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転生したらAカップだったでござる  作者: 渡辺 孝次郎
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愛が芽生えるとき

「こらっ、俺の顔で遊ぶんじゃねえ!」

 虎之助とらのすけにビューティフルチョップをされて、羅漢鬼らかんき激怒げきどしている。

いじゃないか、イケメンになったんだから」

「そうでござる、イケメンは怒っちゃダメでござる」

 鬼一きいち虎之助とらのすけが、そろって言い返す。

「えっ、そんなにイケメンになったのか?」

 2人にそう言われて、自分の顔を見ていない羅漢鬼らかんきは、少し気になって来た。

「どっかにかがみはないかな」

 羅漢鬼らかんきは鏡を探しだした。

ーースキあり、今でござるーー

拙者せっしゃの、もう一つ属性ぞくせいためすでござる」

 虎之助が何やらじゅつとなえると、どこからともなく数十匹の黒蛇くろへびい出して来た。

 黒蛇くろへびは、それぞれが暗黒闘気あんこくとうきをまとっており、骸骨がいこつのような不気味ぶきみ外見がいけんをしている。

 そんな黒蛇くろへびが、次々と羅漢鬼らかんきおそいかかった。

「うわっ!なんだコイツら」

 必死に払い落とそうとするが、黒蛇くろへびの集団は、しつこく向かって行き、羅漢鬼らかんき身体からだらいつく。

 つかんで引きちぎろうとするが、暗黒闘気あんこくとうきに守られているため、引きちぎる事が出来ない。

 醜悪しゅうあくな姿をした何十匹もの黒蛇くろへび羅漢鬼らかんきわれていく。

「俺の再生能力をめるな」

 食われた部分を再生して行くが、黒蛇くろへびう速度の方が早く再生が間に合わない。

「うえっ!なんて、おぞましいわざだ」

 味方みかた攻撃こうげきではあるが、鬼一きいちは気持ち悪くて見ていられない。

 見る見るうちに羅漢鬼らかんきは、くされて行く。

「うぎゃぁあ、助けてくれ」

 羅漢鬼らかんき断末魔だんまつまが聞こえる。

 黒蛇くろへびたちは、完全に羅漢鬼らかんきくすと、うねりながら暗黒闘気あんこくとうきとも天高てんたかく空に登って行った。

 先程さきほどまで羅漢鬼らかんきの居たところには、跡形あとかたもなく食いくされて何も残っていない。

 あまりにも残虐ざんぎゃく光景こうけいを見せられた他の鬼たちは、おびえて逃げさってしまった。

拙者せっしゃの2つ目の属性ぞくせいは、へびでござるな」

 勝手に虎之助は納得なっとくして満足げな顔をしている。

「いや、お前の属性ぞくせいというか、今のは悪魔の所業しょぎょうだ!」

 鬼一きいちは声をふるわせている。

 百戦錬磨ひゃくせんれんまの戦士である鬼一きいちおびえた表情をしている。

ーーうわっ、鬼一きいちおびえて引いているでござる。なにかマズかったかなぁーー

ちがうでござる!さっきのは何かの間違まちがいでござる」

 顧問こもんである鬼一きいちに引かれて、あせった虎之助は弁明べんめいし出した。

「さすがに今のじゅつは恐ろし過ぎる、人の身で出来ることでは無い。きっ、君はいったい何者だ!」

 おびえながらも、鬼一きいちたずねる。

ーーヤバい、なんとか誤魔化ごまかさないと、拙者せっしゃ邪悪じゃあくな悪魔だと思われてしまうーー

「ほらっ、鬼一きいち。これを見るでござる」

 五円玉を糸でった物を鬼一きいちに見せると、虎之助は五円玉をらしながら

「眠くなぁる、眠くなぁる、そして今見た事は忘れるでござ〜る」

 と、となえた。

「くふっ」

パタリ

 虎之助の術で鬼一きいちは、その場で深い眠りに落ちて倒れ込む。

「ふぅ、唐沢家極秘術からさわけごくひじゅつ忘却術ぼうきゃくじゅつ』なんとか成功したでござる」

 ひたいの汗をぬぐいながら、今度は眠っている鬼一きいちき起こして

鬼一きいち。起きるでござる」

 と、声をかける。

 すると「はっ」と、鬼一きいちが目をました。

 なぜだか、虎之助に膝枕ひざまくらをしてもらって寝てしまっていたようである。

「恐ろしい夢を見ていた気がする」

 と、つぶやき、気が付くと大量のあせをかいている。

「恐い夢を見ていたの?でも、もう安心でござるよ。敵は拙者せっしゃが倒したから」

状況じょうきょうが良くわからないが、君が倒してくれたのか。ありがとう、もう大丈夫だ」

 鬼一きいちは立ち上がろうとしたが

「もう少し、休んだ方が良いでござる」

 先程さきほどおびようを見ていた虎之助は、ごくわずかしか持ち合わせていない母性本能がくすぐられて、鬼一きいちのことが可愛かわいらしく思えた。

「いや、そうも言ってられ…」

 そう言いかけた鬼一きいちが立ち上がろうとした時、虎之助の顔が間近まじかで見えた。

ーー近くで見ると、なんと優しげで美しい娘だ。それに、もう何年も経験していなかった、このやすらぎは、なぜか無性むしょうに落ち着く。できる事ならずっと、こうして居たいーー

 と、久しぶりに女性の母性的ぼせいてきな優しさを感じ、心をうばわれてしまった。

 今この瞬間しゅんかん日常にちじょうでは良くある事と言い伝えられている『勘違かんちがいから生まれた愛』が芽生めばえようとしていた。

 見つめ合う2人は、おたがはげしくきしめ合い、くちびるをかわす。

 その後ろで、まだチワワとタヌキと会話している武蔵むさし

 そのまた後方の自販機の裏で、退避たいひしたままの小太郎こたろう狂四郎きょうしろう

 戦いは終わった。

 だが、鬼一きいちは他のメンバー同様どうように、戦うことしか知らなかった人生を送っていたため、女性を見る目が皆無かいむであった。

 そして、武蔵・小太郎・狂四郎は阿呆あほであった。

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