M1A2エイブラムス戦車108台分でござる
「アイツは、鬼ロボのチャッピーや!」
チャッピーを見つけた小太郎が、岩法師と虎之助に伝えた。
「やはり、まだ公園内に居たのか」
「チャッピーは拙者が殺るでござる」
「気を付けろ、奴は強いぞ」
岩法師が警告したが、虎之助はすでにチャッピーに向かって走り出している。
間もなくチャッピーを攻撃射程圏内に捉えるという所で、いきなり背後からライアンが飛び出して来た。
ライアンは、後から虎之助の背中に深ぶかとナイフを突き立てた。
ズブッ!
という音がして、虎之助はそのままパタリと倒れる。
「やったぞ!DSP[デビルスペシャルポリス]の小娘を倒した」
ライアンは、そのままチャッピーに向かって行く。
「ああっ!姉さんが殺られてもうた」
ガチッ!
チャッピーが右腕でライアンのナイフを弾いた。
「誰、お前?チャッピーを攻撃する奴は、みんな殺す」
チャッピーの左ストレートがライアンを襲う。
ガシッ!
ライアンはチャッピーの拳を、手の平で受け止め、チャッピーの後頭部にハイキックを叩き込む。
「小娘は瞬殺したけど、アンドロイドとは互角みたいね」
マーゴットがタコ焼きを食べながら呑気に観戦していると。
「そうでござるな」
いつの間にか、すぐ隣に虎之助がいた。
「ええっ!アンタさっき殺られたんじゃ?」
マーゴットは死ぬほど驚いた。
「代わり身の術でござる」
指さす方向には、虎之助のスカートを着た丸太が転がっている。
ーーこの娘、下着姿のままで、敵である私のすぐ側まで来るとは、ただ者じゃないわねーー
「姉さん!生きてたんでっか!」
小太郎が嬉しように駆け寄って来た。
「拙者の強さは、エイブラムス戦車108台分でござる。ナイフぐらいでは死なないでござる」
ーーえっ!この娘やっぱり、エイブラムス戦車108台分の強さなんだ!ライアンの言った通りだわーー
「この女も敵でっか?」
「たぶん敵でござる」
「綺麗な外人さんやなぁ」
小太郎はマーゴットに見惚れている。
ーーこの若い男の方は弱そうねーー
小太郎は手を差し出しながら
「ネーチャン、手握ってもええ?」
と、マーゴットに聞いてきたが
「ダメに決まってるでしょ!!」
と、マーゴットに怒られてしまった。
「小太郎はアホでござる」
横で見ていた虎之助は、ゲラゲラ笑いだす。
「虎之助、服を着なさい」
笑っていると、岩法師が丸太から服を取って来てくれた。
「ありがとうでござる」
「虎之助、この女性は誰だ?」
「敵でござる」
「拙僧の気のせいか、小太郎が言いよってる様に見えるが?」
岩法師の言うとおり、虎之助の横で小太郎がマーゴットを口説いている。
「ネーチャン、一緒にコーヒー飲みに行けへんか?」
「行くわけ無いでしょう!」
マーゴットは嫌がっている。
「小太郎!いい加減にしないか、この女は敵だぞ!」
「あっ、岩法師先生。すいません」
「拙者にも、タコ焼き1つちょうだい」
虎之助がマーゴットにタコ焼きを、ねだるが
「なんで、敵にあげなきゃいけないのよ!」
キッパリと断われてしまった。
「こら!虎之助。敵に食べ物を、ねだるんじゃない!それよりも早く服を着なさい、みんなにジロジロ見られてるじゃないか」
岩法師にも怒られた。
「姉さんも怒られてはるわ」
小太郎が笑っている。
「しようがないでござる」
しぶしぶ、虎之助は服を着だした。
チャッピーと互角の戦いをしていたライアンは、さすがに疲れが出て来た。
相手は疲れを知らないアンドロイドである、戦闘が長びくと、やはり押され気味になって来る。
ーーマーゴットは何してるんだ?2人がかりなら倒せるのにーー
と思って、チラッと振り返って見ると、マーゴットは倒したはずの小娘たちと談笑しているではないか。
「クソっ!頑張ってるのは俺だけか。やってられねえ、退却するぞ!」
ライアンは、マーゴットに合図を送ると素早く走り去って行った。
「あれっ?ライアンが退却しちゃった。仕方ない、残りのタコ焼きアンタにあげるわ」
そう言うと、マーゴットもタコ焼きを虎之助に渡して、走って行ってしまった。
「モグモグ、忙しい女でござるね」
マーゴットからもらったタコ焼きを食べながら、虎之助は呆れている。
「虎之助、そんなの食べてる場合じゃないぞ。鬼ロボがこっちに向かって来る」
チャッピーが、こちらに気付いて、やって来る。
「アイツはヤバい奴や!姉さん逃げましょう」
「モグモグ、タコ焼きを食べ終わったら、拙者がやっつけるでござる」
「虎之助!もう時間が無いぞ、すぐそこまで来ている」
岩法師は薙刀を、かまえる。
「しょうが無いでござる。小太郎、タコ焼きを持っておくでござる」
タコ焼きを小太郎に渡すと、素早く虎之助はチャッピーに向かった。
いきなり、虎之助の手刀がチャッピーの首を狙う。
チャッピーは右手で防御しながら、虎之助の心臓を狙って手刀を繰り出す。
小太郎は、タコ焼きの皿から、マーゴットが使った爪楊枝を探す。
スパッツ!
