なんでこんな奴が好きだったんですか?
私は、王宮の一室に泊めてもらった。
なんか、私は王子様のお気に入りだから、いつも庶民にも関わらず王宮に泊めて貰ってたらしい。
うん、わけわからん。
女官さんは、聖女だからーみたいな話をしてたけど、いや、それ、人格的な問題でそう呼ばれてるだけだよね?
庶民が王宮で寝泊まりって……うわー。
私、枕仕事でもしてたのか?
身分、弁えよう?
王子様もさ、止めよう?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「クラリス、話がある」
ノックも無しにそう言って入ってきたのは、あの王子様だった。
…顔は良いけどさ、この人、なんか……ねぇ。
あ、ちなみにクラリスってのが私の名前らしい。
「何ですかー?」
私は王子様の方を向いてそう言った。
すると、王子様は何故か顔をしかめた。
「何故、そんなに間延びした敬語なんだ。しかも、その無表情!
貴様、本当にクラリスなのか?」
馬鹿かなー?
「私、記憶喪失になったって、ご存知ですよねー?
私がクラリスなのか、今の私が知る筈ないじゃあないですかー。」
「私に口答えするな! クソ、忌々しいやつめ。」
わー。
この人は、自分をヨイショする人だけ贔屓するタイプか?
如何にもな感じの王子様だね。
まあ敬う気にはなれないから、このままの言葉使いで良いだろう。
「要件は何でしょうかー?」
王子は舌打ちしてから要件を話始めた。
「もともと、俺達は婚約する筈だった」
その前提がおかしい。
なんで、この平民だの王族だのあるらしいこの世界で、王子が庶民と結婚しようとするんだよ。
記憶喪失の私ですら違和感満載なんだけど。
「だが、お前がその有り様じゃ仕様がない。暫く、延期する」
そう言うだけ言って、部屋を出ていった。
…ええー。言うだけ言って帰っちゃったよ。
仮にも好きだった女子にそれはどうなの?
あんな感じの人と婚約するつもりだった私ってどんな人?
出世狙いの女狐?ダメ男好きの世話焼き?
それとも、盲目な女神様?
うーん、歪んだ私にはよくわかんないや。