さようなら虎之助
黒瀬と若林は仕事を終わりに、2人で居酒屋に来ていた。
【今日の夕食はダイエットの為の、野菜中心のお鍋でーす】
「グッピーちゃんのSNSって、こんなんばっかしですけど、鬼武者への指示はどうしたんでしょうね」
スマホで、グッピーちゃんのSNSを見ながら、若林がボヤいている。
「さあな。それよりも最近はアメリカ村に国際電器保安協会の奴らが、うろついているらしくて、DSPの連中と揉めてるみたいだ」
「本来なら僕たちが、やっつけないと、いけないでしょうけどね」
「一度、行ってみるか?」
「そうですね、久しぶりに虎之助さんとも会いたいし」
「よし、明日は土曜日で仕事は休みだ。2人で行ってみよう」
翌日、黒瀬と若林は『国際電器保安協会』のエージェント退治にアメリカ村までやって来た。
「黒瀬さん、さっそく居ましたよ」
いつもの様に、アメリカ村の公園にライアンたちが、たむろしている。
「あんな目立つ所にいやがって。ぶっ殺してやろう」
黒瀬は、やる気まんまんである。
「お前ら、国際電器保安協会のエージェントだな」
ライアンたちに向かって、怒鳴るように黒瀬が言った。
「それがどうかしたのか」
アンドロポプが、邪魔くさそうに答えた。
「なら死んでもらう」
バキッ!
黒瀬の右ストレートがアンドロポプの、みぞおちにクリーンヒットした。
「げフッ。やるな貴様」
ズボッ!!
今度はアンドロポプのアッパーカットが、黒瀬の腹部にめり込む。
「この野郎!」
両者の激しい殴り合いが始まった。
「このデカ物は、黒瀬さんに任せて、残りの奴らは俺が始末してやる」
若林は牛鬼に変身すると、右腕を尖った金属に変化させてライアンとマーゴットに襲いかかろうとする。
ガシッ。
しかし、何者かに右腕を強く掴まれてしまった。
アキレスである。
「ほう、鬼でも骨のある奴がいるんだな」
右腕を掴まれた牛鬼は、空いている左腕でアキレスの背中を貫こうとする。が、鋭利な金属であるはずの牛鬼の左爪が弾かれた。
「貴様、何者だ!」
驚いた若林が、おもわず聞いた。
「俺はアキレス、どんな攻撃も俺には効かない。今度はこっちの番だ」
ボキッ!
アキレスは掴んでいた牛鬼の右腕を、へし折った。
「クッ!」
ーーコイツは、とんでもなく強いーー
黒瀬に加勢を頼もうと思い、黒瀬の方を見てみると、まだ殴り合いをしている。どうやらアンドロポプとは互角のようで、加勢してくれる余裕は無さそうである。
ーー一人で戦うしかないかーー
折れた右腕を修復しながら、牛鬼はアキレスに向かって行く。
「早く来いよ」
「狂四郎は、せっかちでござるな。そんな事では女の子に嫌われるでござるよ」
「そうや、俺も、もう少し地獄でゆっくりしたかったんや」
虎之助と小太郎は、狂四郎にせかされて地獄からアメリカ村に戻って来ていた。
「なんや、あのアキレスっていう奴、鬼と戦ってるやないか」
「ホントでござる。よく見たら黒瀬と若林でござるな」
アキレスは黒瀬たちと戦っている最中である。
「おい、アキレス!リベンジしに来たぞ、ぶっ殺してやるから覚悟しろ!」
狂四郎が自信ありげに、アキレスに向かって怒鳴った。
「なんだ、この前、地獄に逃げ出した、悪魔どもじゃあないか」
牛鬼を相手にしながらも、アキレスには余裕がある。
「地獄から、お前を殺す為に蘇ったでござる〜」
虎之助は両手を前に出し、お化けの真似をしてアキレスを脅した。
「何やってんだ、違うだろ!俺たちは化物じゃねえ、正義の味方DSPだ」
「どっちでも良から、まとめてかかって来いよ」
アキレスの挑発に乗り、狂四郎が向かって行く。
