アポロンの帰還
「あれで良かったのかのぉ」
ぬらりひょんは、大阪鬼連合団のカンファレンスに飛び入り参加した事について、喫茶店で何者かと話をしていた。
「良いと思いますよ」
相手はスーツを着た細長い体型で、顔の大きさに似合わない大きな眼鏡をかけている、神経質そうな男であった。
「しかし、ワシらは別に住む所に困っておらんのじゃが」
「それは、わかっていますが、相手に信じ込ませる為には、嘘でも良いのでコチラの弱みも見せておくのですよ」
「そんなもんかいのぉ」
「でも、貴方のおかげで、我われが動きやすくなりました。レムリア様も、お喜びになっておられますよ」
スーツの男は満足そうに話しているが、ぬらりひょんには、男の眼鏡の奥に小さな人影が見えた。
ーー不気味な男じゃ、やはり関わりにならん方が良かったかのうーー
DSP[デビルスペシャルポリス]の宿舎では、いつものように皆んなで、朝ご飯を食べていた。
「また、この薄っぺらトーストかあ」
毎度ながら、小太郎が愚痴っていると
「文句を言わないで食べないとダメだよ、小太郎兄ちゃん」
少年の左近に、注意されてしまった。
「すんまへん、左近さん。しかし、この前の姉さんは凄かったでんなあ。アポロンっていう奴は、手も足も出なかったですからね」
「拙者の強さは、4000年の歴史を誇るエジプトのクフ王並でござる」
虎之助は自慢げに言ったが、小太郎は少し困った顔をしている。
「すんまへん。そのクフ王っていう人、知りまへんので、40年の歴史を誇る『焼そばバゴォーン』に変えてもらえまへんか」
「えっ、ええと。それじゃ、拙者の強さは40年の歴史を誇る『焼そばバゴォーン』並でござる」
「へえ、そうでっか、まったく意味が分かりまへんな。まあ、最初から興味もありまへんけど」
小太郎は、素っ気なく言った。
「ところで、小太郎。式神の修行は続けているのか?」
岩法師が聞いて来た。
「よくぞ聞いてくれました。ついに猫を出す事に成功したんですよ」
小太郎は、得意気である。
「ほう、哺乳類を出せるようになったか。大進歩だな」
「もっと練習して、セクシーギャルが出せるまで、頑張りますわ」
小太郎が自慢話をしていると、虎之助も
「拙者の召喚術も、腕を上げたでござる」
と、自分の自慢を聞いてもらおうと、会話に入って来た。
ーーコイツの召喚術は、プレアデス星人や太陽系暗黒大魔王みたいに、非常識な奴ばっかりだからな。ここは、話を変えようーー
「そうだ、狂四郎。仙道の修行は順調か?」
岩法師は、話題に変えた。
「かなり順調ですよ。姿くらましや小型の龍なら出せる様になりました」
狂四郎も、真面目に練習しているようである。
「拙者も、強烈な毒の調合に成功したでござるぅ」
虎之助は、どうしても自慢がしたい。
「お姉さんは、凄いなぁ」
一人、左近だけが感心してくれている。
「おめえの毒は危ないんだよ」
冷めた口調で、狂四郎が言った。
「狂四郎のアホ仙道より使えるでござる」
「なんだと、このAカップ娘!」
いつもの事であるが、虎之助と狂四郎の喧嘩が始まった。
「お主は、キングオブ阿呆でござる」
「お前こそ、日本有数のアホ忍者のクセに」
「お主の方こそ、インターナショナル・グローバル阿呆でござる」
「黙れ、チビ貧乳!」
ブチッ!
虎之助がキレた。
ブチ切れた虎之助は、メイド少女戦士マリリンに変身して
「貴様をブチ殺すでござる!」
と、狂四郎に毒入りコーヒーを飲まそうとした。
「まずい!みんな止めろ!!」
鬼一が叫び、全員でメイド少女戦士マリリンを抑えつける。
「お前ら皆んなブチ殺して、猫の餌にしてやる!」
さらに、メイド少女戦士マリリンは暴れだした。
「落ち着け、虎之助」
鬼一の声が虚しく響く。
敵も現れていないのに、定期的に修羅場と化す宿舎であった。
その頃、国際電器保安協会ギリシャ本部では
「グリゴリオス局長、アポロンが帰って来ました」
諜報部長のアレクシオスが、アポロンを連れて局長室に入って来た。
「ご苦労さま。君が帰って来たという事は、日本の鬼や転生者は全滅したという事ですね」
グリゴリオスは、助六寿司を食べながら上機嫌である。
「いや、一人とんでもなく強い転生者が居たんで、加勢を頼みに来たんだ」
と、アポロンは答える。
「ななっ、なんと!君より強い者が、日本にいるのか!」
グリゴリオスは、食べかけた助六寿司の、巻き寿司を落としてしまった。
「そうだ。ゼウス様に出陣を、お願いしたい」
「あわわっ、ゼウス様の出陣ですと」
グリゴリオスは、いなり寿司も落としてしまった。
「そうだ。早くゼウス様に伝えてくれ」
「ゼウス様は、お忙しいお方ですから。今は、ええと」
グリゴリオスは、パソコンでゼウスのスケジュールを調べている
「ゼウス様は、現在、スマホのマッチングアプリで、ご自分に合う女性を探しておられる」
「そんな、くだらねえ事してんの?ていうか、そんな細かいスケジュールがパソコンで見れるのか」
「我がギリシャ本部の科学力をもってすれば、ゼウス様の行動など、すべてお見透しだ」
グリゴリオスは得意気に話す。
「そんなに監視されて、ゼウス様は、よく嫌がらないなぁ」
アポロンは呆れている。
「ゼウス様は、この世で最も寛大な御方ですからな。だが、マッチングアプリをされている時に連絡したら、人として、あり得ないほど激怒されるので、要件は後で伝えておく」
「全然、寛大じゃないやんけ!とにかく、ゼウス様と本部の最強メンバーをよこすように、伝えておいてくれ。俺は、先に日本に戻っているから」
「了解した」
グリゴリオスは快諾した。




