なんで心配してるんですか?
懐かしくて、優しくて。
とっても幸せだった。
思い出すと、一滴の涙が零れる。
私はーーー。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……?」
目が覚める感覚。
スッと頭が冴えていく。
まるで、新しく生まれたような気分だった。
「気付いたか!?」
目を開けると、王子様みたいな人が、そう叫んできた。
…だれ?
「ああ、ご無事で良かった…」
「クラリス様…」
「気分は、悪くないか? 具合は?」
口々にそう言い募ってくるのは、私を取り囲んだ美形の男性方。
騎士風の人、執事風、王子風など色々な人がいるが、共通してるのはみんなイケメンだということだ。
「…あんたら、だれ?」
思わず口からそう零れた。
だってこの人たち、本当に知らない。
私の言葉を聞いたイケメンたちは驚きの表情だった。
「そんなッ…まさか、俺のことを覚えてないのか?」
「それよりッ、笑顔じゃないクラリス様なんて…」
「しかもッ、その言葉使い! 一体、どうされたのですか!?」
三者三様の答えが返ってきた。
いや、だから、あんたたち、だれなのさ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
驚くべき事実が浮上。
なんと、私は記憶喪失らしい。
…まあ、なんとなくそんな気してたよ。
普通は驚く筈なのに、私は驚くほど冷静だった。
あれかな、記憶喪失って言っても、忘れたのが自分とか人間関係だけだからかな。
言葉とか、ものの名前とかは分かるから、あんまり危機感を感じない。
なんでも、私はあるパーティーで倒れ、そのまま、2日ほど眠っていたらしい。
どおりでねぇ。身体がだるいわけだよ。
そして、起きたらビックリ。記憶喪失になってましたーって。
…うん、そうだね。普通の人は驚くわな。
あのあと、驚いてパニクってる美形方を、颯爽と現れた女官さんたちが宥め、ついでに私に簡単に状況説明をしてくれたのだ。
記憶喪失になる前の私は聖女と周りに言われてたらしい。
庶民出なのに、貴族にも臆することなく果敢に立ち向かい、真っ直ぐで、優しく、誰にでも平等で…。
わぁ本当。いかにも聖女って感じだね☆
でもさぁ、私、なんか嫌だな、そんな人。
偽善者…っていうか、嘘臭い。
でも、聞くところによると、私は絶大な人気を誇っていたらしい。
けれど、それを鼻に掛けることもなく……。
うん、私にゃあ無理っす。
そんな人、私じゃあありやせん。