羅刹
虎之助がショッピングから宿舎に帰ると、ちょうど小太郎たちの修行が終わったところであった。
「ただいまで、ござる」
「あっ、姉さん。お帰りなさい」
激しい修行であったようで、小太郎と狂四郎はボロボロになっている。
「加藤は、何処でござるか?」
虎之助は加藤の居所を尋ねた。
「あいつは、お風呂に入ってますわ。油断しているハズやから殺るなら今でっせ」
小太郎は、加藤が殺されるのを期待しているようだ。
「そうでござるか」
だが、愛想なく虎之助は浴室に向かう。
ガラッ
「誰だ」
入浴中に、いきなり誰かが入って来たので、加藤は少し驚いた。
「拙者でござる」
虎之助である。
「男の入浴中に、若い娘が入って来るんじゃない」
加藤が咎めるが
「大丈夫でござる。拙者、見えないように、覚悟を決めて両目を潰して来たでござる」
と、意外な返答があった。
「なっ、なんと!本当か?」
ーー両目を潰すとは、ただならぬ決意だ。いったい何事が起こったのだーー
加藤は、虎之助の覚悟に驚愕した。
「ウソでござる」
しかし、嘘であった。
「なんだ、ビックリした。それで、なんの用だ?」
「聞きたい事があるでござる」
「風呂から出るまで待てんのか」
「待てるけど、アホを待つのは、アホらしくて嫌なのでござる」
ーークッ、こいつ。自分が一番アホのクセに、他人にものを教えてもらう態度じゃないなーー
加藤はムカついたが、グッと我慢して
「何を聞きたいんだ」
と、尋ねる。
「羅刹と呼ばれている鬼についてでござる」
「羅刹だと!」
思わず加藤は、湯船から立ち上がった。
「裸でござるな」
虎之助が加藤を見ながら言った。
「当たり前だろ、入浴中なんだから」
「貧相な身体でござるな」
虎之助は上から目線で言った。
「お前だって貧相じゃねえか!」
「拙者は、ムチムチで、けしからんボディでござる」
ーー嘘つけ、チビガリのクセに。だいたい、けしからんボディって自分で言うやつ初めて見たわ。やっぱりコイツは、とんでもないバカだーー
と、加藤が呆れていると
「頭がハゲかかっているでござるな」
虎之助が、加藤の濡れた頭部を見ながら言った。
「ほっとけ!それより、羅刹の事が聞きたいんじゃなかったのか?」
「あっ、そうだった。お主の面白ボディのせいで忘れていたでござる」
ーーくっ、ムカつく小娘だが、羅刹の事は気になる。とりあえず聞いてみようーー
「羅刹がどうしたんだ?」
「心斎橋で、拙者を襲って来たでござる」
「なんだと!よく無事に帰って来れたな。羅刹といえば、鬼神の中でも最強の部類に入るバリバリの武闘派だぞ」
ーーなんて事だ。羅刹が大阪に現れてDSPの転生者を襲うとはーー
加藤は、服を着ようと棚から自分の下着を取った。
「派手なパンツでござるな」
虎之助がパンツを見ながら言った。
「ワシのパンツは、どうでも良いから、皆んなをリビングに集めておいてくれ。緊急ミーティングをするぞ」
ーー羅刹のことを、皆んなに説明せねば危険だーー
「尻の穴が2つあるでござるな。それに変な臭いがするでござる」
虎之助が、鼻をつまみながら言った。
「尻の穴が2つもあるか!っていうか、ワシの尻は、どうでも良いんじゃ!早く皆んなをリビングに呼べって言ってんだろ!」
ついに、加藤はキレた。
10分後、宿舎のリビングでは、緊急ミーティングが行われていた。
加藤に岩法師、虎之助と小太郎、狂四郎もいる。
「ギャルとのデートで遅れちゃったじゃん」
デートから帰って来たばかりの武蔵も加わった。
「加藤さん。その羅刹っていう鬼は、そんなにヤバい奴なんですか」
岩法師が加藤に聞いた。
「奴は、鬼神の頂点に立つ士会鬼に次ぐ能力を持つと言われている強者だ」
加藤が説明する。
「という事は、全ての鬼の中でナンバー2というわけか」
言ってから、岩法師は溜息をついた。
「そんな奴が、なんで大阪に来たんや?」
小太郎も、さすがに少しビビっており、ノートに羅刹の情報を書き始めた。
「それは、ワシにもわからん。だが、皆んな用心するように。決して一人で戦ってはならん、すぐに応援を呼ぶんだ」
「拙者は一人でも余裕でござる」
虎之助は、一人でも殺る気である。
「甘いぞ虎之助。一度戦ったそうだが、すでに奴の術中にはまっておる。相手に大した事ないと思わせておいて、なぶり殺しにするのが羅刹の常套手段だ」
「悪趣味な奴でんな」
小太郎は、ノートに書き込んでいる。
しかし、すぐ隣にいる虎之助が、消しゴムで消していく。
「加藤さんは、羅刹と戦った事はあんスカ?」
武蔵が聞いた。
「ワシは無いが、京都DSPの転生者は何人か殺られておる。お前も、京都にいたんだ。ある程度は知ってるだろう」
「まあ、少し噂では聞いた事あるッスけど、実際に見たことは無いッスね」
武蔵は、あまり知らないようだ。
「京都のメンバーは、何人か殺されていると」
熱心に小太郎は、情報をノートに書き込んでいく。
そして、虎之助が消している。
「よし、だいぶ羅刹の情報がまとまったで。とりあえず、自分なりに対策を考えますわ」
と、満足している小太郎であるが、ノートは白紙であった。