「死ねやギリシャ野郎!」
狂四郎がアキレスの相手をしていると
「虎之助さん、今度、一緒にイタリヤ料理を食べに行きませんか?」
と、若林が戦闘を止めて、虎之助を口説き出した。
「おい、お前。気安く姉さんに声を掛けるなや」
なぜか若林は、小太郎に怒られた。
「なんだと。お前に関係ないだろ」
「関係おお有りじゃ、クソボケ!」
「この野郎!」
今度は、小太郎と若林が戦い始めた。
「拙者は、タコ焼きが食べたいでござる」
虎之助はライアンにタコ焼きを、ねだりに行った。
「うわっ!また、お前か。仕方ない、買って来てやるから待ってろ」
ライアンは、しぶしぶタコ焼きを買いに行く。
「あんた、仲間の加勢してあげなくて良いの」
マーゴットが、あきれて虎之助に聞いて来た。
「拙者はタコ焼きが食べたいでござる。お主こそ、仲間を助けに行かないのでござるか?」
「アンドロポプの事は良く分からないけど。アキレスは無敵らしいから、助けはいらないんじゃない」
「そうでござるか。拙者も狂四郎はアホだから、助けはいらないと思うでござる」
「いや、アホでも助けはいるでしょう」
「そうなのでござるか?」
「そうなのよ」
そうこう話しているうちに、ライアンが帰って来た。
「ほら、タコ焼き買って来てやったぞ」
「ありがとうでござる」
タコ焼きを食べながら虎之助は、狂四郎と小太郎の戦いぶりを見学し始めた。
「俺の神気を喰らえや」
小太郎の神気が牛鬼に直撃する。
「グフッ!やるな小僧」
牛鬼も鋼鉄の両腕で反撃するが、小太郎は上手く刀でさばいている。
なんとか小太郎は、牛鬼と互角に戦っているが、狂四郎はアキレスの闘気をまともに受けて、虎之助の足元まで吹っ飛ばされて来た。
「もっと頑張らないとダメでござるよ」
自分の足元にいる狂四郎を、虎之助が見下しながら言った。
「タコ焼きなんか食べてないで、加勢してくれよ。アイツには、こっちの攻撃が全然効かねえんだ」
すべての攻撃が通用しないアキレス相手に、狂四郎は弱音を吐いている。
「はいはい、何とかするでござる。モグモグ」
「何とかするって言いながら、タコ焼きを食うんじゃねぇ!」
「食べてから、なんとかするでござる」
「今すぐじゃないと、アキレスに殺されるぞ」
「そいつの言う通りだ。貴様ら2人とも死んでもらう」
すぐ側まで、アキレスが近付いて来て、凄まじい戦闘闘気を放った。
「唐沢家忍術『バリア』」
とっさに、虎之助は負けずに、バリアを張る。
パリーン!
しかし、バリアは、あっけなく砕け散り、虎之助と狂四郎はフッ飛ばされてしまう。
「痛いでござる」
なんとか立ち上がった虎之助は、亡き師匠に教えを乞うた。
「お師匠様、アキレスの倒し方を教えて欲しいでござる」
すると空にスラッと背の高いイケメンの男が現れた。
「出たっ。姉さんの師匠や!」
牛鬼と戦っている最中の小太郎が叫んだ。
「あれが虎之助さんの師匠なのか?」
牛鬼も興味があるようで、戦いを中断して見いっている。
「あれは偽物や、姉さんの本当の師匠は小太りで冴えないオッサンやで」
「じゃあ、あれはいったい誰だ?」
「謎のイケメン師匠や」
「虎之助よ、召喚術を使うのです」
イケメン師匠は、的確なアドバイスを行った。
「誰を召喚すれば良いでござるか?」
「それは自分で考えるのです」
「全然わからないので、ヒントが欲しいでござる」
「ヒントは火星です」
「飯マズでござるか?」
「違います。マーズとは火星の事です」
「わかったでござる。お師匠様、ありがとうでござる」
虎之助が手を合わすと、イケメン師匠はスッと消えていく。
「最強の魔物を召喚するでござる。忍術『火星魔王召喚』」
