国際電器保安協会の逆襲でござる
外車修理専門店『ワールドモータース』の店内では、エージュントホルスと初老の男が密談をしていた。
「どうだった氾会?」
初老の男は氾会という名らしい。
「大阪府警でDSP[デビルスペシャルポリス]の情報を見て来たのだが、あの安倍という男、俺のステルス機能が通用しなかった、ただ者では無いな。非常用ステルス機能を使って逃げて来たんだが、非常用は一分しか持たないからバージョンアップが必要だな」
「俺なんか、狂四郎という若造に心臓を、えぐり出されたぞ」
「そいつも要注意だな。そういえば、インドのエージュントは2人とも、虎之助というDSPの小娘に殺されたらしい」
「我われは、少しDSPを舐めていたようだ。氾会、俺もバージョンアップをしてくれないか」
「わかっている。もともと俺は強化手術が専門の技術職だからな。戦闘は、お前たちエージュントに任せるよ」
氾会がスマホをディスプレイに繋ぐと、安倍顧問の端末から撮影した映像が映し出された。
「コイツが、安倍といって大阪府警でのDSPの責任者だ」
「アンタが大阪府警で会った、陰陽師で安倍一族の奴だな」
「次は左近だ、一応、大阪DSPのリーダーだ。武士で実力は不明」
「リーダーだから、やっぱり一番強いんだろうな」
「その次が岩法師。元々は僧侶らしく法力を使う」
「陰陽師と法力は、どこが違うんだ?」
「俺にも良くわからんが、法力の方が攻撃力は劣るが、防御の術は多いな」
「僧侶が使うから、そうなるのかもな」
「こいつが小太郎、武士だ。まだ若造で、たいした事はない」
エージュントホルスは真剣に聞いている。
「これが虎之助。インドのエージュント2人を殺った娘だから要注意人物だ。元は忍者らしい」
「アイツら、こんな小娘に殺られたのか?」
「転生者を外見で判断すると痛い目にあうぞ。最後がお前とやり合った狂四郎だ。武士らしいが仙道を使う」
「仙道には、してやられた。元々は、お前の国の仙人の術か?」
「おそらく、法力も仙道も中国が源流だ。それよりバビエルが来れなくなり、インドの2人も殺られてしまったので、本部にエージュントの補充を依頼している。それまでは、お前の強化に専念するから、無駄な行動は控えろよ」
「わかってるよ」
「わかってるでござる」
「あれっ?返事が一人、多いな」
「誰かが侵入したのでござるな」
「誰だ?」
「誰でござる?」
「いや、お前だろ!」
「拙者でござるか?」
「あっ!お前は、さっきディスプレイで見たDSPの小娘!」
と、叫んだ瞬間エージュントホルスの首が落ちた。
「次は、お前でござる」
虎之助は、刀を氾会に向けた。
「どうして、ここがわかった?」
「姿を消しても式神のチワワが、ずっとお前の臭いを追っていたのでござる」
「クソっ!」
氾会は、急いで非常用ステルス機能を使って姿を消す。
「拙者に、そんな小細工は通用しないでござる」
微かな音と気配を察知して、虎之助は氾会を縦に真っ二つに斬った。
氾会は声を出す間もなく、左右に別れてパタリと倒れる。
2人を始末し終えて虎之助が表に出ると、店の前で式神のチワワが待っていた。
「首尾はどうだったワン」
「2人とも殺ったでござる」
『国際電器保安協会』に恨みを持つ虎之助は、安倍顧問の式神であるチワワを借りていたのである。
「お礼に骨付きカルビを、あげるでござる」
「うれしいんだワン」
チワワは尻尾を振って喜んだ。
「できました、岩法師先生」
「カエルの式神か、虫から両生類に進化したな。この調子で哺乳類が出せるように頑張ろう」
大阪城公園で、小太郎は岩法師から式神の出し方を教わっていた。
「ようし、哺乳類が出るまで、がんばるでぇ!」
小太郎は、張り切っている。
そんな2人を、少し離れた所から見ている人影があった。
アンドロイド鬼のチャッピーである。
チャッピーが、こちらに向かって歩いて来た。
「小太郎、後ろから来る男に気を付けろ」
岩法師に、そう言われ小太郎はチラッと振り向いてみる。
「普通の人に見えますが、あの人がなにか?」
「奴からは生気を感じない、鬼が送り込んで来たロボットかも知れぬ」
チャッピーが、ゆっくりと近づいて来る。
小太郎は刀に手をかけた。
チャッピーが、いきなり猛スピードで走り出した。
あと、1メートルという地点で小太郎が刀を抜く。
ズバッ!
「小太郎流抜刀術や」
と、言い放った小太郎の刀が粉ごなに砕け散った。
「あれっ、おかしいな?」
不思議がっている小太郎をよそに、チャッピーは岩法師に向かって来る。
ガシッ!
金属同士がぶつかる音がした。
チャッピーの拳を岩法師が鉈で受け止めたのだ。
「なに者だ!」
岩法師が怒鳴る
「僕、チャッピー。お前らみんな殺す」
ガキンッ!