鋭い音がして、虎之助とチャッピーが交差したあと、虎之助のジャンバーの布が飛び散り、チャッピーの首が防御していた右手ごと落ちた。
「やったな!虎之助」
「また、ジャンバーが破れたでござる」
「やった!さっきのネーチャンの爪楊枝を見つけたで!」
小太郎が叫んだ。
「おい、浅ましい真似は止めろ」
岩法師に注意されるが、小太郎は爪楊枝を離さない。
「それは、拙者が使っていた爪楊枝でござるよ」
戻って来た虎之助が小太郎に教えた。
「えっ!ほんまでっか?」
と言いながら、小太郎は虎之助の顔を見た。
こっちはこっちで、可愛いらしい顔をしている。
パクっ!
小太郎は持っていた爪楊枝を口にくわえた。
「そっちでも良いんかい!」
ボカッ!
すぐに岩法師に殴られてしまった。
「小太郎はアホでござる」
それを見て虎之助は笑っている。
「お前ら全員殺す」
なんと、自分の首を左手で抱きかかえたチャッピーが、こちらに向かって歩いて来るではないか。
「ひぃー、オバケでござる」
虎之助は驚いて逃げようとしたが、岩法師に止められた。
「オバケでは無い。あれは、ただの機械だ」
「機械というと、スマホみたいな物でござるな」
「そうだ。だから怖がる必要はない」
「でも、見た目が怖いでんなぁ」
「恐らく、頭脳か動力源の様な急所を破壊すれば、動かなくなるはずだ」
「それは、どこでござるか?」
「男性やったら股間とちゃいますか?」
「それは、違うと思うでござる」
「胸部が怪しいな」
「たぶん、そこでござるな」
虎之助達が相談している間に、チャッピーは自分で頭部と右腕を胴体に接続して直している。
「あれっ!鬼ロボが元に戻ってまっせ」
「あの野郎、自分で直しやがった」
「元に戻ったら、全然怖く無いでござる」
虎之助は、チャッピーに向かって走り出す。
チャッピーは、両足を少し広げて脇を締め、空手の構えを見せた。
「チャッピーの正拳突きは、音速を超える一撃必殺の技だ、受けてみよ小娘」
両者が接近する
バギッ!!
と、何かが折れる音がした。
「手応えあり!チャッピーの勝ちだ」
虎之助は、チャッピーの足元に倒れたまま動かない。
「うあっ!姉さんが、また死んでもうた」
小太郎が、うろたえ出した。
「落ち着け小太郎、たぶん代わり身の術だ。と、拙僧は思う。というか思いたい」
岩法師も心配そうである。
「拙者も、そう思うでござる」
いつの間にか戻って来ていた虎之助は、また下着姿である。
良く見てみると、チャッピーの足元に倒れているのは、虎之助のスカートを履いた丸太であった。
「うあ〜ん、生きてたんや。良かった姉さん」
小太郎は、おもわず虎之助に抱きついたが
「こら!小太郎。下着姿の娘に抱きつくんじゃない」
小太郎は岩法師に、無理やり離されてしまった。
「あれっ。チャッピーが勝ったと思ったのに変だな?」
チャッピーが、悩みながら、こちらに向かって来る。
「また、来たで」
「アイツは、首を切っても死なないでござる」
「鬼じゃなくて、鬼のロボットだから弱点が違うんだよ」
「面倒くさいでござるが、術を使うでござる」
虎之助は、またチャッピーに向かって行く。
「チャッピー、今後こそ、お前ら殺す!」
チャッピーも向かって来る。
「雷遁の術でござる」
虎之助の手刀がチャッピーの胸に刺さり、百万ボルトの高圧電流が流れた。
プシュー
メインのバッテリーが焦げ付いて、チャッピーの体内に流れる電気系統が停止して行く。
「くフッ」
ガシャン!
