なんでそんなに優しいんですか?
「で…貴女。…お元気そうですわね」
「ええ、お陰様で! 私、お姉様のお陰で、素敵な恋を見つけました!」
「貴女…人が身を削って嫌味を言っているのだから、少しは傷付いてくださいまし。」
私、本音を言っただけなのに。
「ゴホン。ところで貴女……記憶喪失って、本当ですの?」
「? ええ。まあ、別に何も困ってないですし、どうでも良いですよ。それより、お姉様の方こそ大丈夫ですか?」
「…呼び方。まあ良いですわ。気にしてたら話が進みませんもの。…私はこんな檻、出ようと思えば出られます」
「ええっ! お姉様、見掛けによらず怪力ですね!」
「違いますわ! …そうではなく、宰相である父に頼めば、何時でも出れる、という意味です。……貴女を支持する人は多くても、全てではありませんから。」
「なるほど。では、何故今まで出なかったのですか?」
私が尋ねると、お姉様は言い淀んだ。
「………貴女への…」
「え?」
「…ッ、貴女への義理立て、ですわ!…たかが権力争いで人一人殺しかけた私には、温すぎ、ですけれどね…」
……え…。
私は驚いた。だって、まさかそんな理由だとは思わなかったから。
「たかが私の為に……?…」
混乱の最中、思わず呟いたその呟きは、お姉様の耳にも届いたようだ。
「何言ってますの!?貴女、記憶を失って、自分を軽く見てるんですの!?」
そんなこと、ない……ない、はずだ。
………あれ?
「貴女は、…私が言うのもおかしいですが……ッ、敵ながら立派でしたよ!」
私が固まったのは、ほんの一瞬。
……はは。
………ははは。
乾いた笑みが漏れた。目頭が熱くなる。
視界がぐるりと回る。
今の今まで信じてた世界が、壊れていたと知るような。
大切に仕舞っていたものが、無価値だと知るような。
そんな、残酷な真実を告げられたような感覚だった。
…こんな私に、貴女はそんなに優しいお言葉を下さるのですか。
全く、貴女も酷い人だ。
「ちょ、ちょっと何泣いてるんですの!? …もう!このハンカチをお使いなさい!」
優しさが心に染みる。
…貴女は、本当に良い人ですね、お姉様。
そして、私とは正反対だ。
…何故、殿下は貴女を押し退けて、私なんかを選んだのでしょうか。
心が震えて、軋んで、涙は止まりそうもなかった。
……今なら、まだ。間に合うかもしれない。