背後から小太郎が短刀でチャッピーの脇を刺すが、短刀も折れてしまった。
「こいつ、刃物が通じへん。やはりロボットや」
「やむを得ん」
岩法師が、お経を唱えると、辺りに霧がかかり岩法師と小太郎の姿が隠れた。
「どこだ?」
まわりを見回すが、2人の姿は見えない。
「これは、あの坊主の法力というやつか」
しばらくすると霧が晴れ、通常の景色に戻って来た。
「逃げられたようだ」
チャッピーは追跡を諦めて歩き出した。
「危なかったな小太郎」
「岩法師先生、さっきの技は?」
「霧箱という術だ。相手を霧の中に閉じ込めるのだが、コチラからも攻撃が出来ないのが欠点だ」
宿舎に戻った2人が、安倍顧問に電話でチャッピーの件を報告していると
「どうかしたのでござるか?」
虎之助が、豚の生姜焼き定食を食べながら聞いて来た。
「鬼のロボットに襲われて、逃げて来たんです」
「また、ロボットでござるか」
「狂四郎は、どこにいる?」
岩法師が、たずねる。
「大阪城公園で仙道の特訓をするって言って、出かけたでござる」
「あそこはヤバいで!さっきの鬼ロボットが、まだ居るかも知れまへん」
「スマホで連絡してみるでござる」
虎之助が電話をかけるが、狂四郎は出ない。
「仕方ない、拙者がタヌキと一緒に見て来るでござる」
「姉さん一人じゃ危ないから、俺も行きますよ」
「大丈夫でござるよ。拙者の強さは、M1A2エイブラムス戦車108台分でござる」
「ええっ!米軍の戦車108台分でっか、さすが姉さんでんなぁ」
「2人ともアホなこと言ってないで、全員で行くぞ」
岩法師に促され、結局、3人で狂四郎を迎えに行くことになった。
その頃、狂四郎は大阪城公園に行くと言いながら、実は桜田刑事と心斎橋のフレンチレストランで食事をしていた。
「すいません、こんな高い食事を奢ってもらって」
「いいのよ、狂四郎君には助けてもらったから、そのお礼よ」
「桜田刑事を助けるのは当然ですよ。DSPの仲間で、いつも親切にして貰ってるし。それに‥‥」
「それに、なに?」
「それに、桜田刑事は僕にとって大切な女だから」
そう言い終わった時には、2人の顔は真っ赤になっていた。
狂四郎のバックパックの中から、スマホの着信音が鳴っているが、2人の耳には届いていない。
仲間の心配をよそに、2人の仲は急接近して行くのである。
大阪城公園では『国際電器保安協会』からの助っ人である、ライアンとマーゴットがタコ焼きを食べながら大阪観光をしていた。
「ホルスと氾会のやつ、俺たちを呼んでおいて連絡を絶つとは、ふざけてるな」
ライアンは怒っている様だ。
「もしかして、敵に殺られたんじゃないかしら」
「ホルスはともかく、切れ者の氾会が鬼や転生者に殺られることは無いと思うけどなぁ」
「氾会って本当に切れ者なの?アンタの見積もりは甘いから」
「俺は、人を見る目だけは自信があるんだ。だいたい第一印象で相手の器量がわかる」
「じゃ、さっきから、この辺をうろついている、あの男が何者か分かるの?」
先程から、チャッピーが公園内をうろついている。
「アイツは、人間では無いな。たぶんアンドロイドだ」
「なに適当なこと言ってんの。じゃ、あの女の子は?」
マーゴットは、大阪城公園に到着したばかりの虎之助を指さした。
「あの女の子の戦闘力は恐ろしく高いぞ。米軍のM1A2エイブラムス戦車108台分ぐらいある」
「そんなに強いの!もしかして、あの娘が転生者じゃない?」
「きっとそうだ。しかし敵ながら恐ろしい女の子だ。だが、俺も空母エンタープライズ3隻分の戦闘力を持つと言われた男だ、戦車ごときに負けはせん。あの女の子は俺が殺る」
奇しくも、大阪城公園に、アンドロイド鬼と『国際電器保安協会』のエージュントと、転送者の3組が鉢合わせてしまった。
火星では、『太陽系暗黒大魔王』が寝ている壺を刺激しないため、宮殿には誰も入れないように警備をつける事にした。
「これで500年は安心ですぅ」
パクチーは、ニコニコしている。
「そうですか、それなら良いんでチュが」
タコ太郎は、まだ『太陽系暗黒大魔王』の復活を恐れている。
念願であった打倒『山田タコ14世』を果たし終えた銅鬼は、不意に故郷である地球に帰りたくなって
「あの、パクチーさん。つかぬことを、お聞きしますが、アナタの魔力で私を地球まで送ることは出来ないでしょうか?」
と、たずねてみた。
「そうですねぇ、太陽から膨大なエネルギーが、こちらに向かって出てるので難しいですぅ。逆方向の木星なら行けますよぉ」
「木星ですか……」
ーー木星なら、まだ火星の方がマシだーー
落ち込んでいる銅鬼を見てパクチーは
「お父タマなら、なんとか出来るかも知れないですぅ」
と、励ますように提案してくれた。
「いえっ!お父様は起こさなくて結構です」
『太陽系暗黒大魔王』に起きられては、たまったもんじゃない。
「大丈夫だよ、銅鬼には僕たちが居るでチュよ」
様子を見ていた、タコ太郎も励ましてくれた。
ーーそうだ、火星にはタコ太郎や9人の鬼仲間が居る。俺は火星で生きて行こうーー
と、火星で暮らして行くことを決心する銅鬼であった。




