なんでこんなに虚しいんですか?
披露宴での会食の最中、事件は起こった。
殿下が、吐血したのだ。
医務室に運ばれ、医師たちは最善を尽くしたが……。
死因は、毒だ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私は、ドレス姿のまま、会場を後にした。
端から見れば、新郎を亡くした新婦のご乱心…では通らないか。
大丈夫、誰にも見つかってないからね。
私は、一直線にあの山を目掛けて走った。
小さい二つの石の前に着いたとき、履いてたはずの靴は脱げ、純白だったはずのドレスは、赤茶色の土にまみれていた。
「…やったよ、おとうさん。おかあさん。」
隠し持っていた予備のナイフを、スカートの裏から取り出しつつ、呟いた。
「陛下はね、一連の出来事を、無かったことにしたかったんだって」
「そのためにはね、殿下が邪魔だったんだって」
「凄いよね。実の息子を手に掛けさせるなんて」
「陛下は、ヴィヴァーチェ様に世襲して欲しかったって、言ってた」
「私もそれが良いと思う」
「陛下は、協力すれば褒美をやるって言ってたけど、絶対に口封じに殺される」
「殺されるくらいなら、自分で死のうと思ったの」
「それにしてもさ、皮肉なもんだよね」
乾いた笑みを浮かべた。
私、笑うのって苦手。なんか、騙してるみたいだもん。
だから、忘れてからは、思い出しても無表情だったのに。
普段笑ってた聖女サマが無表情だと、怖いんだって。
「忘れて、計画は自分でおじゃんにしたのに、ちょうど思い出したタイミングで、陛下に焚き付けられるなんてさ」
「陛下は、自分に一番似てるのはヴィヴァーチェ様だって言ってたけど、やってることは、正反対だね」
「でも私、結構頑張ったでしょ?」
……だから、もう良いよね…?
私は、そう呟いてから少し考えてナイフを手放し、殿下と口付けたその唇を舐めた。
仄かに感じる味は、甘かった。
これが、初恋の味というものなのだろうか。
…殿下も、この味を味わったのだろうか。
カラン、カランカラン……と手に持っていたナイフが転がる音がする。
山は、いつも以上に静まり返っていた。




