クロノス
ゼウスとハーデースは、ライアンとマーゴットを引き連れてポセイドンの救出に向かっていた。
「俺の神通力によると、こっちだな」
ハーデースは、難波方面に向かって歩いて行く。
「ワシの好奇心によると、ココじゃな」
ゼウスは、キャバクラに入ろうとする。
バキっ!
ゼウスは後頭部をハーデースに殴られた。
「お前の好奇心なんて、今は、どうでも良いんだよ!」
「痛いのう。この全知全能のゼウスを殴るとは、神をも恐れぬ行為じゃぞ」
「うるせえ!俺はバカな弟を殴っただけだ」
ハーデースはキレている。
「キビシいのお」
ゼウスは後頭部を摩りながら、しぶしぶハーデースに付いて来る。
「ちょっと、このゼウスってお爺さん、大丈夫なの?」
小声でマーゴットが、心配そうにライアンに聞いた。
「ゼウス様は一応、三神の一人なんだけど、見てると俺も少し心配になって来た」
ライアンとマーゴットは、不安そうに付いて来ている。
その時、体格の良い男が真っ直ぐに、こちらに向かってやって来るのが見えた。
なにか異様なオーラを、かもし出している。
「奴は、ただ者ではない。みんな気を抜くな」
ハーデースの言葉で、一行に緊張が走った。
岩法師と虎之助が難波に到着した時には、ゼウスたちは既に何者かと対峙している所であった。
背が高く、黒いスーツを着た筋肉質の男である。
「奴は鬼だ。ゼウスたちと何か話しているな、しばらく様子を見よう」
岩法師の提案で、2人は隠れて様子を、うかがう事にした。
「ポセイドンとヘスティアを、返してもらおう」
ハーデースが、鬼に向かって言った。
「それは出来ぬ。なぜなら、お前たちは今から死ぬからだ」
「ふざけた事を言うな。お前の正体は分かっているぞ、クロノス」
「クックッ、さすがはハーデース。鬼神の白鬼と呼ばれるようになり数万年経つが、我のことを覚えていたか」
白鬼と呼ばれていた鬼神の正体は、ティターン神族のクロノスであった。
「なんだ、お前はクロノスだったのか。ビビって損したわい」
5万年前に、ティターン神族を追い払った事があるゼウスは、完全にクロノスを舐めてかかっている。
「我は、この5万年の間、お前たちを倒す事だけを考えていたのだ。もう既に、お前たちは負けている」
白鬼が、そう言った途端、ハーデースたち4人はドス黒い瘴気に包まれて消えてしまった。
「我が、時間と空間を操る神だという事を、忘れていたようだな」
「なんだ、今のは。奴の術を見たか?」
岩法師が、虎之助に聞いた。
「あんな術は、知らないでござる」
「うかつに、挑むとマズイな」
「大丈夫、拙者が行ってブッ殺して来るでござる」
「ダメだ。鬼神が相手では、お前でも無理だ」
と、岩法師が止めるが、すでに虎之助は白鬼に向かって走り出している。
「お前を、殺すでござる!」
刀を抜き、白鬼に斬りかかる虎之助。
ガチヤッ!
金属音が鳴り、斬りかかった虎之助の刀が白鬼に握り潰されてしまった。
「お前は転生者だな」
意外に落ち着いた声で、白鬼が問いかける。
「そうでござるが、お前は今から死ぬでござる」
虎之助の手刀が、白鬼の首を狙った。
「むうっ」
首元ぎりぎりの所で、白鬼は虎之助の手首を掴み手刀を止める。
「この技のキレ。もしや、貴様があの凄腕忍者か」
「そうでござる。拙者が最強の忍者でござる」
「お前が、そうだったのか」
「拙者が、そうだったのでござる」
白鬼は何故か攻撃してこずに、虎之助をじっと見ている。
「お主は、戦う気があるのでござるか?」
攻撃して来ない白鬼に、虎之助は不審に思った。
「我と一緒に、京都に行かないか?」
白鬼から、意外な台詞が出た。
敵から思わぬ誘いを受けて、戸惑いながらも
「拙者は、行かないでござる」
と、答えながら虎之助は白鬼に向って行く。
「美味い京料理が食えるぞ」
「京料理でござるか?」
虎之助の動きが止まった。
ーーヤバい、食べ物で虎之助を釣る気だーー
様子を伺っていた岩法師は、焦りながら見ている。
「その京料理に、松茸は含まれているでござるか?」
「今は松茸の季節では無いから、含まれてないと思うが」
「では、今から、お前を殺すでござる」
虎之助は、手刀を白鬼に向けて構える。
「はははっ、まあ待て。松茸など秋になれば、いくらでも食わしてやる」
「本当でござるか?」
虎之助の口から少し、よだれが出た。
ーーまずい。あのアホ娘、松茸で買収されかけとる。こうなったら仕方ないーー
隠れていた岩法師は
「なにをやっとる!虎之助」
姿を現して、虎之助を怒鳴りつけたが
「この男が、拙者に松茸を、ご馳走してくれるでござる」
と、虎之助は嬉しそうに、岩法師に説明し始めた。
「馬鹿者!この男は敵だ」
岩法師が、さらに怒った。
虎之助は少し考えてから
「あっ、そうだった、忘れてたでござる。今からブッ殺すでござる」
と、本来の目的を、ようやく思い出したようである。
2人の様子を見ていた白鬼は
「相手になっても良いが、今のところは我も忙しいのでな。また会おうぞ」
と、言い残して、フッと消えた。
「消えたな」
「消えたでござる」
2人は、しばらく白鬼が居た場所を眺めていたが、ふいに岩法師が
「そうだ!拙僧たちは、小太郎を探しに来たんだった」
と、肝心な事を思い出した。
「小太郎は、どこでござるか?もしかすると、さっきの男に松茸料理を、奢ってもらっているのかも知れないでござるね」
小太郎を探しながも、虎之助は不安そうである。
「それは、無いと思うぞ」
「なら、良いんでござるが」
虎之助は、安心した。
「なら良いのか?」
ーーそんなに松茸が食べたかったのか。コイツ、食べ物で簡単に寝返りそうだなーー
岩法師は逆に不安になった。
2人がそんな会話をしていると、ボコッと、土の中から腕が出てきた。
「なんじゃ、コレは」
岩法師が驚いていると、人の顔も出てきた。よく見ると小太郎である。
「おふたりさん、見てないで助けて下さいよ」
小太郎の体は、まだほとんど地中に埋まっている。
「小太郎、どうして埋まってたのでござるか?」
腕を引っ張っりながら、虎之助が尋ねた。
「あの大男に殴られて、地面に、めり込んでもうたんですわ」
「そこまで深く地面に埋まるなんて、凄いパンチだな」
岩法師は感心している。
「いやぁ、油断しましたわ。あんなに怪力やとは思ってまへんでしたから」
虎之助に引きげられて、すっかり地面から出てきた小太郎は、おもいの他、元気そうである。
「とりあえず、宿舎に帰って風呂に入れ、ドロだらけだぞ」
「そうさせて、もらいますわ。しかしあの男、今度、会ったらブチ殺してやりますよ」
小太郎は、口先だけであるが復讐に燃えるのであった。
3人が宿舎に戻ると、鬼一と桜田刑事と狂四郎が何か話し込んでいた。
「ただいまでござる」
「鬼一さん、なにやら深刻そうですが、どうかしましたか?」
気になって岩法師が聞いてみると。
「やあ、みんな帰ってきたか。実は京都から応援が来ることになった」
と、鬼一は笑顔で答えた。




