ぬらりひょんでござる
大阪鬼連合団体では、いつものように高層ビルの最上階で、定例カンファレンスを行っていた。
議長は毎度ながら鬼塚で、補佐は川島である。
「今日は、良いお知らせと、よくないお知らせがあります」
鬼塚の、現状報告からカンファレンスが始まる。
「では、よくないの方からお願いします」
カンファレンス参加している若い男が言った。
「えっ、そっちから言うの?」
鬼塚が驚いている。
「ダメですか?」
「ダメじゃないんやけど、時系列的には、良いお知らせが先なんや」
「それでも、かまいませんよ。よくない方から、お願いします」
「じゃ、よくない方から言うけど、国際電器保安協会のアポロンに逃げられてしまいました」
「なるほど、そういう事でしたか。よくわかりました」
なぜだか、カンファレンスの参加者たちは、みんな納得している。
「良いお知らせは、国際電器保安協会のヘラクレスを、グッピーちゃん率いる処刑鬼隊が見事に処刑しました」
「それは素晴らしい成果ですね」
参加者たちは、感心して喜んでいる。
「そして、その後にやって来たアポロンっていう奴に全員、半殺しにされました」
「相変わらず、弱いですねぇ」
「と、言うわけや」
鬼塚は、話を締める。
「それで、アポロンはどうして逃げたんですか?」
「それは、あまり言いたくないねんけどなぁ」
「じゃ、言わなくても良いです」
「いや、聞けや!」
鬼塚は、キレかけた。
「どうせ、DSP[デビルスペシャルポリス]の小娘にやられて逃げたんでしょう」
「なんで、知ってるんや?」
ズバリ言い当てられたので、鬼塚は驚いている。
「なんでって、いつものパターンですから」
ーーこっ、これが、いつものパターンやったんかぁ〜。そういえば、毎回あの小娘にやられていた様な気がする。薄々は気付いていたんやが、みんなは知ってたんやなーー
鬼塚が、今更ながら、なにか大切な事に気付いて苦悩している時
カチャ
会議室のドアが空いた。
「ゴメンやっしゃ」
と、言いながら、和服を着た小柄の老人が、会議室に入って来た。
「アンタは『ぬらりひょん』やないか。なにしに来たんや?」
この、『ぬらりひょん』と呼ばれる老人を、鬼塚は知っているようである。
「お主らが、DSPや国際電器保安協会に手を焼いていると聞いて、助けてやろうと思ってな」
「いえ、けっこうです」
鬼塚はキッパリと断った。
「なんじゃと。ワシは妖怪の総大将じゃぞ」
即効で断られたのでは、老人は憤慨している。
「議長。一応、話しを聞いてみたらどうです。妖怪の総大将なら、かなりの戦力になるのではないでしょうか?」
カンファレンス参加者たちは、話も聞かず断るのは惜しいと思い提案してきた。
「『ぬらりひょん』が妖怪の総大将っていうのは、アニメや漫画での話しや。こんな死に損ないの糞ジジイが実際に戦力なんかに、なるかいな。アホなことを言うな」
「そうなんですか」
「漫画だけでなく、実際にワシは総大将なんじゃ!」
鬼塚の言いように、老人は激怒している。
「黒瀬。このジジイを、つまみ出せ!」
鬼塚が黒瀬に指示した。
「えっ、私が?」
カンファレンスに出席していた黒瀬は、いきなりふられて戸惑ったが、仕方なく
「お爺さん、とりあえず外に出ましょう」
と、『ぬらりひょん』を会議室の外に誘導しようとするが
「なにをするんじゃ、この若造が」
黒瀬の手が肩に触れると『ぬらりひょん』は、怒って殴りかかって来た。
「止めて下さい」
攻撃をかわしながら黒瀬は『ぬらりひょん』を、なだめる。
ガツン!
しかし、かわしたハズのパンチが異様に伸びて反転すると、後頭部に直撃して、黒瀬はそのまま気を失ってしまった。
「こんな若造では、ワシの相手にならんわい」
『ぬらりひょん』は、倒れている黒瀬に向かって言い放った。
ーーなんやぁ、鬼武者の中でも最強クラスの黒瀬を、簡単にやっつけおった。このジジイ本当に強いんやーー
鬼塚は唖然として『ぬらりひょん』を眺めている。
「気分を害したわい。ワシは、もう帰る。こんな所には二度と来んからな」
『ぬらりひょん』は怒りながら、扉を開けて出て行こうとした。
「ちょっと待って、おくんなはれ」
あせった鬼塚が、今さらながら引き止めに入る。
「なんじゃ」
「申し訳ない。実は、アンタを試してたんや。最近は、実力も無いのに勘違いして来る奴が多いさかい、芝居をさせてもろたんや」
鬼塚は、バレバレの嘘をついて『ぬらりひょん』を引き止めようとした。
「そんな勘違いした奴、来ましたっけ?私は聞いた事が無いですけど」
会議に参加していた若い男が、不思議そうに言った。
「お前は、黙っとけ!川島、この若造をメキシコ湾に捨てて来い!」
鬼塚は、キレながら川島に指示する。
「えっ。南港じゃなくてメキシコ湾ですか?ちょっと遠すぎませんか?」
ビックリして、川島が聞きなおす。
「遠い方が良いんや、ゴビ砂漠でも良いで。できれば月の裏側あたりが一番、いいねんけどな」
「えっ、ダークサイドムーンですか?」
さらに、川島が驚く。
「そうや。こういう奴は、出来るだけ遠くに捨てて来ないと、いつの間にか戻って来るんや」
と、鬼塚が、なんだか良く分からない理屈を説明していると
「もう良い。ワシも始めから芝居だと分かっていたわい」
意外なことに『ぬらりひょん』は、鬼塚のバレバレの嘘を、信じて機嫌を直している。あまり頭は良くないようだ。
「さすが、妖怪の総大将でんなぁ。芝居って事がバレてましたんや、かないまへんわ」
冷や汗を、かきながらも鬼塚は誤魔化す。
ーー『ぬらりひょん』が阿呆で良かったーー
鬼塚は、ホッとした。
「では、ワシがDSPと国際電器保安協会の奴らを、始末してやろう」
自信ありげに『ぬらりひょん』は、自分の顎髭を撫でている。
「たのんまっせ」
「ただ、一つ条件がある」
「なんでっか?」
「ワシら妖怪は、戦闘力は高いんじゃが、最近の都市開発で住む所が減ってきてのう。とりあえず、どっか適当な住処を提供してくれんか」
ーーなるほど。都市開発で住処を失った野生動物が、街に出てくるのと同じ原理やなーー
なぜ『ぬらりひょん』がココに現れたのか、鬼塚は納得した。
鬼連合団体は鬼が経営する企業の集まりである。
当然のことながら、土地や資金も豊富に所有しているのである。
「そやったら、ウチらが所有している土地を貸しますわ。遠慮なく住んでもうて結構です」
「そりゃ助かるわい」
『ぬらりひょん』は、嬉しそうである。
ーー思わぬ戦力が手に入ったわ。あいつらは妖怪やから鬼とDSPとの休戦協定も関係あらへんし。とりあえず、あのムカつく小娘をブッ殺してもらおうーー
一人、ニヤつく鬼塚であった。




