牛鬼の覚醒でござる
結局、以前に黒瀬たちと虎之助がやり合った廃校のグランドで決着をつける事になった。
「本当に、あの娘と殺り合うつもりですか?」
若林は、できれば虎之助とは戦いたくない。
「仕方ないだろう、転生者なんだから」
対象的に杉本は、やる気まんまんである。
「でも、あのタヌキ顔が、凄くタイプなんですよね」
「バカだなぁ、お前は、アニメや漫画に出て来るタヌキに騙されてるぞ。本物のタヌキは、犬やキツネと似ていて細い顔をしてるんだ」
「そうなんですか?タヌキって丸顔だと思っていました」
「どちらかというと、アライグマの方がタヌキ顔だな」
「変んな話ですね」
「そうでも無いぞ。漫画やイラストでは、動物のイメージを強調するからな。たとえば、モグラがサングラスをかけていたり、象やカバが気が優しくて、のんびり屋だったりする」
「たしかにそうですね。本当にモグラがサングラスをかけていると思っている人は居ませんからね」
2人が、動物の話をしている横で黒瀬は、どうやって逃げ出すか、という事だけを考えていた。
「おーい、クロセ〜。待たせたでござる」
虎之助の声がした。
「姉さん、俺にも一人ぐらいは、殺らして下さいよ」
小太郎も一緒だ。
「なんだ、2人だけかよ。もっと転生者を殺れると思ってたのに」
杉本は、残念そうである。
そんな杉本を見て、俺も数日前までは、こうだったな。と思い、黒瀬は恥ずかしくなて来た。
「虎之助さん、LINE交換して下さいよ」
若林は、戦う気があるのか?とりあえず黒瀬としては、一刻も早く逃げ出したい。
「あんな奴ら、俺一人で充分だ」
杉本が、虎之助の方に向かって行く。
「姉さん、あいつは俺に殺らせてもらいますよ」
そう言うと、小太郎は杉本に向かって行った。
杉本と小太郎が、戦い出したので黒瀬は杉本を心配したが、案外、杉本が優勢である。
「こいつ、なかなか手強い」
小太郎は、一般の鬼なら何度か斬ったことがあるが、鬼武者と戦うのは始めてであった。
ーーこれはマズい、小太郎が殺られたら、拙者の世話役が居なくなるでござるーー
「小太郎、拙者と代わるでござる」
虎之助が杉本に向かって走り出した。
「虎之助さんの相手は、僕ですよ」
若林も虎之助に向かって走り出す。
ーー何やってんだ、あいつらーー
黒瀬は、不思議そうに4人を傍観している。
スパッ!
虎之助に斬られて、杉本の首が飛んだ。
「うわっ!」
杉本の胴体から吹き出す血が、若林に降りかかる。
虎之助は若林の首を狙って、刀を振り下ろした。
ーーダメだ、こりゃーー
黒瀬は、逃げることに決めた。
ガキッ!
黒瀬は、若林の首が切られた。と、思ったが若林の腕が巨大な爪へと変形して虎之助の刀を受け止めていた。
「牛鬼だ!」
黒瀬が叫んだ。
若林が覚醒し両手に巨大な爪を持つ牛鬼となったのだ。
「鬼め、本性を現したでござるな」
虎之助のニ太刀目が、牛鬼の首を狙って来たが、空を切った。
まさか、という顔をしている虎之助に背を向け、牛鬼は全速力で走り去って行く。
「逃げられたでござる」
くやしそうに虎之助がつぶやいた。
「姉さん、もう一人の鬼も居まへんで」
黒瀬は当然のことながら、逃げてしまっている。
「また、黒瀬は逃げたでござるな」
そう言いながら、虎之助は刀を鞘に収めた。
牛鬼は、若林の姿に戻ってもパニック状態にあり、走り続けていた。
なぜ急に両手が巨大な爪になったのか、祖父が牛鬼だったことに関係があるのか?
「若林!待ってくれ!」
黒瀬が、こちらに走って来る。
「あっ、黒瀬さん。無事だったんですか」
「ああ、それより、お前、凄いじゃないか。牛鬼に成れたじゃないか」
「杉本さんが、目の前で首を切られてパニックってしまい、あまり覚えてないんです」
「でも、牛鬼に成れたのは間違いない。社長に報告に行こう、昇進まちがいなしだぞ」
やけに黒瀬は興奮しているが、若林は訳がわからず
「はぁ、そうなんですか」
と、返した。
虎之助と小太郎が宿舎に戻ると、予想通り桜田刑事と左近に説教されてしまった。
「小太郎君が付いていながら、なんで勝手に鬼と戦うのよ!」
「でも、姉さんは凄かったんですよ。鬼武者を一太刀でやっつけて、あと牛鬼と呼ばれてた奴も、逃げて行きましたから」
「鬼武者に牛鬼だと!」
左近は驚いた。
「鬼武者っていうのは、鬼の中でも戦闘能力が高くて、鬼を守る役割なのよ。まだ、あなた達が勝てる相手じゃないわ。それに牛鬼は更に強くて、最強クラスの特別な鬼なのよ」
桜田刑事が説明する。
「それで、アイツあんなに強かったんや。姉さんが来てくれなければ、殺られていたかもしれんわ」
「お前ら、よく生きて帰れたな」
左近は、あきれている。
「とりあえず、鬼武者と牛鬼の件を安倍顧問に報告して来るわ」
そう言うと、桜田刑事は宿舎を出て行った。
虎之助は、先ほどから黙ってスマホを触っている。
「姉さん、さっきから何してるんや?」
「LINEで、黒瀬を呼び出すでござる」
「何でです、あいつに何か用でっか?」
「少し聞きたい事があるでござる」