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転生したらAカップだったでござる  作者: 渡辺 孝次郎
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黒瀬と虎之助

夜叉やしゃさんが来たって!」

 鬼塚おにずか川島かわしまおどろいて、ほぼ同時に聞き直した。

「そうです。一階の受付から連絡れんらくがあって、もうすぐ社長室ここに来るそうです」

 秘書ひしょ冷静れいせいに答える。

「どないしょ、逃げようか?」

 アイコスを持ちながら、あわてる鬼塚。

「逃げてどうなるんですか、ちゃんと応対おうたいしましょう」

 川島は冷静れいせいに鬼塚をさとす。

「ああ、そうやな。どしっとかまえとこ」

 落ち着きを取りもどした鬼塚は、ソファにすわふたたびアイコスをい出した。

 その時

ガチャ

 とびらの開く音がして

「鬼塚はるか?」

 と、男の低い声が聞こえてきた。

ーー夜叉やしゃの声や、どないしょーー

 鬼塚は、ビビってアイコスを落としそうになった。

「鬼塚社長は、こちらです」

 川島が夜叉やしゃ応対おうたいをしている。

「おお、鬼塚。ひさしぶりやなぁ」

 中年の上品な紳士しんしが入って来た。

「おっ、おひさしぶりです、お義父とうさん」

 ぎこちなく、鬼塚が挨拶あいさつを返す。

 夜叉やしゃの外見は、ぱっと見は気品のある紳士だが、よく見ると神々しいオーラがただよっており、近づきがた雰囲気ふんいきがある。

「なんでワシが、ココに来たか分かるか」

 鬼塚は、いきなりむずかしい質問しつもんをされた。

ーーそんなもん、わかるわけないやろーー

 と、思いながらも

優子ゆうこに会いに来たとか」

 自分のよめであり、夜叉やしゃの娘の名前を出してみた。

ちがうな」

ーーしまった、間違まちがえたーー

 部屋の空気がこおりつき、室温が20度ほど下がったような気がした。

ーーもう次は、間違まちがえられんーー

「じゃ、レムリアの事ですか」

 と、言いながら鬼塚は、夜叉やしゃの顔色を、チラチラとうかがう。

「まあ、良いやろう、レムリアの事もあるからな。実は、白鬼はっきの件や」

ーー良かった、ギリギリ間違まちがわなくてーー

 鬼塚は、ホッとした。

「鬼塚、お前、なにホッとした顔してんねん。白鬼のことは重要じゅうようやぞ」

 またもや、寒気がおそって来た。

「すいまへん。白鬼さんが、どうかしはりましたんでっか」

「大阪はワシの担当地区や、ほんで、今はお前にまかせとる」

「そうですね」

「なのに、最近はレムリアを使って何かたくらんどる。この前なんか、白鬼自身も大阪で目撃もくげきされとるしな」

「目的は、何なんでっか?」

 夜叉やしゃは一度、目を閉じてから

「それが分らんのだ。とりあえず、また大阪に白鬼があらわれたら、すぐにワシに報告ほうこくするんだぞ」

 と、鬼塚に指示しじした。

「わかりました。でも、レムリアは誰かに殺されたみたいでっせ」

「なんだと、誰にられたんや」

 夜叉やしゃは知らなかったようで、おどろいている。

「国際電器保安協会かDSPの連中れんちゅうだと思うのですが、私の予想よそうではDSPの小娘こむすめあやしいでんな」

「なんだ、その小娘は」

「それが、意外と強い小娘で、われわれも手をいてるんです。国際電器保安協会の幹部かんぶも、かなりたおされているようです」

 鬼塚が説明する。

「なるほどな。まあ、レムリアが殺されたのなら、白鬼に動きがあるかもしれん。大阪で何かあったら、真っ先にワシに言うんだ」

 威圧感いあつかんのある口調くちょうで、鬼塚は息苦しく圧迫あっぱくされながらも

「わかりました」

 と、答えた。




 難波なんばのフレンチレストランでは、いつもの事ながら、黒瀬くろせ虎之助とらのすけおごらされていた。

 虎之助は、短パンに大きめのTシャツ姿で、見た目だけは非常に可愛かわいらしく、料理を美味おいししそうにムシャムシャと食べている。

 毎回、おごらされており面白おもしろくない黒瀬は、若林わかばやしが虎之助とデートしたがっている事を思い出し、おごり役を代わってもらおうと思いついた。

「そういえば、若林が虎之助さんと、2人で食事に行きたいって言ってましたよ」

 おもいきって言ってみた。

 虎之助は、チラッと黒瀬の顔を見て

「若林はタイプじゃ無いでござる」

 と、意外な返答へんとうが返って来た。

 ーー若林がタイプじゃ無い?じゃ、俺は何でいつもおごらされるんだ。まさか、俺の事がタイプなのか。自慢じまんじゃ無いが、俺は女にモテた事が無い。しかし、性格は別として、可愛かわいらしい娘に好かれるのは、悪い気はしないがーー

 などと、黒瀬が考えていると。

「黒瀬。今、おぬしが考えている事を、当ててやろうか」

 虎之助が、じっと黒瀬の顔を見ている。

ーーなんだこいつ、まさか読心術どくしんじゅつが使えるのか?変な事を考えてたので、バレたらヤバいーー

 黒瀬は急にずかしくなった。

「おぬしは、向かいのカフェで、拙者せっしゃ一緒いっしょ紅茶こうちゃとケーキが食べたいと思っているでござるな」

 自信じしんありげに、虎之助が指摘してきした。

ーーなんだ、思っていた事と全然違ぜんぜんちがうじゃないか、読心術どくしんじゅつでは無かったか。しかし、この娘、まだ俺におごらすつもりだなーー

 ホッとしたのと、またおごらされるのかという思いが、同時におそって来た。

「いえ、別に、そんな事は思ってませんよ」

 黒瀬は、本心ほんしんを言い切った。

 虎之助はバックの中から、短刀たんとうを取り出して

「いいや、思ってたでござる」

 と、低い声でおどすように言った。

「わっ、わかりました、思ってましたよ」

ーーこのは、平気で鬼を殺すからなぁーー

 殺されるよりはマシだと思い、黒瀬はあきらめた。

「では、さっそくカフェに行くでござる」

 虎之助は黒瀬の左手をって、カフェに連れて行こうとする。

「早く行くでござる」

 満面まんめんみをかべながら、虎之助は黒瀬をかす。

ーーくっ、見た目は、確かに可愛かわいらしいだが、なぜか納得なっとくがいかんーー

 しぶしぶ黒瀬も、財布さいふを出しながら立ち上がった。

 結局けっきょく、黒瀬は虎之助におごり続けるのであった。

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