虎之助が術を唱えると、大量の煙が地面から吹き出して、中から中年の冴えないサラリーマン風の男が出て来た。
「ワスを呼び出したのは、誰でヤンスか?」
なんと、太陽系暗黒大魔王の助清である。
「拙者でござる」
「君はタピオカミルクティーは、好きでヤンスか?」
「好きでござるが、やっつけて欲しい奴がいるでござる」
「君の持っているタコ焼きをくれたら、やっつけてあげるでヤンス」
助清は報酬としてタコ焼き要求して来た。
「嫌でござる。このタコ焼きは拙者が一人で食べるでござる」
「馬鹿、タコ焼きぐらい渡せよ。その人にアキレスを倒してもらえ」
2人のやり取りを見て、慌てた狂四郎が虎之助に言った。
「お主の様な、国際的なバカに、馬鹿呼ばわりされる筋合いは無いでござる!」
馬鹿にバカと言われて、虎之助がキレれた。
「うわっ!俺にキレてる場合じゃないだろう。敵はアキレスだぞ。早く、その人にタコ焼きを渡せ」
「とりあえず、お主から殺すでござる」
「やめろ馬鹿。俺は味方だ」
狂四郎は、後さずりしながら説得しようとするが
「また、馬鹿と言ったでござるな!」
と、余計に怒らせてしまった。
「こうなったら仕方ない。新田家仙道『浮遊術』」
『浮遊術』で、狂四郎の身体が10メートルほど浮かんでいく。
「かかって来いや!このチビ助」
上空に浮くと、バカなので気が大きくなり、虎之助を挑発し始める狂四郎。
「こらー!降りて来い。卑怯でござる!」
虎之助と狂四郎の様子を、あきれて見ていたアキレスは
「なんか、アイツら仲間割れしてるけど」
と、ライアンに尋ねた。
「アイツらは、いつもああなんだ。気にするな」
「ところで、ワスは、どうしたら良いんでヤンスか?」
アキレスに、助清が声を掛けて来た。
「オッサン、まだ居たのかよ。アンタを呼び出したのは、あの娘だろ」
アキレスは虎之助を指さす。
「それはそうなんでヤンスが、君はなかなか強そうでヤンスね」
「良くわかるなオッサン、俺は無敵のアキレスだ」
「暗黒魔術『火星門』」
助清は、いきなり術を唱えた。すると、何も無かった空間に、突然ドアが出現する。
「このドアは『どこでもドア』に似ているが、出口は全て火星という便利なドアでヤンス」
と、説明しながらアキレスを、ドアの向こうに突き飛ばした。
「こういう強い男はワスの部下にするでヤンス。ついでに、ワスを呼び出した君も、一緒に火星に行くでヤンス」
助清は、虎之助の左手を強く引っ張って連れて行こうとする。
「こら、離すでござる」
必死に抵抗するが、そのままドアの向こうに連れさられてしまった。
「火星は嫌でござる〜」
虎之助の叫び声が、遠のいて行く。
バタン!
ドアが閉まると、フッと『火星門』は消えた。
「あっ!姉さんが変なオッサンに連れ去られてもうた」
「えっ、虎之助さんが?」
小太郎と牛鬼は戦いを止めて、ドアがあった所までやって来る。
「どこへ連れて行かれたんやろ?」
「確か、あの中年の男が火星に連れて行くって言ってたな」
ライアンが、小太郎に教えた。
「火星でっか!」
小太郎は空を見上げた。
「姉さん〜!お達者で〜」
「アキレスも居なくなった事だし、小太郎。そろそろ帰ろうか」
狂四郎は小太郎を連れて、宿舎へと向かって行く。
「黒瀬さん。僕たちも、もう帰りましょう」
若林に言われて、黒瀬とアンドロポプも戦いを止め、それぞれの家に帰って行く。
残っていたライアンとマーゴットも、宿泊しているホテルへと戻る。
夕刻時まで、えらく賑やかであった、アメリカ村の公園は静けさを取り戻し、人気の無い静かな夜を迎えた。




