鬼神
鬼一と岩法師、狂四郎は、国際電器保安協会の隠れ家の通路を抜けたところであった。
そこは、大きなフロアーになっており、試着室の裏にしては、かなり広い空間である。
狂四郎が
「あそこに誰か居るぞ」
と、フロアーの奥を指さす。
そこには、ゼウスやハーデースたちが待ちかまえていた。どうやら、付けていた事がバレていたようである。
「待っていたぞ、DSP[デビルスペシャルポリス]の転生者ども」
ハーデースが、ゆっくりと向かって来る。
「だとしたら、どうするんだ」
と、鬼一は強がってみたものの、ハーデースの身体から出ている異様な神気に気づいていた。
ーーこの男、とんでもなく強いーー
「お前たちには、冥界に落ちてもらう」
ハーデースは、いきなり3人に向けて『冥界波』を放つ。
ーーこの技はヤバいーー
鬼一は咄嗟に
『迷方路陣』
と、素早く防御術を唱えた。
すると、あたりは、霧がかかった樹海のような風景に変化して、鬼一たちの姿は完全に消えて行く。
急に現れた樹海を眺めながら
「ちっ、逃げられたか」
ハーデースが悔しそうに呟く。
「奴らは雑魚よ、ほっといてポセイドンたちの救出を急ぎましょう」
「確かに、ポセイドン救出が優先だ。しかし、これ程の術者を生かしておくと後で厄介だ。ゼウス、あれをやれ」
ハーデースが、ゼウスに催促する。
「あれって何じゃ?」
「あれだよ、あれ」
「ああ、あれじゃな」
ゼウスは、腰を落とし両手を引いて構えた。
「か〜め〜は〜め〜」
「ちょっと待て!お前は、いったい何をしとるんじゃ」
ハーデースが突っ込む。
「なにって、かめはめ波じゃ。お前が、やれって言ったんじゃろ」
「違うだろ!かめはめ波で、どこを攻撃すんだよ!だいいち、かめはめ波なんて、お前は出したことが無いだろ!」
「なんじゃと!男なら一度は、出来るかどうか試すじゃろ」
「今、試す必要は無いんだよ、お前は小学生か!オリンポス親衛隊を召喚するんだよ!」
ゼウスは、ハーデースに怒られた。
「ああ、そっちじゃったか。では『親衛隊召喚』」
ゼウスが唱えると、3人の屈強なオリンポスの戦士が出現した。
「今日は調子が悪いのぉ、3人しか出なかったわ」
「3人で充分だ。さっきの奴らは親衛隊に任せてポセイドン救出に行くぞ」
「では、お前らは、転生者どもを見つけて抹殺するのじゃぞ」
ゼウスは、オリンポス親衛隊に指示を残すと、ハーデースたちと去って行った。
ーーまずい事になったな、国際電器保安協会の、あんな大物が出て来ているなんて計算外だ。とりあえず一度、署に戻ろうーー
鬼一は、みんなを脱出させたものの、立ち合った瞬間にハーデースやゼウスの強さが、桁違いに巨大なことを見抜いていた。
「鬼一さん、どうしたんだ?確かに強そうな相手ではあったが、戦う前から逃げるなんて、アンタらしくないぞ」
岩法師が心配している。
「アイツらはヤバい。特に陰気な男と爺さんの2人は、あのリンゼイ老師以上の実力の持ち主だ」
「なんと、そんな男が2人も」
路上で岩法師と鬼一が話していると
「変な3人組が、追いかけて来るぞ」
と、狂四郎が刀を抜いて構えだした。
ブランド服屋の方向から、親衛隊の3人がコチラに向かって走って来る。
オリンポス親衛隊というだけあって、全員ムキムキマッチョで剣と盾を持っている。
「殺るぞ!」
ーー奴らぐらいなら、なんとかなるーー
鬼一の掛け声と共に、岩法師と狂四郎は、親衛隊を迎え撃つ。
京都のある屋敷に、黒服の男たちが入っていく。この屋敷は、古来から鬼神が住むと言われている鬼屋敷である。
時空の間に存在しているため、普段は人の目には見えないのであるが、今はハッキリと、その姿を現している。
「白鬼様」
屋敷に入った黒服の男が呼ぶ。
「首尾はどうだ?」
白鬼と呼ばれた男が尋ねる。
「はい、ポセイドンとヘスティアは捕らえましたが、ハーデースには逃げられてしまいました」
報告を聞くと、白鬼は立ち上がった。背が高く均整のとれた体格をしている。
「では、征くか」
「何方に行かれるのですか?」
「ゼウスとハーデースのいる大阪だ」
と、言い終えると、スッと白鬼の姿が消えた。
激闘の末に、鬼一たちは、なんとかオリンポス親衛隊を倒すことが出来た。
「俺は今から大阪府警に行って、今後の対策を相談して来る。君らは宿舎で待機していてくれ」
と言うと、鬼一は大阪府警に行ってしまった。
「鬼一さんは、えらく神経質になっていますが、アイツらそんなに強いんですかね」
「彼がそう言うのなら、そうであろう」
狂四郎と岩法師が話しながら、宿舎に帰ってみると、ピザを食べ終えた虎之助がリビングでお腹を出して寝ている。
「小太郎はどうした?」
岩法師は、虎之助を起こしながら聞いた。
「ムニャムニャ、敵エネルギー発見レーダーに、どえらいエネルギー反応が出たとか言って、見に行ったでござる」
まだ、虎之助は眠そうである。
「アイツ、一人で行ったのか?」
「一人で充分でっせ、って言ってたでござる」
「いや、無理だろ。場所は分かるか?」
「難波だと思うでござる」
「心配なので拙僧も行ってみる。虎之助、お前も来てくれ」
「拙者は、まだ眠いでござる」
虎之助は、目をこすりながら拒んでいる。
「あとで、寿司を奢ってやるから」
「それなら、行くでござる。敵がいたら拙者が全員ブッ殺すでござる」
寿司と聞いて完全に目が覚めた虎之助は、自分の刀を持って、お寿司を食べている自分を想像しながら、笑みをを浮かべるのであった。




