そうでんねん。それで肝心かんじん白鬼はっきさんは、いつの間にか消えてたんですわ」 

 夜叉から、白鬼はっき動向どうこうさぐるようと指示しじされていた鬼塚が説明している。

「敵であるスヴェントヴィトとDSPの顧問こもんの死は、ワシらにとって有益ゆうえきな事ではあるのだが、白鬼が仕組しくんだ事となると話は別だ」

 夜叉は腕組うでぐみしながら、にがい顔をしている。

「確かに、白鬼さんは大阪の担当じゃありませんからね、あきらかに越権行為えっけんこういですよ」

 川島も白鬼の行動を不信がっている。

「うすうすは感じてたんでっけど、あのDSPの小娘と、なんか関係あるんちゃいまっか」

 めったに働かない鬼塚の直感が、めずらしく発動ほつどうした。

「よし。お前、その小娘をとっつかまえて来い。何かわかるかも知れん」

 夜叉が鬼塚に向かってあらたな指示を出した。

「無理です」

 しかし、ハッキリとことわる鬼塚。

「なんで無理なんや?」

「ああの小娘はムッチャ強いからです」

 鬼塚は、なさけない理由を堂々と言い切った。

 しかし、鬼の世界では、鬼神の指示をこばむ者など存在そんざいしない。

「しゃーないやっちゃな。じゃ川島、お前も一緒に行って、力ずくで無理ならだましてでも連れて来い」

 怒り出すかと思われたが、夜叉は意外にもおだやかな口調で言った。

ーーことわるんや川島。あの小娘を連れて来るなんか、俺らには無理やってーー

 鬼塚はいのりながら、川島に目でうったえた。

「わかりました」

 鬼塚の願いはむなしく、素直に了解りょうかいする川島。

ーー社長はことわって欲しそうだが、鬼神の指示しじを断ることなど私には出来ないーー

 内心ないしんは、仕方しかたなしに了承りょうしょうしていた川島である。

「じゃ、頼んだで、2人とも」

 夜叉は満足そうに微笑ほほえんでいるが、鬼塚のテンションはダダがりであった。


 

「くそっ、なんで俺がこんな事せなアカンねん」

 翌日、鬼塚は愚痴ぐちりながらも、虎之助が良く出没しゅつぼつすると言われている商店街に来ていた。

「社長、そう言わずに。あの小娘は食べ物に弱いと聞いていますので、食べ物でりましょう」

 そう言いながら、川島がなだめている。

「しかし、なんやな。この商店街も昔とくらべるとサビれてもうたな」

「社長は、この商店街をご存知ぞんじだったのですか」

「知ってるも何も、高校の通学路つうがくろやったから、毎日通まいにちかよってたで」

 うれしそうに話す鬼塚。

「お気に入りの、お店とかあったんですか?」

「あの米屋でってた猫が、俺の親友やったんや」

 米屋をゆびさしながら、鬼塚は楽しそうである。

「猫と親友だったのですか」

「そうや。いや待てよ、なぜか人間の友達がおった記憶が無いな。何でやろ?」

 鬼塚は急になやみ出した。

「現実に人間の友達が、居なかったんでしょう」

「そんなアホな、学生時代に俺は人気者やったハズや」

「いったい、誰から人気があったんですか?」

「誰からって、男子からはウザがられてたし、女生徒からはあきらかにきらわれとったから……」

 しばらく鬼塚は考え込んで

「そうやった、俺はきらわれ者やったんや」

 忘れていた真実を思い出してしまい、鬼塚はヘコみ始めた。

 そんな時に向こうから、同じようにヘコんでいる虎之助がやって来た。

「社長、例の小娘こむすめが現れましたよ」

 川島が鬼塚に伝える。

「そんな小娘より、俺の過去の方が気になるんやけど」

 相当そうとうおちこんでいる鬼塚。

「今は、アンタの過去なんか、どうでも良いんですよ。あの小娘をつかまえるように、夜叉やしゃさんから言われているでしょ」

「それはそうなんやけど」

 気持ちの整理がつかないまま、虎之助の方へ向かって、トボトボと歩き出す鬼塚であった。

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