チャッピーは、崩れ落ちるように倒れ込んだ。
「倒したでござる」
「さすが、姉さんは無敵でんなぁ」
小太郎は虎之助の強さに、なんの疑問も抱いていないようだが、強敵であるチャッピーを倒したあと、下着姿のままで何喰わぬ顔をしている虎之助を見て
ーーこの娘は、我らと何かが違うーー
と、岩法師は改めて思い知らされた。
「じゃ、後は処理班に任せて帰りましょう」
「いや、ちょっと待て。狂四郎を、まだ見つけていないぞ」
「でも、もうココには敵がおれへんから、大丈夫ちゃいますか」
「まあ、それもそうだな。一旦、帰るか」
「帰って、カキフライ定食を食べるでござる」
「虎之助、スカートぐらいは履きなさい」
岩法師が、また丸太からスカートを脱がせて、持って来てくれた。
狂四郎が、桜田刑事と別れてDSP[デビルスペシャルポリス]の宿舎に戻ると
「狂四郎、大丈夫だったか?」
と、岩法師に、いきなり心配された。
「全然、大丈夫ですけど。なにかあったんですか?」
「大阪城公園に、鬼のロボットが現れて大変だったでござる。狂四郎のスマホに電話したのでござるが」
そう言われ、狂四郎は自分のスマホを見てみると
「ホントだ。着信履歴が入ってる」
「ちゃんと、スマホをチェックしておかないと、ダメでござるよ」
と、虎之助に注意された。
「そうえば、姉さんは転生して来たわりに、スマホを使いこなしてまんなぁ」
「拙者は知能が高いから、スマホなんて簡単でござる」
「へえ、さすが姉さんでんなぁ」
小太郎は感心している。
「拙者の賢さは、アインシュタインと諸葛亮孔明とチンパンジーを足して、3で割ったぐらいでござる」
ーーなぜ、そこにチンパンジーを入れる?ーー
岩法師と狂四郎は不思議に思った。
「すんまへん、そのショカツ何とかいう人を知りまへんので、その人を省いて説明してもらえまへんか」
小太郎は諸葛亮孔明の事を知らないようである。
「しょうが無いでござるね。拙者の賢さは、アインシュタインとチンパンジー2匹を足して、3で割ったぐらいでござる」
ーー省いた分は、チンパンジーを足していくのか!ーー
「やっぱり、そのアイン何とかさんも知りまへんわ」
「ええと、じゃ、拙者の賢さは、チンパンジー3匹を、3で割ったぐらいでござる」
「なるほど、やっと分かりました。姉さんの賢さは、チンパンジーと同じぐらいという事ですね?」
「計算上は、そうなるでござる」
と、虎之助が答える。
ーーそうなって良いのか!!ーー
岩法師と狂四郎は、心の中で突っ込んだ。
「さすが姉さんでんなぁ」
なぜか、小太郎だけは感心している。
「狂四郎は、どれぐらい賢いんやろ?」
「カメムシぐらいでござる」
自信まんまんに、虎之助が答える。
「へえ、なんか臭そうでんなぁ」
「俺は、もっと賢いわ!」
「いや、狂四郎は阿呆でござる」
「このAカップ娘!ぶっ殺してやる!!」
狂四郎が切れた。
「こら!お前ら止めないか。せっかく強敵を倒したというのに」
2人を止めに入った岩法師の携帯に、電話が掛かって来た。
「はい、岩法師ですが‥‥‥‥何ですと!それは本当ですか?」
なにやら、深刻な話のようだ。
電話を切ると
「チャッピーが生き返ったそうだ」
と、みんなに告げた。
一時間ほど前
虎之助たちが去った後、警察の特殊処理班がチャッピーの回収作業を行っていた。
「ようし、じゃこの鬼ロボをストレッチャーに乗せるぞ」
2名の処理班がチャッピーを担ごうとした時、チャッピーの非常用システムが作動した。
ーー補助電源オン。今から再起動行うーー
虎之助が倒したはずのチャッピーは、再起動されて立ち上がった。
「あいつら、どこ行った?」
チャッピーは虎之助たちを探すが、すでに立ち去った後であり、どこにも見あたらない。
「うわっ!コイツ生きてる」
警察の処置班が驚いて叫ぶ。
「チャッピーは死なない。アイツら全員ぶっ殺す」
驚く2名の処置班を後にして、チャッピーは去って行った。




